海に行った日
「海に行こうか」
次の日、講習から帰って来た時にいきなり言われた。真由都は友達とプールに行ったらしい。お母さんは続けた。
「真由香、全然そういうの行けてないでしょ。連れて行ってあげるよ。1時間くらいだけだけど」
「うん!」
私は泳ぐのが好きだ。運動は苦手だけど、泳ぐのだけはちゃんと出来る。バタフライまで泳げるのだから、我ながら大したものだ。水着を着て、車に乗り込む。お母さんと話すのはいつも楽しくて、時々は2人きりがいい。真由都もお父さんもいないのも、お母さんがいれば、話に花が咲くから。そんなふうに思うのも、私のくだらない甘えなんだろうか。
海に着くと、波が穏やかで泳ぐのには最高だった。サーファーとかにはすこし気の毒かもしれない。それほど波がなかった。体操なんてめんどくさくて、躊躇いなく海に駆け込む。お母さんは運転があるから基本服は濡れないように浅いところにいるらしい。そんなお母さんに手を振って、私は海に飛び込んだ。少し冷たい水が気持ちいい。ゴーグルをかけて泳ぐと、流れがあるからプールよりも楽に泳げる。お母さんと首に水がくるところまでと約束したから止まったけれど、海って本当に危ない。どこまでもどこまでも続いているから、どこまでもどこまでも行きたくなってしまう。プカリと海に浮くと、視界いっぱいに青空が広がった。それはいつか、隼が指差した空と、なんら変わりない。当たり前なのに、過ぎた時間を思うと、唐突に泣きたくなった。ふざけてゴーグルを外すと、海水が目に染みた。
私の恋は、失恋なんかしていないんだと思う。だって、私の恋はきっと、すごく淡くて輝かない恋だったから。私は結局、友情を取ったから。これは失恋なんかじゃない。そう思ったら、少し元気が出た。
昨日は、シンデレラみたいな奇跡を羨んだりました。だけど、私はきっとあんなに素直でも、一途でもないから。私にあんな奇跡を望む権利はない。そう自虐気味に思ったら、なんだか少しくだらなくもなった。
私に、シンデレラストーリなんていらないんだと思う。私は既に幸せだから。
同じ空の下、という言葉をよく聞くけれど。でも少しでも離れていたら、同じ空でも、見える景色は違ってしまうのでしょう?なら、同じ空なんていらないから。私はきっといつか、運命なんかじゃない、好きな人を見つけるから。浜辺にお母さんが見えた。平泳ぎをすると、空は見えなくなってしまった。
『どこまでだって、きっといけるな!』
そう。私はどこまでも行けるから。取り敢えず、今はもう忘れよう。きっと飲み込むことだけが、私を遠くへ連れて行ってくれる。意味は変わってしまったけれど、本当に隼は私に取ってのフウだったのかもしれない。
行き着いた先から見たら、こんな悲しみ、きっと一瞬の、風の前の砂のようなものだから。
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