夏休みの日々
大会も終わり、成績表が返され、一学期は終わった。しかし、中学と違って夏休みー特に前半は、部活ばかりだった。休みの日にも講習やらなんやらが入っていて、せっかく近くにあるのに、今年は海にもプールにも行けなさそうだった。
でも、去年のように腐った様に過ごさないだけ、まだマシなのかもしれないとも思う。夏休みは過ぎるのが早く、楽しいことを織り込みながらも、いつのまにか残りは半分ほどになっていた。
相変わらずバドミントンは弱く、自分が好きとは言えないし、宿題もやらなきゃと思うだけ。けれど、それでも前よりいい。
中学の頃の一番かもしれない友達と会えた。部活に行くと時々紗奈ちゃんに会える。ダンス部にも友達がいて、その子ともよく会った。
だけど。
『あ、隼くんの幼馴染だぁー。あいつ大して可愛くもないよね』
友達の香菜ちゃんは気にしないでいいと言ってくれるけれど、少し辛かった。ダンス部の女子の1人は、どうやら隼が好きらしい。だから、私のことも知っていてこんなことを言うのだろう。でも、辛いのは少し。他は基本楽しい。私はそう思っていたから、夏休みを楽しいと言える気がする。
「おー、まゆじゃん!」
私のことをこう呼ぶのは、この高校では数人しかいない。しかも男子の声となれば、たった2人。1人は昔だけど、隼。もう1人が。
「
「そうそう。だからこいつと一緒に帰ってたってわけ。まゆも一緒に行こうぜー」
私と隼の、小学校の頃からの仲良しである藤岡海輝が連れていたのは、当の隼だった。いつか、渡り廊下で隼と話していたのも海輝で、2人は本当に仲がいい。私もそれに混ぜてもらうことがあって、時折、方面も一緒なんだからと3人で帰っていた。これをよく思っていない人がいるのは知っている。特に女子。だけどこれは、恋愛とか関係なく楽しい下校時間。だから、気にすることもないと思う。
「で!こいつに終わってないよなって聞いたらー。隼、平然とした顔で『終わった』とか言いやがるんだぜ?」
「もう八月なのに終わってないとは思わないだろ」
「え、でも私はまだ」
「俺もー。宿題ほんと多すぎたよな」
「真由香も海輝も、頭いいのになんでパッパと終わらせないかなあ」
「お前が「君がおかしいんだよ」」
この時間が、私は心の底から楽しくて大切だから。
この時間が消えるくらいなら。隼に思いを告げてこの時間が変わってしまうのなら。それならば、3人の時間を選びたいと思うほどに。
その日の講習には、偶然にも紗奈ちゃんが来ていた。けれどその日、紗奈ちゃんはひどく気まずそうだった。気になりはしたけれど、先生がいるので聞けない。仕方なく、聞くのは後回しにした。帰りに、お互い当たり前のように並んで帰る。もうすぐ来るお盆が終わったら夏休みも終わりだよねと話しながら、どこか、紗奈ちゃんの顔は曇っていた。その理由を知って、私は驚いた。
「真由香は、知ってる?」
「何を?」
紗奈ちゃんがこんなふうにあやふやな話始めなのは珍しい。どうしたのだろうとは思ったが、なんの検討もつかなかった。その瞬間、紗奈ちゃんが傷ついたような顔をした気がしたのは気のせいだろうか。
「ほんとに知らないの?石倉くんのこと」
「隼?え、なんかあったの?」
嫌な予感がした。そして多分、その予感はあっている。
「石倉くん、昨日」
一足先にきた悲しさかもよくわからない衝撃に、息が詰まった。
「前と同じ子が…石倉くんにもう一回告白して。付き合ったん、だって」
どんな顔を、声をすればよかったのだろう。きっとみんな、同じ答えをすると思う。
「そうなんだ」
分からないから。分からないから、笑うしか、なんともないふりをするしかない。
すぐに駅に着いたので、上り方面の紗奈ちゃんとはあまり話さずに別れてしまった。いつも通り電車に乗り、家に着く頃には少し日差しが柔らかくなっていた。
家に帰ると、みんな出掛けているのか誰もいなかった。ちょうどいい、と思った。
制服から、着慣れた部屋着兼私服に着替えてベッドに沈み込む。涙を止めることなんて、できなかった。涙が溢れて溢れて、仕方なかった。涙が落ち着く頃には、部屋は夕日の色で満ちていた。まるで空の色を使って、部屋の壁を塗ったみたいだった。
最後にポロリと落ちた涙が、ジワリと目に染みた。
(別に、こんなふうに知りたくなかったな)
目に染みるのは他にもあるのかな、と思った答え。汗。海水。そして、涙。すっかり忘れていた。私が何をしなくたって、人との関係はあっさり変わってしまうものなんだって。
「ただいまー」
真由都の声がする。泣いていることを隠すために、私は寝たふりをした。
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