部活と日々
「宮野さん。こっちのネット張ろう!」
「分かった」
少し手惑いながらも、同じ1年バド部の斉藤さんとネットを張る。準備が終わると、ストレッチや準備体操、ランニングなんかをやる。最近は、走る時間が3分から5分に変更された。
元々運動音痴の文化部だった私なので、フットワークをやる頃には、汗をかなりかいている。こんなに汗をかくとは知らなかった。最初はフットワークではなく素振りばかりだったし、今と比べると涼しかったから余計にそう思うのかもしれない。
「暑いねー」
「ほ、本当に…」
斉藤さんはバドミントンは初心者でも、運動部ではあったらしく体力もある。今も私とは違い、どこか余裕の残った表情をしている。
フットワークの後は少しだけ時間がある。斉藤さんが先輩に呼ばれてしまい、私は1人になってしまった。この部活には、1年女子は2人しかいない。私と、斉藤さんだ。斉藤さんの名前は
(染みるな。海水みたい…)
汗が目に染みるのは、本当に海の水が目に入った時と似ていた。よく考えれば、どちらも塩水なので不思議ではないのかもしれないが。
(他に、似たのはあるのかな…汗、海水…うーん)
ぼんやりと考えていたところで、合間の時間は終わってしまった。もうすぐ学年別大会で、今は試合がメインだ。私ももちろん出る。2人しかいないのだから必然的だ。だが、なんとなく不服な気持ち悪さが残る。弱い私にそんなこと言えないのは分かっているのだが、それでも思ってしまうのだ。
ー私は、不釣り合いなんじゃないか、と。
そんなことを思うと、少し悲しく、落ち着かなくなる。怖い気もする。ぐちゃぐちゃでよく分からない。それでも、練習はしなきゃいけない。こんなふうにうだうだ考える自分は嫌いだ。
「宮野さん!今日は打ち合い練習だって!3コート」
明るくて上手で、先輩とも先生とも仲のいい斉藤さんに、嫉妬する自分も。仲良くしたいのに勇気もなくて変われない自分も。
嫌いだ。
部活が終わるのは6時30分。そこから帰ると、家に着くのは8時近くなってしまう。既に日は落ち、チラチラと星が見えている。家に帰ると、食卓に真由都が座っていた。
「あ、姉ちゃんおかえり!今日の夕飯カレーだぜ」
「おかえり。疲れた?」
たしかに、部屋にはカレーの匂いが漂っている。真由都はもう食べ終わったらしく、デザートにパイナップルを食べていた。
「つかれたー。でももうすぐ夏休みなんだよね。テストも終わったし」
どうにかして気分を上げようとした私を、弟がサラリと落とす。
「でも、その前に大会なんだろ?」
1週間ほど前と同じ様に、私は真由都をつつく。
そして思う。こんなに素敵な家族が、楽しい時間があるのだから。部活の少しの気の重さなんて、きっと些細なことなんだ、と。けれど、それと同時に思う。
(みんなもっと大変なはずなのに、こんなことで弱る自分はわがままだなあ)
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