私の愛しい貴方(ざまぁ) かなりの残酷表現や汚い表現あります。
コッコッと、手持ちのキャンドルを灯りに、薄暗い塔の中の階段を、静かに登っていく足音が響く。
塔を登る少女は、足元の暗さも慣れてるのか、覚束なさを見せることなく、少女─ブリジット─は、階段を登って行く。
ガチャン、と大きな音を立てて頑丈な南京錠の鍵を開けると、ギギ……と軋む音を立てながら、扉を彼女は開けた。
「おはようございます、マリユス様。昨夜はゆっくり眠れましたか?」
ほぼルーティンとなった部屋に入る時の挨拶の声がけを行うと、そのまま返事も待たずにブリジットは部屋へと入る。
「外はですね、今日はとても良い天気なんです。部屋の窓からも暖かそうな陽光が差し込んでますでしょ?」
「……」
相変わらず返事がないままだが、それでも構わずブリジットは鼻歌を歌いながら、部屋に立て掛けてあるデッキブラシを手に取る。
「さて、まずはお掃除からですね」
言いながらも、持ってきていた桶に水魔法で水を溜めると、ゴシゴシと部屋を、昨日分のマリユスが出した汚物を掃除していく。
部屋はブリジットが設置した消臭の魔道具で臭わない。が、垂れ流しになっている汚物自体は処分しなければならない。ブリジットは嫌な顔一つせず、マリユスの汚物を掃除し袋に入れ片して行く。どの道糞尿は畑の肥料用に使えるのだ。あって困ることは無い。
床を綺麗にすると、マリユスの身も全身綺麗にし、清潔な衣服と下着を着させていった。
男爵令嬢とはいえ、貴族子女であれば通常やらないであろう事を、彼女は楽しそうに進めていく。
「さて、まずは今日の飲物ですね」
「っ……ぅ、あ……」
その言葉に、それまで床に横になっていたまま無反応だったマリユスが、初めて反応を返した。
力なく開く瞳は濁っており、天井を見てるだけだったが、それでもブリジットの言葉の意味は通じたのだろう。フルフルと力なく首を振り飲み物を、拒否するもそんな仕草すら、ブリジットはクスクス楽しげに見て笑った。
「マリユス様、可愛らしいですわ」
ベッドに力無く横たわるマリユスは、ブリジットから逃げようと身を捻るが、ろくに体に力の入らないマリユスが、ブリジットから逃げ切れる筈もなく。クスクスと笑い続けるブリジットに抱き締められるばかりだった。
「や、め……ブ、……ジ」
「んもう、我儘は駄目ですわ、マリユス様。ふふ、そんな我儘も、もちろん好きなのですけれども。さ、お食事の前にこちらを飲みましょうね」
「ぐ、っ……ぅ」
マリユスを腕の中に抱え、傍に置いていた消化にいい食事と、グラスに注がれた水。
その飲物が目に入ったマリユスは、飲みたくないとばかりに、口を固く結ぶ。
そんな仕草も、ブリジットからしたら、可愛い子供の抵抗のようなものにしか感じず。マリユスの鼻を摘むと、そのまま静かに待った。
呼吸が出来なくなり苦しくなったマリユスが、カハッと口を開けた所をすかさずグラスを口に当て、流し込む。
「……!! ごふっ……!」
飲まないようにしたくても、ある程度口に流し込まれた所で無理やり口を閉じさせられ、そのまま鼻も再び摘まれる。そうなると結局嚥下するしかなく、ゴクリ、ゴクリ、とマリユスは水を今日も口にした。
「良い子ですわ、マリユス様。さぁ、残りも飲んでしまいましょうね」
即効性があるのか、少しすれば先程よりも更に瞳がトロンとし生気を感じられず焦点も朧になったマリユスは、差し出された飲物を、今度は拒む事なく静かに飲み干していく。
チラリとブリジットは、マリユスの下半身に目をやる。
腿から下が何も無いその姿に、ブリジットは頬を染めて可愛らしい笑みを浮かべた。
「マリユス様、お足のない姿、まるで小さな赤ん坊のようですね。切って良かったですわ」
嬉しそうにそう呟き、優しく切断された部分を撫でた。
ブリジット・トート男爵令嬢が、マリユスを引取ってから、ここ、トート邸の離れにある小さな塔に、マリユスを幽閉した。
意識を失った状態で運び込まれた為、気が付いたら彼はこの部屋のベッドの上だった。扉は念の為に鍵をかけられてはいるが、マリユスは足枷をつけられており、ベッドから降りる事すら彼は出来ない。
大声で喚いてると、やがて食事を持ってブリジットが来るようになり、今後自分はここから出ることはできないと告げられた。
「ふざけるな! なんで俺がこんな、狭い汚い所に閉じ込められられるんだ!」
「そう仰らないでください。私がこれから生涯マリユス様のお世話をずっとしていきますから」
「ブリジット、お前は俺を愛してるんだろう? なら、こんな狭く汚い場所に閉じ込めるのは、おかしいと思わないか? ほら、外に出たらまた一緒にデートをしよう。町で食事をしたり、あぁ、そぅだ、ブリジットが好きそうな服や宝石もまた買ってやるから」
「ふふふ、大丈夫ですわ」
一生懸命に言葉を紡ぐ姿が可愛らしく見え、ブリジットはクスクスと柔和な笑みを浮かべる。
「それに今までのお金は、伯爵様の家のお金ではありませんか。廃嫡されたマリユス様にはもう、自由になるお金はございませんでしょう?」
「っ……」
「綺麗なドレスや宝飾品も好きではありますけれど……私は愛する人とずっと一緒にいられたら、それだけで充分なのです」
ニコリと瞳を細め、横になったままのマリユスの頬に、ブリジットは手を添える。
「マリユス様。マリユス様は私を愛してくれておりますか?」
「あぁ、勿論だとも。今までもずっと好きだと伝えてきただろう?」
「ええ、そうですわね。私もマリユス様のその言葉を疑った事はございませんでしわ。でも、先日の伯爵家のパーティ以降、マリユス様はジークリット様への執着をお強くされておりますのよ」
「それ、は……」
「あの時に何かあったのかは、私は存じませんが……気が付いてますか? マリユス様」
「な、何をだ」
「あのパーティ以降、マリユス様が私を見る目に熱がこもらなくなった事をです」
確かにあの時までは、ブリジットを愛すると言った言葉に嘘はなかったのだと、ブリジットは確信している。
だが、今はそんな視線を感じられないのだ。
それでもブリジットは、そんなマリユスを愛している。
もともとジークリットがマリユスの昔婚約候補に一度上がっていたの知っていた。マリユスが婚約云々言ってはいたが、軽い冗談の様なものだとも思っていた。そんなのは少し調べればわかる事なのだから。
ジークリットにしても、フォートリエ辺境伯子息と付き合っているのは予想していたし、婚約していてもおかしくない位には仲睦まじい姿をよく見かけていたのもある。
マリユスから、デートの時に愛していると言われた時は素直に嬉しかったし、自分が嫁ぐのでも婿入りでも、なんなら平民として生きていくのでも、マリユスと一緒であれば生きていけると、そう思っていた。
だからこそ、まさかあんな大々的に、婚約を破棄するとか、無茶苦茶な事を言うとは思っていなかった。
ただそれを聞いた時ブリジットは、心で決めていたことがある。
この人は絶対逃さないと。
ブリジット自体、ジークリットの事は尊敬してるし、爵位もお互い男爵と子爵なのもとあり、仲が良いほどではなくとも、会話をたまにはする適度のの間柄にはあった。
ジークリットに迷惑を掛けたくはなかったし、マリユスは捕まえておきたい。
その上でパーティの騒ぎもあり、マリユスが廃嫡されたと聞いた時に、ブリジットはチャンスだと思った。
今なら自分のそばにおいて置けると。
父に話しても、一人増えるくらい経済的に困らないと言っていたし、トート家には、優秀な可愛い後継ぎの弟がいる。
婿入りして、暮らす事に父も構わないと言っていた。
マリユスは幽閉される事には間違いなく承諾しかねるだろうと思ったため、ブリジットは彼を逃さない様にする計画をとっとと実行に移すことにした。
ブリジットの魔法属性は水。
魔力の値も強く、詠唱すれば、通常値よりも強い回復力をもつは薬を生み出せたのがわかり、ブリジットはそれならばと、その詠唱の仕組みを調べてアレンジした魔法を生み出すことに成功していた。
それは無味無臭で見た目はただの水でしかないものだ。
マリユスの食事にそれを水として盆に載せる。
幽閉とは言っても、部屋はそれなりの広さがあり、明り取りもある程度の大きさがあるので、部屋も然程薄暗くはない。
食事も最初の頃は消化にいいものではなく、パンや温かいスープ、サラダと肉、水と決して粗末な食事にもしていない。
マリユスは最初閉じ込められてるからもあり、食べるのを拒否していたが、空腹には耐えられなかったのだろう、3日もすれば食べるようになった。
そして、ブリジットの生成した水を飲み始めて1週間もすると、その効果は出始めてきた。
「マリユス様、ごきげんよう」
「……」
「あらあら、今日は静かですね。」
「さ、今日も美味しい食事をお持ちしましたわ」
ぼんやりとした表情のまま、マリユスはスプーンに掬ったスープを口に当てられ、それをゆっくり嚥下する。
「いいこですね、マリユス様」
「ぁ……」
彼女の作ってる水は思考を奪い、体の動きを鈍くする水だ。
思考は鈍化し、動く事も億劫にさせる成分を含んだもの。
一気に奪うのではなく、少しずつ体に効果が残るように蓄積されるように、時間をかけてブリジットはマリユスの思考を奪った。
「だ、せ……」
「あら、まだそんな事を呟く事ができるのですか。マリユス様の精神力は私が思ってたよりもお強くあるのですね」
「っ、……」
「でも駄目ですわ。マリユス様は私のなのです。ここでずっとお世話をして差し上げますわ」
マリユスは逃げようと両手を震えさせながらもブルブル動かす。
「ここから出ようとするなんて駄目ですわ。戻る家もないのにどこに行かれるのです」
「っ……」
「……ふふ、逃げれない様にしないとですわね。おいたが過ぎる子には、それなりの処置は必要ですわ」
そう言ってブリジットがある日持ってきたのは、痛みを薄くさせる水と斧。
ゆっくり水を飲ませ、痛みが感じにくくなってるのを確認すると、ブリジットは躊躇うことなく、持ってきた斧で、マリユスの両足を腿の辺りまで切断した。
女性の力だから一度で切断できるわけもなく、ブリジットは何度も何度も、何度も何度も斧を振り下ろす。
痛みは薄くとも全く無いわけではない。ましてやそれが、自分の足が切断されてる痛みなのだから、マリユスは声を上げるが離れの室内の一室なのもあり、その声がブリジット以外の耳に届く事もなく。
また両手両足も暴れない様に、ベッドの柵に紐で縛り付けられていた。
そんな状態でブリジットに、自分の足の肉を断たれ、骨をバキバキと切断されていく感触にマリユスは涙を流し失禁をし、声を上げ続けた。
「ふう、男性の足は筋肉で硬いですわね」
途中から自分の足の惨劇に耐えられず失神したのもあり、思ったよりも時間がかからずブリジットは切断を終わらせるが、それでも全身汗まみれになった。
ベッドや壁、マリユスやブリジット自身も、血で真っ赤に染まっている。
このままではマリユスは失血死もしくは、手当をしても感染からの死が待つだけだが。
そうならないように、ブリジットは詠唱からの回復魔法を唱え、傷口を塞ぎ体力を回復させた。また、部屋の汚れも水魔法で洗い流しクリーン魔法で綺麗にした。
失禁の処理をし、涙や涎や鼻水、口から溢れる泡を拭いてマリユスの身も綺麗にすると、ブリジットはまるで掃除が完了した時のように額の汗を拭った。
「フフ、これでマリユス様はもう、ここから出られませんわね」
そうして、毎日思考と動きを奪う水を生成し、飲ませる様になったのである。
「マリユス様、愛しておりますわ」
「…………」
「ずっとずっとⅠこうして一緒にいましょうね。」
クスクスと笑うブリジットの笑いが、いつまでもいつまでも、部屋に静かに響くばかりであった。
☪︎⋆。˚✩.˖⋆*・✧✲゚*♪•☪︎⋆˚✩
麻酔が完全に痛みを無くさないようにブリジットは出来ますが、あえて痛みを残す程度にしています。
その方が切断時に悲鳴声を聞けるし、今後逃げようなんて意思も無くなるだろうという考えからです。
ブリジットの父親や弟は、ブリジットが何をしてるか知ってます。
別に家にも商売にも影響ないし、伯爵家との繋がりも持てて寧ろ商売
繁盛してるのもあり、本人が幸せならそれでいいよのスタンスです。なお母親は弟を産んで数年後に亡くなってます。
番外編のざまぁ話で完結の予定だったのですが、ジークリットの兄達の話を少し書きたいなと思い、少しずつ書いてます。3000文字位の短い話になるかと思ったら、少し長くなりそうな感じです。
シスコンな2人の話も、読んで頂けたら嬉しいです。
【本編完結】無詠唱のが、必ずしも強いとは限りませんのよ? 九十九沢 茶屋 @jostaberry
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