それぞれのこれから。

 あの騒動の後、騒ぎを知って私がマリユス様に怪我を負わされた事を知ったお兄様達のお怒りか、とても大変でしたわ。

 

「ジークに更にケガを負わせただと!? よし、今からバシュラール家に殴り込みだな」

「それじゃ僕は、七代先まで祟る呪いの闇魔法を呪法師(友人)に依頼してくる」

「……あの。ルイ兄様も、アレク兄様も落ち着いてください」

「よし、私は、伯爵に莫大な慰謝料と領地でも請求してくるかな」

「お父様……」 

  

 どこまで本気なのかと聞けば、三人共「いや、本気だし」としか返って来ないのが分かるので、私や執事、侍女達で必死に止めたなんて一幕がありつつも。|(お母様やお姉様は、笑って見てるだけでしたので、止める気は無かったのでしょうし)

 

 実際貴族の、それも過去に怪我を負わせてしまった相手に、再度の怪我、拉致、暴行未遂等を起こしてしまったため、爵位が上の方とは言え、バシュラール伯爵はひたすら我が家に謝罪の一辺倒だったとの事。

 また、我が家だけでなく、多数の人間に魔法で動けなくさせた事からも、方々にまでひたすら謝罪されるばかりで、あんな息子がいるばかりに、流石にお気の毒に……となってしまっいましたわ。

 

 

 

  

「そもそも、卒業パーティの時に婚約発表をする事になったのって、陛下の口から盛大に発表したかったから、なんだよね」

 

 伯爵家のパーティ騒動から10日程して、漸く諸々のやり取りか終了し、私とヴィルは我が家の庭の東屋でティータイム中です。

 

 話す内容が内容だから、一旦護衛の騎士や侍女達には会話が聞こえない程度の所にまで下がって頂いております。

 

「まぁ、陛下とヴィルのお父様はご学友でしたしね……」

 

 料理長の作ってくれた焼き菓子を1つ口に、ハハ、と苦笑しながらヴィルがミルクティーを一口コクリと飲み、私も菓子を一つ。

 

 今回の騒動、早くに婚約を発表させてれば起きなかったのではないのかと、陛下からも謝罪の機会をと言われたけれど、これは丁寧に辞退も申し出たわ。

 婚約の発表をしなかったのと、マリユス様の騒動は別物ですものね。

 

 ただバシュラール伯爵からは、今後マリユス様を私に近づけさせないように、術式を施されたと報告を受けたのですが。

 

「伯爵が、そこまで思い切るとは思わなかったわ」

「いや、俺としてはやってもらって良かったよ。ルイ殿達も安心したって言ってるじゃないか」

「……そうね」

 

 マリユス様が、前世のあの事に関わる方でなければ、そこまでしなくてもと言えたのですけれども。

 もし、術を施さなかった場合、いつまた彼が先日の様な行動を取られるかと思うと、やはりそこは恐怖でしかなくて。

 パーティの日にマリユス様から襲われかけた事は、私の中でも思ってた以上にショックだったのか2日程ではありますが、寝込んでしまいましたし。

 ……そうですね、私に接近出来ない以外は普通に生活は出来るとの事でしたし、施術して貰って良かったのでしょうね。

 

「マリユスと言えばさ、ブリジット嬢が俺は意外だったよ」

「ブリジット様については、私も驚きだったわ」 

 

 マリユス様はヴァシュラール伯爵の意向で、領地で軟禁の様に生涯過ごさせる事が決まっていたのですが、ブリジット様が、自分の領地で世話をすると引き取られたのよね。

 ブリジット様の家は男爵位ではありますが、主に民から下級貴族を購買層とした服飾品や娯楽商品、低利子の金融業で商売を営んでいて、これが大当たりして、資産はかなりあると私も聞いております。

 そんなものですから、トート男爵曰く「一人食い扶持が増えた位で困る事はないから」と、男爵了承の下、マリユス様はブリジット様に婿入りし、献身的なまでにお世話になってるとの事をチラリと噂に聞きました。

 

「トート男爵からしたら、伯爵位と繋がり持てるし、資産だってヘタな貴族達よりもあるから、そりゃ構わないだろうけれど、あのマリユスの何が良いんだろうなあ、ブリジット嬢は」

「そうね。私には分からないけれど、きっとブリジット様にはブリジット様なりの、マリユス様に対して好きになる部分があったのでしょうね」

 

 数日前に一度だけ、ブリジット様とお会いする機会があって、本当に良いのかとそれとなく伺ってみたのですが、「皆様、特にジークリット様からしたら、不思議ですよね。それでもマリユス様が好きなんです。私で良ければこれからもお傍にいたいんです」と、儚げに笑ったブリジット様の顔が忘れられません。

 

「そういうもんなのかな。俺はもう、ブリジット嬢の幸せを祈るだけだ」

「ええ、私も同じ気持ちだわ」

 

 

 そのまま暫く菓子を食べたりお茶を飲んだり、他愛無い話を続けて、紅茶のお代わりを下がらせている侍女にお願いしようとした所で、ヴィルかこちらを見て笑っているのに気が付きました。

 

「どうかしたの?」 

「ん? もう少しなんだなって思ったら嬉しくなって」

「え?」

 

「式を挙げる時まで。ジークが学園を卒業するのが3ヶ月後。それから半年後に式を挙げるから、もう1年切ってるんだなと思うとね。あと少しでずっと一緒に居られるんだなと思うと待ち遠しいなって」

「本当ね。私も早くその日が来るのを楽しみにしているわ」

 

 とは言うものの、今でこそお互い楽しみだって言ってるけれど、当時は随分とヴィルが、本当にいいのかと何度も何度も彼は確認してきていたのよね。

 

 観劇に行くことは出来ても、役者としての人生からは遠のくとか、鄙びてるとは行かなくても王都ほど栄えてはいないから、不便な思ったりするんじゃないのかとか。

 

 この辺りが気になっていたのか、心配そうに何回か確認されたのです。

 

 私は役者(前世では声優もしてましたが)としては、前世では夢の途中て死んでしまいましたが、生まれ変わったこの世界で、貴族としての勉強をしつつも、思う存分やってこれたと思っております。

 それに、貴族としての務めを疎かになんて出来ませんし、元々私の中でも、結婚する迄の間だけと決めていたので、ヴィルが気にする必要は無いのです。 

 ヴィルは人が良いのは好ましいのですが、心配性な所が玉に瑕と言いますか……。

 更にはお兄様達が、私を泣かせたら即連れ帰るからなとかヴィルに口を出すのもあって、暫くは満足行くまで話し合ったりしたものです。

 

「式が近付くにつれて、お母様やお姉様、お父様はいいけれど、最近またお兄様たちが、やっぱり無かった事にするべきじゃとか言い出して来てるのだけれどね」

「え」

「そんな困った顔しなくても大丈夫よ。きちんとお兄様たちへは説得をしているから」 

「君を迎え入れるのに一番の難関がまた立ち塞がってくるのは、もう勘弁願いたいよ」 

 

 あら、ヴィルが打ちひしがれてしまったわ。人魂でも周囲に浮かびそうなどんより具合ですわ。

 でもそうよね。お兄様たちが最後まで私達の結婚に首を縦に振らなかったのですものね。またあの時みたいのは、ヴィルからしたら避けたい所ですわね。

 私は頭を垂れてつむじが見えたヴィルの頭を、ワシャワシャと撫でてしまいましたわ。

 

「ジーク?」

 

 突然撫でられたからか、ヴィルがゆっくり顔を上げて私を見上げてきたので、そんな彼に近付き、私は額をコツンと当てます。

 

「そんな顔をしないで。今は、貴方の隣でウェディングドレスを着る日が、私の今の一番の楽しみなのだから。お兄様達はちょっとばかり、過保護だけれど、ヴィルの事も認めてくれてるのよ」

「そうなのか?」

「えぇ。先日のマリユス様のパーティで、私を助けてくれた事に強く感謝していたもの」

 

 その事を伝えれば、助けるのは当然のことだし、むしろ怪我をさせてしまったのだから、怒られ殴られる位の覚悟だった。とか言われてしまったのですけれども。

 お兄様達も、事情をきちんと調べて、ヴィルに非はない事は確認してますし、マリユス様が原因だと分かってますから怒りはしませんのよ。

 ヴィルはその言葉に、そっか、と呟くと嬉しそうに笑ってくれました。

 ションボリしてるよりも、やっぱりヴィルは笑ってくれる方がいいですわ。

 

「結婚式、素敵なものにしましょうね、未来の旦那様」

「よろしく、僕の奥さん」

 

 そうして私達は笑い合い、その場で重ねるだけのキスをしました。

 

 

 

 

 その後、私は嫁いだ先のモワ領で魔術師団を作り上げて、詠唱魔法も無詠唱魔法も、どちらにも優れた魔術師達を育成する事になって、モワ領を栄えさせて。

 またお義父様達も協力して頂き、領内に魔術師専用ギルドを立ち上げて、領も国も更に発展させる一端を担っていくのですけれども。

  

 それはもう少し先の話。

  

 

 

 

 そうですわね、昔話風に言うのでしたら、「めでたしめでたし」で、この話は幕を下ろすのでございます。

 

 

 


☪︎⋆。˚✩.˖⋆*・✧✲゚*♪•☪︎⋆˚✩


本編はここで完結になります。

本日夕方(21時)に、その後のマリユス(ざまぁ話)が更新されます。

思ったよりも酷くなってしまったので、苦手な方はご注意ください。

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