秋のひんやりした風が吹いて、私は、空から地面へ視線を落とした。少しぼんやりしているあいだに、いつのまにか坂のてっぺんまで来ていた。


 振りかえると、坂の下にひろがる街が金色きんいろに染まっていた。どこまでも続く金色きんいろの街より、空はずっとずっと広い。

 それなのに、カラスたちは街のすぐ上を飛びまわり、ギャーギャー言っていた。たぶん、街のみんなに、『はやく帰れー!』って言ってるのかもね。


 私は砲丸ほうがんげのまねをしながら、また後ろに振りかえった。


 私もはやく帰らなきゃ。


 だって、やることがたくさんあるもん。

 今日の宿題は強敵きょうてきだし、テストの勉強もしなきゃだし、それに、もうすぐ陸上の県大会けんたいかいがある。


 種目しゅもくはもちろん砲丸ほうがんげ。

 初めて県大会けんたいかいまで行けたから、うれしくてもう、やる気がヤバいよね。夕ごはんのあとも、学校からりてきた砲丸ほうがんを使って、にわ自主練じしゅれんするつもり。


 家に帰って私は、ママに「ただいま」を言って、すぐに自分の部屋に入った。そして、勉強机べんきょうづくえの上に置かれたトリカゴに向かって、声をかけた。


「ただいま、『ミュート』。お腹すいたでしょ? すぐに夕ごはん準備するからねっ!」





 おしまい


 じゃあねっ!


 またねっ!


 ありがとー!


 バイバーイ!

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あっち向いて落としもの 倉井さとり @sasugari

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