第4話『否定』
彼の話が本当であれば、権能持ちと言うのは殺さないに越したことは無いはずだ。
自動的に次の権能持ちが選出されると言うことは、もしその権能が『がん』といったよろしくないものとしてもいたちごっこにしかならない…いや、半年の間がん患者が産まれないことと天秤に賭けたらやる価値はあるのか?
「権能持ちを思惑の下殺すことは認められてない」
ジェームズはこちらを見上げながら話を続ける。
「神と呼ばれる、人間が神と呼ぶ世界継続システムは、ありとあらゆるシステムを分割して分け与えているだけに過ぎず、1つのシステムを長期的に停止させると他に影響が出ないという確証がないからだ」
「…私は殺されかけた」
多分非権能持ちの人間と骸骨に。
「骸骨に関しては、本能に近い。
人間が害虫を見ると反射的に殺したり悲鳴を上げるみたいな」
彼は、視線を前に向けた。
その瞳は見えなくなり、なんとなく背中が小さく見えた。
「権能というものは、歴史の積み重ねだ、病気は気からというように『ある』と一度でも歴史に残った考え方と言うものは完全に消える事はない」
「この街は、明確に狂った世界。
アリスも驚きワンダーランドだ。
皆狂ってしまったから、
全員、自分達が正しくない事を知っていた、だけど確かに自分達はここに存在していて、生きている」
「ゾンビもびっくりな動く死体だ。
あの骸骨だって最初は私達と同じ見た目だったはずだ。
混濁していった記憶と感情の中で、元の姿も忘れて権能に引っ張られてしまったんだろうな」
「…だから、閉じ込めたのか…蓋をして」
「そうです。
自然法則を逸脱したありえなかった世界の詰め合わせ。
日替わりで法則が変わるそれがこの最下層都市です。
私達は、この切り離された世界でのみ生きていることが出来るのです」
彼は立ち上がり、こちらを向く。
そんなに時間は経っていないはずなのに太陽が背後から昇り、彼の顔が逆光で光っているが確かに笑ってはいると思う。
「今日の太陽はやたらと早起きですね…あの骸骨が貴女を追ったのは、貴女が正しい権能だからです。
自分を捨て否定し殺した側の貴女を、何も考えられなくなっても殺さなければと思ったのでしょう」
気持ちはわかりますが辞めてほしいですねーと肩をすくめる。
「なら、あの人間共は?」
「あれは、欲望と思惑に溺れた糞ったれ共です」
苦虫を噛み潰したような顔で吐き捨てる。
「今の貴女は、記憶喪失によって権能の力を失っています。
つまり、貴女の持つ権能は今現在正常に稼働していないのです」
「駄目じゃない」
「まぁ、権能も多種多様ですし、短時間なら機能してなくても支障がないのもありますし大丈夫です…というより、貴女のそれは必要なサイクルに近いモノです」
「それなら良いのだけれども…」
「問題はあちらです。
あいつ等、今の貴女なら意図的に殺してもお咎め無いだろうとか想定してるぽいんですよ」
「…問題無いの?」
「大アリです。
故に、こうやって私が出しゃばっているんですから」
うーむ、話し方からするにこの記憶喪失は始めてでは無いのだろうか。
通常であれば、時間経過と共に思い出すが今回は私を殺そうとする人間が居る故にその思い出すことを早めにしなくてはいけないと言った感じなのか…?
「…掠りもしませんかね?」
「正直」
記憶を思い出す気がまっっったくしない。
ふと、気になった事を彼に聞いてみることにした。
「そうね、1つ聞いても良いかしら?」
『この世界でのみ生きていることが出来る』
『思考すら無くしてしまった』
『招待はしましょう』
「ジェームズ、あなたは何故正常なのかしら?」
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