第3話『権能』

「何も覚えてないんですよね?」

「うん、常識…以外は」

太陽がビルの影に消えていく。

ジェームズは、ビルの端に腰掛けながら足をブラブラしつつ話を続ける。

「この世界はどうしょうもなく壊れてしまっているんです」

彼の話はこうだった。

昔、相変わらずに永遠の命を望み続ける愚かな人間に古来より神と呼ばれる存続機関は、その熱意に感心して『永遠の元気』を与えてやることにしました。

それが『権能』

ありとあらゆる世界存続のパーツを分割し、人間に分け与える事で不老をくれてやったのでした。

「けど、ありとあらゆる物語において不老不死は碌でもない目にしか合わない」

権能は、システムの一部であり元からあった感情を混濁させていき、権能を与えられた人間は自身に与えられた役目だけを淡々とこなす機会へと成り代わっていきました。

「それに対して、猛反発した人間をみた神は仕方がなしと感情を与えてやることにしました」

ただし、混濁は免れません。

権能を所持した時点で、その人は元の感情や記憶は失い、まっさらで公平に仕事ができる感情を与えられるのです。

「それは、その人と言えるのでしょうかね?」

彼がこちらを見る。

「思ったよりファンタジーなんだな…貴方は権能持ちなの?」

「はは、ファンタジーならもっと魔法をバンバン使えたり、人だけ贔屓する神様が欲しかったですがね〜ええ、私もこの最下層都市にいるありとあらゆる化け物は皆権能持ちですよ。

貴女もね」

「私も…」

全く見に覚えがない。

「権能持ちは人間全てがなったわけではありません。

権能にも限りがあるので…ただ、今や権能になるということはその人間は罪人であるというのが一般認識です。

権能によって、罪の人格は消え、罪は許されたが、不老となり世界を回すことが贖罪だと言う風にね」

あんなに欲しがっていた不老でしょうに、変なもんですよね本当に。

「権能持ちというのは、その権能に準じた魔法みたいなものが使えますが、それ以外は人間と然程変わりません。

不老と言っても、大抵新しい人格も人間を模しているので気まぐれに世代交代をしたりします。

半分は機械…システムのような物なので、基本的に死ぬ事もなく世代交代を望まなければ事実上不老不死にもなれます。

特に見た目とか普通でしょ?ただ…」

確かに、このジェームズも空が飛べる事と先程の謎の能力以外は普通の青年だ。

「権能持ちは象徴であり、ソレがいないと世界はその機関を上手く稼働することが出来ないのです」

「どういうこと?」

首を傾げる。

「実例がありますのでお話しましょう」

彼は指をピンっとすると昔話をし始めた。

「昔、子供に恵まれない夫婦がいました。

死産を2度も経験した夫婦でした」

その夫婦は、出産の権能持ちが私達を意図的に妨害しているという妄想に囚われてしまいまして、出産の権能をこうグサリとね」

「…死ぬのか」

「どうやら、明確な殺意があると殺せるらしいです」

それでどうなったっかって?

出産の権能持ちは死んでしまいました。

事実上、始めての権能持ちの自死以外の死亡事件でした。

「その後どうなったと思います?」

「…上手く稼働ができない…ということは…母子に何かしら影響が?」

「正解です」

彼は微笑む。

「次の出産の権能持ちが現れるまで半年かかりました。

その間、出産予定だった子供は1人残らず死産しました。

産まれてまもなく死亡ではないのです、子宮から外に出て来るまでの間に全員息絶えたのです」

「…は?」

1人残らず?

「本来権能は、世代交代するときには次の権能が誕生してから前任は光となって消えます。

本来であれば、該当権能が存在しない期間は無いので判明していませんでした、他殺が引き起こす影響をこの事件は確かに全世界に実感させたのです」

「子供はできる、それは権能が出産では無いから。

出産という行為自体は、人間にプログラムされているから行おうとするが…権能という応答する側が居ないから正確に行われない?」

「大体それであってます」

「ま、待ってくれ!それじゃぁ」

日が落ち、月に照らされた彼の瞳がこちらを見る。

「なんで私は命を狙われているんだ…?」


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