幼なじみ

檸檬soda

二十歳もそこそこになってきた今日この頃、隣にいるコイツはいつまで飲んでるんだか分からない。

「いい加減やめとけよ。また俺がお前の家まで連れてかなきゃ行けなくなるだろ…。」

「うるさいなぁ。そんなくらいいいじゃん。けち。」

「あ?ケチで悪かったな。もう置いてくぞ。そんな口聞くんだったら。」

「やめてください。許して。」

「はあ、あと一杯にしてくれよ。」

「じゃあ最後は付き合って!」

俺の承諾も得ずに、『すいませーん!』と元気に店員を呼んで追加の酒を頼む姿にはさすがに呆れて何も言う気になれなかった。

「何笑ってんの?」

「笑ってねぇよ。」

運ばれてきた酒を飲み干す頃には呂律がまともに回らない様子に仕上がってしまったそいつが居た。何とか会計を済ませて肩に抱えた彼女に声をかける。

「おい、帰るぞー。…って既に寝てんのかよ。またかぁー。」

毎回毎回酔いつぶれたこいつを家まで送る定型ルート。ウンザリしているが、嫌いでもない時間だからこいつとは呑みに行けるんだ。

「ねえ、なんでフミはいつもいつも私と飲みに行くの?怠そうにするくせにさ。」

「なんでって…」

歩けなくなったマヤを背中に背負いながら話す。

「別に怠くないからじゃないですか?」

「なにそれ、返答になってない。」

少しは酔いが醒めたのかまともに喋るようになったマヤに安堵したが、今も後ろで何かを言っているのに笑いが込み上げてくる。

「あはははは、酔っ払うとすごい喋るよなぁ、マヤは。」

「っえ?そうでもないでしょ。」

「いやいや、よく喋る。元気だなぁ、ほんとに。」

「う、うるさい。フミも喋ってよ。」

「嫌だね。」

わざと冷たく返答してみた。何故だったかは覚えていない。ただ、なんとなく冷たく返答して、マヤからどんなことを言われるか試したかっただけかもしれない。きっとフミはひどいだとか、最低だとか、『そうでもない』ことを言うと思ったんだ。

この返答が帰ってくるまでは

「なんでそんなに冷たいの?私の事、やっぱり嫌い?」

「は?」

予想とは違った返答に声が上擦ってしまう。

「何その声、聞いたことない。」

けたけたと笑う彼女はいつも通りの彼女なのにさっきは違っていた気がしてたまらなかった。

「人の声を笑うなよ。」

と、言いながら落とす真似をすると怖がったフリをしてキャーキャー言うマヤが可愛らしかった。

「ほら、着いたぞ。降りろー。」

「はーい。あ、久々に上がって行きなよ!いつも帰っちゃうけどさ、たまにはね。」

「いいのか?」

「いいよ?ほら、どうぞ~。」

いつもは俺を跳ね除けて家にはいるのに、どんな風の吹き回しか。家に上がってからほぼ二次会並に酒を呑んだ。

「おい、もうやめとけ、飲みすぎだろさすがに…。」

さっきよりもべろべろのマヤはこちらをじっと見つめてジリジリと近づいてくる。

「どうしたんだよ、おい。」

声が聞こえないかのように近づくことを辞めない。

「フミ?」

「はい…?」

「なんで私じゃだめなの…」

「え、なんて言った?」

聞き返すとマヤはバッと顔を上げて、涙でいっぱいになった瞳で目を合わせると

「なんで私じゃダメなの?!」

と泣き始めた。

「ちょ、なんで??なんで泣いたの?」

「私でいいじゃんかぁ…」

「何が…」

「フミの奥さんの話だよ!」

「おれの…奥さん…って誰…?」

訳の分からないことを話すマヤ。

「俺、結婚してない…してたら飲み行かない…」

「え、だって指輪…してる、じゃん。」

「指輪…、あぁ、これはダミーのやつ。」

「だみー?」

「俺、好きな人いるから、会社で女の人に誤解されないようにさ。」

「じゃあ、結婚してないの?」

「してないし、彼女もいねぇし。」

「でも、好きな人はいるの?」

「いるよ。ずっと大好きな人が。」

「誰…?私、知ってる人…?」

「う、うん。」

「……………………全然わかんない…」

「あ、そうかい…。」

「だれ…。」

「言わねぇよ。ほれ、早く寝ろ。酔いすぎだ。」

「うん、考えとくね…。」

しばらくして寝息を立て始めた真弥の横に座って考える。

「今も昔も、俺が好きなのは真弥だけだ。」

真弥の頬に手をそっと沿わせて、俺は真弥に秘密のキスをした。

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幼なじみ 檸檬soda @saayalemon

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