23.5センチ。

ヲトブソラ

23.5センチ。

 私には幾つかのルールがある。その一つ、次の日に履く予定の靴は、前日の夜、お風呂に入る前には棚から出しておく。


 午前七時。ゴシップニュースを面白おかしくコメントをする画面を消した。出演者には賑やかになるよう仕事をしてくれと頼まれ、金銭が発生しているというのは分かっている。しかし、よくもまあ、あそこまで人の色恋沙汰や不純に、ふざけた言葉を並べられるものだ。果たして、あなたたちのそれらは、胸を張って同じ言葉を並べられるほどに、純白なのだろうか。


 家の鍵を持って部屋の照明を消すと、キッチンの換気扇を止めた。バッグを置いて、昨晩、用意したパンプスを手に取り、足を入れながら考える。この靴は、どれくらい履いているだろうか。とくに大きな理由があることではないのだが、靴に足を入れるために突っ込んだ、指の動きすら止めて考えて込む。


 一度、修理に出したな。

 そもそも、私が買った靴だろうか。

 プレゼントだっただろうか。


 ふと、狭い玄関の棚側に置いたコンバースを見た。このコンバースは限定品だったのだが、どうしても欲しいということで、探し回り手に入れた。今日も23.5センチのミント色のスニーカーは少しも乱れず、揃えられていて綺麗なものだ。私の足には合わないサイズ、私の趣味には合わない活発なイメージのスニーカー。これは一足飛びに踏み出した先を踏む事なく、浮いたままの足に履かれるプレゼントだった。いつもボロボロになるまで靴を履き、家に帰っても玄関で揃えることなく、脱ぎ散らかすような脚が、毎日、こんなに綺麗に揃える訳が無い。

 つまり、今朝もこのコンバースは、私が揃えたままで、靴を散らかすような足が履いていないということになる。使ってくれたか確認をするために、わざと綺麗に揃えている。置きっぱなしというのも邪魔だけど、棚にしまっていると、きっと見つけることなく、同じ靴が擦り切れるまで履き続けるだろうから、いつ履き替えてもいいように、ここに置いている。


 私には幾つかのルールがあって、二つ目のルールは、家に帰ってくると、必ず、靴を棚にしまう。ただ、一つ目と二つ目のルールを、このコンバースだけには適用しないことにしている。


 これは、きみの靴だからだ。


おわり。



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23.5センチ。 ヲトブソラ @sola_wotv

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