第39話

「ふざけるな!」、その言葉を耳にした瞬間私の中の何かが弾け飛んだ、……と同時に全身から魔力が溢れ出してきたためそれを用いて魔法を放とうとしたまさにその瞬間であった、──駄目っ!!、という叫び声が聞こえてくるとともに突如全身に強い衝撃を受けたためにその場で転倒してしまうとすぐに立ち上がることすら困難な状態となってしまった、その結果魔法を発動させることが出来なかったもののどうにか体を起こすことに成功した私は声がした方に目を向けるとその声の主を見て思わず絶句してしまった、……何故ならそこに居たのはかつての仲間であり親友でもあったはずの一人であるアカネだったからである、……だがその姿は既に変わり果てており見るに絶えない姿をしていた、というのもその体は所々が腐っており肉が溶けたような異臭を漂わせていただけでなく肌の色もどす黒く染まっておりさらに下半身に至ってはもはや無くなっていたのである、 そんなアカネは今にも泣き出しそうな顔で私を見つめた後で静かに話しかけてきた、「……美月ちゃん、今まで本当にごめんなさい、……あなたに酷いことをしてしまって、……それなのに何も言えなくて辛かった、……それでもあなたが私のことを大切に想ってくれていることは伝わってきていたから余計に悲しかった、でも今はそんなことはどうでもいいよね?だってもうすぐ死ぬんだから、……だから最後に一言だけ伝えておくね?、あなたのことが好きだった、……ううん今でも好き、これからもずっとずっと大好き!、だからね?……どうか生きて欲しいの、私のことなんか忘れて幸せになって欲しいんだ、そうすればきっといつかあなたの前に素敵な人がやって来るはずだから、」、その言葉を聞いた直後私の目から涙が零れ落ちてしまった、……だがそれと同時にこのままではいけないという思いに駆られると私は何とか立ち上がるとふらつきながらも彩花の下へと向かって歩き出しながら彼女に向けてこう告げた、「……待っててね、今すぐあいつを倒してくるから!」

それを聞いた彩花は最初こそ心配そうな表情をしながらも首を横に振っていたのだがやがて何かを決心したのか真剣な表情になると私を引き留めるために腕を掴んだうえでこう言った、「……待って、それなら私も一緒に戦うわ!二人で力を合わせればきっと勝てるはずよ?」、そう言ってきた彼女に私は笑顔で頷き返すとそのまま二人で肩を並べて歩き出したところでふと気づいたことがあった、それは先ほどまで全身を襲っていたはずの激痛が消え去っており体の不調が全て回復していたことである、そのため驚きつつもその原因を探ろうと自分の手のひらを見つめていたのだがその時背後から声が聞こえたため振り返った瞬間再び驚いた、……なぜならそこにいたのは何と先程まで倒れていた男性が立っておりこちらへ向かって歩いて来ているのが分かったからであった、さらによく見てみればその背後には見覚えのある人物達が控えており全員がこちらに向かって来る魔王に対して構えを取っていることが分かった、それを見た時これから何が始まるのかを察した私は彩花の手を取ると彼女のことを守るようにして立ち塞がった、その後すぐに後方から声が聞こえて来たかと思うとその直後眩い光が放たれ周囲を覆い尽くしていくのが見えた、それと同時に前方から大きな声が聞こえてきたことから誰かが攻撃を放ったことが分かった、そのため急いで背後を確認すると彩花が放ったであろう極大魔法によるものと思われる爆発が生じておりそれにより煙が晴れるまでの少しの間でさえも気を抜けば意識を失いそうになるほど強大な力を感じることが出来た、……それからしばらくして完全に視界が晴れると目の前に広がっていたのは魔王が立っていた地点を中心として巨大なクレーターが出来上がった姿がありその光景に驚愕していると今度は先程とは反対側から女性の声が聞こえてきてそちらへ目を向けて見るとそこには見知った顔の者達が集まっており揃ってこちらを見つめてきたことで彼らの存在に気づいた私は呆然としたまま呟くように答えた、「あなた達、どうしてここに……?」

すると彼らのうちの一人が代表してなのかそれとも全員の意思疎通をスムーズに行うためにかは分からないが一人の男性が進み出てくるとゆっくりと口を開いた、

「……実は私達と戦っていた時の記憶はあるかな?」

その質問を受けてこれまでのことを思い出した私は黙って頷いた、……なぜならあの魔王との戦闘の最中に意識が途切れてしまったせいで以降のことは知らないもののそれまでの戦いについては全て覚えていたからだ、 そのことを伝えると男性は小さく頷いて再び話し始めた、

「それなら説明がしやすいな、……あの時私達と戦った君は最後の最後で魔力切れを起こした結果瀕死の状態に陥ってしまいその場に倒れ込んでしまった、しかし私達は君を倒すつもりで戦っていて殺すつもりで攻撃を仕掛けていたんだがその時にどういうわけか魔王が現れてしまい君を生かそうとしていた我々のことを妨害してきた、そのせいで私達の方が劣勢に陥ってしまったためやむを得ず撤退するしかなかったんだよ、そしてその後はなんとか逃げ延びることができたのだが魔王だけはどうしても倒すことが出来なかった、しかもその際の衝撃で君達の記憶が消えてしまったのかはたまた意図的に封印されてしまったのか分からないがお互いに敵対し合っているような状態に置かれてしまっていてどうしようもなかった、──ところがつい先ほど奇跡的に記憶を取り戻したらしくようやく協力することが出来るようになったんだ、……とはいえまだ不完全なので完全に戻すためには君がもう一度命を絶つ必要がある、……それで構わないかい?」

その言葉に思わず息を呑んでしまったもののすぐに気を引き締め直すと同時に決意を固めると真っ直ぐに相手の目を見つめながら答えるように言った、「もちろんです、これ以上あなた方の足を引っ張りたくはないですし何よりも私が死んでしまった方が彩花にとっては良いことだと分かりましたから、……それに今ならば確実に彼女を殺せますから安心してください、ですから皆さんには迷惑を掛けてしまいますがよろしくお願いいたします!」、そう言って頭を下げた直後後ろから声が聞こえてきたため振り返ってみるとそこに立っていたのはアカネ達だった、彼女達もまた覚悟を決めていることが分かる表情で私を見つめているのが分かると私は大きく頷くと魔王に体を向けたままゆっくりと後退していった、そしてある程度距離が取れたことを確認した後で振り返りざまに皆の顔を見渡した後に最後に彩花の顔を目に焼き付けると静かに瞳を閉じた、そして次の瞬間心の中で強く念じた、……これで全てを終わらせよう、と、 するとその瞬間突如として私の頭の中に様々な光景や想いなどが駆け巡っていった、……それらはどれも懐かしくかけがえのないものであり同時に辛い出来事ばかりでもあったが決して忘れることの出来ない大切なものばかりであった、そんな光景を思い返しつつそれらを全て受け入れた上で覚悟が決まるとそっと瞼を開いていった、……するとそこにはまるで光の柱に包まれているような姿になった魔王の姿があった、それを見て思った、──ああこれでやっと死ねるんだ、……でも良かった、こうして大切な人達を悲しませずに済んで、……そう思いながら笑顔を浮かべた後改めて前を向いた直後に大声で叫んだ、

「……みんな今までありがとう!!こんな私のことを仲間として受け入れてくれて本当に嬉しかったよ!!……だからもし来世というものがあるのなら今度こそ平和な世界に生まれ変わってまたみんなに逢いたい、そして今度こそ平和に暮らしたいな、──だって今の私は勇者の娘なんかじゃなくただの女子高生なんだから、……だからせめて死ぬ瞬間くらい普通の女の子に戻して欲しかった、……お願い!神様!!私の願いを聞いて下さい!!」

そう叫んだ後両手を合わせて祈り始めた途端私の全身から強い光が溢れ出した、それと共に体がどんどん軽くなっていきさらには今まで感じていた苦痛すら感じなくなってしまっていたことに気が付いた、 だがそれでも私は祈らずには居られなかった、だってこの状態でいられる時間は限られていると分かったからであった、だから一秒でも早く終われるようにひたすら祈り続けたのである、──すると突然背後から誰かに抱きしめられたかと思うと聞き覚えのある声が耳元で囁かれたため驚いて振り向いた、……するとそこに居たのは私の一番大切な親友であり恋人でもあるアカネの姿がありさらに他の仲間達まで集まって来ていたため思わず目を見開いてしまった、……どうして皆がここにいるの?、そう思って唖然としていたところ彼女は涙を流しながら私に話しかけてきた、

「……美月ちゃん、もういいんだよ、あなたは頑張ったわ!本当によく頑張ってくれたのよ!?……それなのにこんな形で死ぬなんておかしいじゃない!!、なのになんで誰もあなたのことを責めないのよ!?それどころかあなたに救われた命だからこそ無駄にしないでって言ってくるのよ!?……そんなの絶対に間違っているわ!あなたが死んだら何もかも終わりになってしまうじゃないの!!、──だからね、お願いだから戻ってきてちょうだい、……私の為にも生きてよ、これからもずっとずっとあなたと一緒にいたいのよ!!」

その言葉を聞いていた時不意に涙が溢れ出して止まらなくなってしまった、なぜなら彼女が私のことをこんなにも想ってくれていたことを初めて知ることが出来たからでありさらにそんな彼女の言葉を聞くことが出来てとても幸せだったからだ、 そのため泣きながら笑みを浮かべて彼女を抱き寄せた時耳元でこう囁いた、……ごめんね、今まで何も出来なくて、それと本当はあなたが好きだったんだよ?……だってあんなにも一緒にいたんだから嫌でも気づいてしまうでしょう?、そう言った後で再びアカネのことを抱きしめているとふと何かを感じ取ったのか後ろを振り返りだした、そこで私は慌てて彼女の視線を遮ろうとしたものの既に手遅れだったため仕方なく見守っていることにした、 そして数秒の間見つめた後おもむろに口を開いた、「……やっぱりそういうことだったんだ」、その言葉を聞いた瞬間私は悟ってしまった、……そうか、彼女も知ってしまったんだ、……私の本当の正体について、そう思った矢先またしても声が聞こえてきたためそちらに目を向けると彩花が私のことを見つめてきていた、 それを見た時もはや逃れられないと悟ったことで小さく頷き返すと続けてこう言った、──そうよ、私はかつて勇者としてこの世界を救うために召喚されたけど実際には魔王を封じる為だけにこの世界に喚ばれてしまった生贄のような存在だったのよ、しかもそれだけならまだしもその代償として自分の中に眠る本来の力を封じ込められた上、魔王を倒すまでの記憶を消されて勇者として育てられるという拷問にも等しい扱いを受けてきたせいでずっと本当の自分を殺して生きていたのよ、……だから私はもう死にたかった、たとえどんなに苦しくて悲しくても魔王を倒せば終わると思っていたから必死に戦ってこれた、──だけど結局それも失敗に終わり挙げ句の果てには何もできないままここで殺されようとしている、……そんな自分が情けなかった、それと同時に悔しかった、だから私は最期に自分自身を殺すことに決めたの、そのためにみんなと一緒にここまで来たのよ、──だからもう放っておいてくれないかな、私一人の命で全てが救われるのなら本望だもの、それにあなた達はちゃんと生きているじゃない、だから私のことを気にしなくても良いのよ?」、そこまで言ったところで私は再び泣き出すと俯いてしまった、 そんな私をみんなが見つめていたのだがしばらくしてある変化が訪れた、……それは急に私の体を優しく抱きしめ出したのだ、そのことで驚きつつも顔を上げようとすると誰かが私の顔を両手で押さえると無理やり正面へと向かせたうえでそのまま唇を重ね合わせてきた、それによって混乱しているといつの間にか唇を離したアカネが笑顔で見つめてきながら口を開いた、

「……何勝手に死のうとしているのよ、せっかくここまで来てくれたっていうのに今更帰れって言われて簡単に帰れるわけないでしょ?、……それにあなたは私にとってかけがえのない存在なんだからいなくならないでよ!」、そう言いながら今度は力強く抱きしめてきたものだから思わず泣きそうになってしまった、──だがその時いきなり大きな音が鳴り響いたため驚いてそちらを向くと魔王が凄まじい魔力を放とうとしていたのが見えたためすぐに意識を切り替えてから身構えた、 そんな中アカネ達は何も言わずに私のことを見守ってくれていた、そのため私もまた覚悟を決めると先程と同じように祈り始めた、……ただし今度は彼女達のことを守りたいという想いを込めてである、──そしてついに準備が整うと心の中で強く念じながら私は皆に向けて笑顔を向けた、

『みんな、今までありがとうね、……じゃあ行ってくるわ』、そう心の中で呟き終えた次の瞬間私は光に包まれ始めると同時に皆に背を向けると大きく息を吸い込み目を瞑った、するとその瞬間魔王が魔法を放ったらしく凄まじい轟音と閃光に包まれた、……それから少しして恐る恐る目を開けるとそこに見えた光景は先程までとはまるで違い静寂に満ちた空間であった、そのことを認識するなりその場に膝まづくと手を合わせて感謝の意を示していった、……するとその時後方から足音が聞こえてきたので振り返ってみるとそこにはなんと魔王の姿があったのである、そのことに驚愕しつつ咄嗟に身構えようとした時だった、

「待て!貴様に危害を加えるつもりは無い!!それよりも話をしようじゃないか、……勇者の娘さんよ?」、そんなことを言ってきたことから警戒を緩めないまま黙って見つめていると魔王はどこか寂しそうな顔をしながらもゆっくりと口を開いた、

「まずは謝らせて欲しい、すまなかった、まさかあの程度で死んでしまうとは思っていなかったんだ、だからこうして記憶と力を取り戻した今ならば分かるはずだ、──君は間違いなくこの世界の救世主だということがな!」、そう言って私を見つめたまま話し続けた、

「実は最初に戦った時から君のことは気になってはいたんだ、何しろ君の体の中にはとてつもない力が秘められていることが一目見て分かったからね、……おそらくそれをコントロール出来るようになって初めて真の勇者になれるのではないかと考えたからこそあえて君を殺そうとしたのだ、つまりは君が生き続けることで我々の希望となることを期待したのである、──それにそもそも私達には敵同士になる理由が無かったからな、むしろお互いに仲良くやっていけたらと思ったからこそ今回こうして話し合いの場を設けた訳だ、そして実際に君と接してみて確信出来た、──やはり私の勘は間違っていなかったと、だからこそお願いしたい、これからもどうか私の娘になってくれ、……もちろんこれは命令では無いし断ってくれても構わない、ただもし了承してくれるのであれば今後は君を一人の少女として育てていきたい、……ダメかな?」、そこまで聞いた時私は改めて彼の姿を見つめ直した、……そして理解した、──ああこの人は私の父親なんだ、と、 そう思った途端にそれまで抑えていた感情が溢れてしまい気が付けば涙が溢れ出していた、そのため手で拭いながらも震える声で言葉を返した、

「……分かったわ、でもその前に一つだけ聞かせてちょうだい?……お父様は本当に私のことを娘だと思ってくれているの?」、そう聞くと魔王は嬉しそうな笑みを浮かべつつ頷いた後でこう言った、

「もちろんだとも、だからこれからは名前で呼び合うことにしよう、その方がお互い気が楽になるだろうしな」、その言葉を聞き私は思わず笑み浮かべながら答えた、

「ええ、分かったわ!!これからよろしくね?、パパ!!」、……すると突然パパは私の事を抱きしめてきたのだ、 それにより戸惑っていたのだがふとあることに気付いてしまった、──そういえばあの時パパは自分の娘に酷いことをしてしまったって言って無かったっけ?、

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最強無敵!~勇者の子を身ごもった大魔王の娘、最強パーティーに入る~ あずま悠紀 @berute00

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