第38話

そんなことを言われた僕は戸惑いながらも黙って話を聞くことしかできなかった、だがそれと同時にある疑問が生じた、なぜならば今の話が事実だとすれば彼女と僕はすでに交際していて同棲していたことになるからである、それなのにどうして彩花は今になってそんなことを言うのだろうかと考えていたら不意にこんな言葉が耳に入ってきたのである、「……多分ね、水瀬くんが私に向けてくれている気持ちは愛情ではなくてただの同情だと思うの、あなたは今自分がどういう状況にいるのか忘れてしまっているみたいだけど実際は私のせいで記憶を失くしてしまったんでしょ?つまり私がいるせいであなたは辛い思いをすることになってしまっているの……だから早く元の記憶を取り戻して自分の居場所に帰ってあげないとダメだよ、……大丈夫!私はいつでもあなたのことを応援してるからさ!」、その言葉を聞いた時僕は無性に悲しくなってしまったもののそれでも必死に気持ちを押し殺していた時だった、ふいに頬に何か生暖かいものが流れるのを感じたことでようやく自分が涙を流していることに気がついたのだ、……そして何故なのかその理由はわからないままであったが気付けば僕は無意識のうちに彩花を抱きしめていた、……まるでこのまま彼女を行かせてしまってはいけない、そう思ったからだった、だがその直後彩花はこんなことを言いだした、「……ありがとう、でももうこれ以上はダメよ、もしここでまた昔のような関係に戻ってしまったとしたらそれこそお互いにとって良くないことにしかならないでしょう?」、僕はそんな彼女の言葉に納得してしまいそうになるもののどうしても納得することができずにいた、……なぜなら彼女が口にした言葉の意味を全て理解することができていたからだ、だからこそ僕は意を決してこう告げた、 ──たとえ君が僕のことを嫌っていたとしても僕は君のことが好きだ、──だから絶対に離さない、と、 そしてそれを聞いた彼女は驚いた様子を見せたもののすぐに笑顔になり僕にこう言ってきた、「……やっぱりあなたは私の大好きなあの人と同じだね」と、僕はこの時思ったのだった、……なぜなら僕もたった今彼女の言っていた“あの人”と同じように同じことを思っていたからである、 ──きっとこの先に待っている未来には光なんてないかもしれない、……でもせめてそれまでは君のそばにいたい。

──そう願いながら僕はいつまでも彼女の温もりを感じるのであった、

(終)

第一部:2 あれから1ヶ月ほど経った頃だろうか、 私はすっかり元気になっていたものの未だ病院に通い続けていた、……その理由としてはお医者様の話によればあと数週間ほどで退院できるだろうということだった、なのでその話を聞いて以来毎日のように見舞いに来てくれる彩花や真太郎くんたちに感謝しつつその時が来るのを待っていたのだ、……そんなある日のことだった、私がいつものように昼食を摂っていた時のこと唐突に病室の扉が開き誰かが入ってきたため何気なく視線を向けたのだがそこにいたのは何とあの彩花だったのだ、……私は突然のことに驚いていると彼女からこんなことを言われてしまったのである、「ごめんね、最近全然来れなくて」、その言葉を耳にした途端私は反射的に彼女に近付きこう言った、「いいよそんなこと気にしなくても!それよりも来てくれただけで嬉しいから!」、そんな私を見た彩花は一瞬だけ悲しげな表情を浮かべたかと思うとこんなことを言い出した、「……実はね今日はあなたに大切な話があって来たの」、その発言を耳にするなり嫌な予感を覚えた私は慌ててそれを止めようとしたのだが結局彼女は話すことにしたらしくそのまま私に衝撃的な言葉を口にしたのである、 ──どうやら彩花は今日で私とお別れをしなくてはならないらしいのだ、……それを聞いた私はショックのあまり頭の中が真っ白になってしまったのだが、そんな中でも彼女の口から出てくる言葉を一言も聞き漏らすまいと必死になって耳をそばだてていたのだ、……しかしそこで聞かされた話は私にとってあまりにも残酷すぎるものだった、何故ならこれから彼女が言おうとしていることはすなわち私との別れを意味しているのだから……だからこそ私にはそれがたまらなく怖かったのである、だが私のそんな恐怖とは裏腹に彼女の口は止まらなかった、それどころかついに決定的な言葉が出てきてしまったのである、

「……だからね、私もうここには来れないしあなたとも会うことはできないと思う、だって……だって私……、 もう長くは生きられない体になっちゃったみたいなの」

その言葉を聞かされるなり頭が混乱してしまう中私はふとあることを思い出した、それは私たちが初めて会った日の前日の出来事であり私が突然倒れてしまった時に偶然居合わせたのが彩花であったことなのだがその時の彼女から向けられた眼差しになぜか懐かしさのようなものを感じていたのを今更になって思い出したのだ、だがよくよく考えてみるとあの時目にしたのは紛れもなく目の前の彼女の目だったのである、つまりあの時倒れた原因は他ならぬ彼女自身が原因だとわかった以上次に言うべき言葉は決まっていた、──だから私は言ったのだ、「……そんなの嫌だ!やっと記憶が戻ったというのに……やっとあなたと一緒にいることが出来るようになったのに……」と、 その次の瞬間彩花が悲しそうな表情をしながらも私の目をまっすぐ見つめてきたかと思えばこんなことを聞いてきた、「ねえ美月ちゃん?もしもあなたの体に原因があるとしたならあなたはどうする?……いや別に難しいことを言ってるわけじゃないよ?ただ単純に『死にたい』って思わないかどうか聞いてるだけなんだけど」、その言葉を耳にした途端私の頭の中に浮かんだのは自殺をする自分であった、というのも今まで散々苦しんできたことや周囲の人達から腫れ物扱いされ続けたことが主な要因ではあるけれど何より私の心の中には死にたくないと思うよりもいっそのこと死んでしまいたいという気持ちが日に日に強くなっていったせいもあって、──その結果いつしか自分でも気付かないうちに死への願望を持つようになっていたのだと悟った、……だからこそ私は迷うことなくこう答えた、 ──……もちろん思うよ、……だってもう生きる意味なんてないんだから……と、……それからしばらくの時が流れた後、私と彩花は病院を出た後でタクシーを使ってどこかへと向かっていた、そして目的地に到着するや否や私たちは車から出てゆっくりと歩き出した、そしてしばらくして辿り着いた場所とは町外れにあるとある小さな丘だったのである、 その後しばらくの間無言のまま歩いていたものの私はとうとう我慢が出来なくなってつい口を開いてしまった、「……ねえ彩花?本当にここでいいんだよね?」、不安に思いながら尋ねてみると彼女は微笑みながら「そうだよ」、と言ってきたのでますます心配になってしまいつつも歩き続けるしかなかったのである、そして数分後ようやく丘の上に辿り着いた時私は目の前に広がる景色を見て思わず驚きの声を上げてしまったのだ、なぜならそこには数え切れないほどの無数の白い花びらを付けた木が立ち並んでいてとても綺麗な光景となっていたからである、すると不意に彩花がこんなことを言った、

「……本当はね?もっと綺麗な場所に連れて行きたかったのだけれど残念ながらこの辺りにはあまり大きな花畑はないらしくてここくらいしか見つけられなかったんだけど気に入ってもらえたかな?」、それに対して私も素直に頷きつつ感謝の気持ちを伝えた、そしてふと視線を下に向けるとそこには私たち以外に誰もおらず二人だけの貸し切り状態となっていた、そのことを認識した途端に緊張してきたこともあり再び無言の状態となってしまった、……しかしやがて私は意を決して口を開いた、「……あのね彩花?あなたに言わなくちゃいけないことがあるの、……今から私は死ぬつもりなの、……だからその前にあなたに伝えなければならないことがあったの」、それを聞いた途端彼女は動揺したような様子で私のことを見つめてきたが構わず続けてこう言った、

「まず最初に謝らないといけないことがあるんだ、……実はね?あなたが私のお見舞いに来る度に記憶を失っていることを良いことにいつも酷い態度を取ってたの、……それにこの間だってあなたのことを拒んで突き放そうとしたりもしたでしょ?……でもね?あの時は仕方なかったことなの!だってあの時のあなたは私が知ってるあなたとはまるで別人みたいに見えたんだもん!だからどうしても怖くなってしまったの!」、……ここまで話し終えたところで不意に彼女が笑い出したかと思うと今度はこんな質問を投げかけてきた、「……それでどうして今さらになってそんなことを言うのかな?」、それを耳にして一瞬戸惑ったものの勇気を振り絞って言った、「……うん、これはね?私の気持ちを伝えるために言ったことなんだよ、……さっきも言った通りあなたは私の知らない人になっていたの、でもそれでもあなたのことが忘れられなかった、……というより好きだったんだと思う、……だからこそ今こうやって改めて告白をしたんだよ、」、それを聞いた彩花は嬉しそうな表情を浮かべていたもののしばらくするとまたしても私に問いかけてきた、「……じゃあ何であの時あんな態度をとってきたのかを教えてもらってもいい?」、それに対し私は答えようとしたもののいざ口に出そうとすると急に恥ずかしくなってしまい躊躇してしまったものの意を決して全てを話した、……自分が記憶喪失だということで周りの人から腫れ物扱いを受けるようになったりそのせいで孤立してしまい辛い日々を送っていたことやそんな中で唯一自分の話を真剣に聞いてくれた彩花の存在が心の支えになっていたことなどなど、……それらのことは全て事実だったためありのままを打ち明けたのである、するとようやく話がまとまったのか彩花はこんなことを言ってきた、

「──ありがとうね、そんなにも自分のことを想っていてくれて凄く嬉しかった、だけどごめんね?……やっぱり私じゃあなたを幸せにすることは出来ないみたい、……だって私があなたにあげられるものなんて何ひとつとして無いんだから、 だからね……、最後に一つだけ約束して欲しいことがあるの、 これから先どんなことがあっても決して自分から死のうとしないで?もし万が一私のいない所で死んじゃったりでもしたらその時は絶対に許さないからね!……これが私からあなたに望む最後のお願いです」、その言葉を聞き終わった瞬間ついにこの時がやって来たのだと確信した、だから私は笑顔で頷いて見せた後に彼女に向かってこう告げた、──今までありがとう、大好きだったよ!、そう言って彼女の前から走り去ろうとしたまさにその瞬間である、突然背後から誰かに抱きしめられてしまったためにそれ以上は身動きを取ることが出来なかったもののその直後耳元で聞こえてきた言葉によりそれが誰なのかはっきりと理解することが出来た、──彩花だ、彼女は私を力一杯抱きしめたまま涙を流していたのである、……その姿を見て私は何も言えなかった、……何故なら彼女がどんな気持ちで私を抱きしめているのかを知っていたからであった、何故なら彼女も私と同じで私との別れを心の底から悲しんでくれていたのだから……だからこそ私はあえて明るい口調で彼女に話しかけた、──きっとすぐに戻ってくるからね!──と、するとそれを聞いた彼女は泣きながらも必死に笑顔を作ってみせたため私はそれを見て安心したことで少し気が緩んだのだろうか、……自然と涙が溢れてくるとともにその場に座り込んでしまったのである、だがその直後彼女からの思いがけない発言を耳にした私は驚いてしまうと同時に頭の中が真っ白になってしまった、

「あのね美月ちゃん?本当はずっと隠してたことがあるんだ、……それはね?私はもう既に死んでいるということなの」、……それを聞いた途端思わず目を見開いてしまったものの直後にその意味を理解した私はその場で絶叫し泣き崩れてしまったのだった、

第一部:3 彩花から衝撃的な話を聞かされた直後、 ──彼女の話はまだ終わっていなかった──「……確かにあの時あなたはトラックにはねられて亡くなってしまいました、……だけどその後のことなのですが神様を名乗る人物によって別の世界へと転移させられたんです」、その言葉を耳にした時ふと思い出したのはあの夢の中の出来事のことであった、だがそれを思い出しつつも恐る恐る尋ねてみると意外な言葉が返ってきた、

「その神様とやらは今も存在しているの?」、その質問をした瞬間何故か彼女の顔が曇ってしまったのを目にして嫌な予感を覚えた私はすぐさま「ねえ教えて!」、と言いながら彩花の両肩を掴んで揺さぶった、──まさかまた私だけ置き去りにされるのではないかと思ったからでありそれだけはどうしても嫌だった、……そのため彼女のことを見つめながら何度も訴えかけるように聞いているとついに観念したのかため息交じりながらも話してくれた、……ただしそれがあまりに残酷な内容であったためそれを聞いた途端に絶望を感じてしまったけれど……、 どうやら彩花が転生したという世界は私が居た地球とは異なる次元にある世界で人間以外の様々な種族が存在していてその中には悪魔族と呼ばれる者達までいるらしいのだがその中でも特に強大な力を持つ存在こそ『魔王』と呼ばれておりその存在を倒すことが出来ればなんでも願いを一つ叶えてもらえるとのこと、……さらに驚くべきことに彩花は既に一度だけではあるが魔王を倒した経験があるのだという、それを聞いて驚きつつも「それならもう一度倒せばいいんじゃないの?」、という質問に対して彼女は辛そうな表情を浮かべながら首を左右に振った後次のように言ったのである、「……確かに以前戦った時は何とか勝つことができたわ、……でもね?その時の私は魔力切れで死にかけてたのよ?しかも相手が使う技のほとんどが強力な呪いの力を持ったものでいくら耐性を持っていたとしてもいつかは負けてしまうことは避けられない状況にあった、だから私は仕方なく最後の手段に出ることにしたの、……つまりそれは自らの命を絶つということだった、 だけどそんな時ある一人の天使が現れて助けてくれたおかげで一命を取り留めることができたんだけどその後しばらくは動くことも出来なかったせいで結局次の魔王との戦いにも参加することができなかった、そして戦いに参加した時には他の仲間達はほとんどやられてしまっていたからもうこれ以上の戦いは無駄だと思った私は魔王にとどめを刺そうとするみんなのことを止めて一人で戦おうとしたのだけどその時運悪く魔王の攻撃の余波に巻き込まれてしまって瀕死の重傷を負った挙句意識を失ってしまったらしい、……まあ結果的に言えばそのまま死んだわけなんだけどその時に夢の中で出会った神様から言われたんだよね、まだ生きていたいですか?ってね?」、……そこで一旦言葉を切った彩花は私の方に顔を向けたかと思うと今度はこんなことを口にした、「……でもね?せっかく助けてもらった命を粗末に扱うことなんて私には出来ませんでした、……それに例えどんなに辛く苦しいことがあっても大切な人達と共に過ごせるのであればそれだけで幸せだと思えるようになりました、……だってこの世界では私のことを理解してくれる人達がたくさん居るんですから、……それにね?この世界へやって来て一番良かったと思っているのは私の大好きな人にもう一度会うことができたということなの、……だから今度こそ絶対に離したくないの!たとえこの先にどんな困難が待ち構えていようともね?……だからあなたも覚悟していて?この先何があろうとも決して離さないから、……」、そこまで聞いた私はようやく理解した、何故彼女があれほどまでに頑なになっていたのかということを、 なぜならその理由こそが彼女にとっての生きる目的だったからだ、もちろんその気持ちはとても嬉しかったもののさすがに重すぎると感じてしまいつい苦笑いをしてしまったのだがそれを目敏く見ていた彩花は頬を膨らませると再び私の体に抱き着いてきた、そんな彼女のことを優しく撫でつつ私も抱きしめ返したことで二人の体が密着し合い心臓の鼓動音が重なり合うのを感じていた、……こうして私たちはしばらくの間互いに抱き締め合ったままじっとしている内に段々と心が安らいでいくのを感じると同時に睡魔に襲われ始め次第に瞼が閉じようとしていたその時であった、突如として上空に大きな影が現れたことにより驚きのあまり目を見開いた私は上空を見上げた瞬間愕然とした、何故ならそこには見たこともないくらいの大きさを誇る漆黒のドラゴンがいたからである。そしてその背には何者かの姿が見えた、しかし距離が離れているために顔が見えない上に服装や性別までも分からないためその正体までは知ることが出来なかったがただ一つ分かることがあった、……その者がこちらを見下ろしているということである、するとその時である、不意に頭上から聞き覚えのある声が聞こえてきたかと思うとそれはこう言った、──ようやく見つけたぞ、勇者の末裔よ!さあ今一度我と勝負しろ!、そう宣言したことで声の主の正体を知ることが出来た、だがそれと同時に激しい後悔の念が込み上げてきてしまった、……なぜならそれは私が倒すことのできなかった魔王本人であったからである、そのことを悟った瞬間あまりの恐怖心から全身がガタガタ震え出してしまったもののどうにか堪えつつ魔王の姿を睨み付けるとともに心の中で強く念じた、──こんな所で死にたくない!……それにもっと彩花と一緒に居たいよ!!、するとその直後どこからともなく聞こえてきた女性の声によって私の意識が途絶えてしまった、

第一部:4

「─ねえお願いだから起きて!このままじゃあなたまで死んじゃうわよ!!」、その声が耳に入ってきたことによって慌てて目を覚ました直後目の前に広がる光景を目にした私は言葉を失った、──何故ならそこには血塗れになりながらも必死で私に呼びかける彩花の姿が見えたからである、そして次の瞬間、彼女から少し離れた場所に横たわっている男性の姿が視界に入った途端すぐに何が起きたのかを理解した私は怒りのままに魔王に向かって叫ぶように言った、「何でこんなことをしたの!?どうして無関係な人まで巻き込んでいるのよ!?」、それに対して魔王は相変わらず余裕そうに笑いながら返してきた、「それはだな?……貴様を殺す為だよ、勇者の娘であるお前は邪魔でしかないのでな、ここで確実に始末しておくことにしたのだ」

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