第37話

「……なるほどそういうことでしたか、……そうですね、確かにあなたのお知り合いのストーカーさんはとても危険な人物であることは間違いありませんが残念ながら今回の件についてはその人が関与しているわけではないようですよ?というのもですね、実際に被害者となったのはあなた自身なんです……」、それを

聞いた僕はすぐに意味を理解出来なかったため首を傾げることにした、するとそれを見た先生は苦笑いを浮かべるとこんなことを言い始めた、「……実はですね、あなたは今回の一件の犯人によって意図的に昏睡状態に追いやられた上に記憶を消されてしまっているのです、しかもその犯人が誰なのかさえ分からなくなってしまっている……というのが真実なのです、つまりこの事件において最も重要な役割を演じていた人物があなたに危害を加えたという事になるのですが、残念なことに現在捜査中の事件ですので警察からはこれ以上のことはお話できないことになっているんですよ……」、それを聞いた瞬間僕は愕然として思わずその場に立ち尽くしてしまうこととなった、……なぜなら今の話が事実であれば自分は彩花ちゃんの手によって故意に意識を飛ばされたことになるのだから……だがその一方で僕はこんなことを考えていた、 ──もしも仮にあの時彼女を止めていなかったとしたらどうなっていたのだろう?……もしかすると私は水瀬くんの記憶と共に彼女の存在そのものさえも忘れ去ってしまうところだったのではないだろうか?そうなれば今の私がこうして彼女に会うことすら叶わなかったはずでありそう考えるとある意味これで良かったのかもしれないと思い始めていた、 何故ならそれは彼女が最後に教えてくれた通りもう二度と会うことが出来ないかもしれないということを意味していたのだから、……そう思うと次第に目頭が熱くなってくるのを感じた、そして気が付くとその頰を一筋の涙が伝っていた、「おや?どうかされましたか?何か悲しいことでも思い出されたのですか?」、不意にそんな声をかけられたことで慌てて涙を拭うと僕は首を横に振って見せた、だがそれでも先生は納得いかないのか心配そうな表情を浮かべるなりこう続けた、「……そうですか?もし私に出来ることがあるなら遠慮なくおっしゃってくださいね?」、その言葉を耳にした僕は素直に甘えると思い切って相談してみることにした、「……実は私の恋人である水瀬くんが数日前から失踪してしまっていて……その理由も未だわからないままなのでどうしたら良いのか途方に暮れているんです、それに彩花ちゃんのことだって……もう何が何だか分からなくてどうすれば良いのかわからなくて困っているんです、……だけどそんな時ふと思ったのですが彩花ちゃんの身に一体何が起きているのか、何故こんなことになってしまったのか、その原因や理由を解明すればもしかしたら彼女の心を取り戻すきっかけになるかもしれないと考えたりするんですが、果たしてそれは可能なんでしょうか……?」、それを聞いた途端先生の表情が変わったような気がした、……だがすぐに元の笑顔に戻ると僕の肩を叩きながらこんな言葉を口にした、「……きっと大丈夫です!必ず元通りの二人に戻る日が来ますから!」、……しかし僕はその言葉を聞いても不安な気持ちのまま何も言えないままでいた、何故なら彼女に対する罪悪感に苛まれていたからだ、……そして何より一番気掛かりだったことが今の彼女には僕という存在自体がいないということにある、……つまり彼女が元に戻ったとしても僕の事を忘れてしまった状態で再会することになる可能性だって考えられるのだ、……そうなった時に一体どのような顔をして会えば良いのか分からない、ましてやその時になってようやく彩花ちゃんのことが好きだと気付いたなんて言えるはずもないだろう……、──それに例え記憶が元に戻らなかった場合、再び彼女に嫌われることにもなるかもしれないし最悪は拒絶されることだってありうる、……だから僕は怖かった、このまま彼女が記憶を取り戻すことなく僕のことを忘れて生きていくことになってしまうのではないかと思い始めると恐怖心が抑えきれずに体が震えてきた、 そして僕は無意識のうちにこう呟いてしまった、「……そんなのは嫌だ、絶対に嫌だ!お願いです神様、お願いします……!私の願いを聞いてください……!」、僕は必死に祈った、そして同時に願った、「せめてもう一度だけ彼女に会わせてください、今度は二度と忘れないようにこの目に焼き付けておきますから……」、すると次の瞬間、今まで経験したことのないほどの強烈な睡魔に襲われて僕はそのまま眠りについてしまった、……まるで夢の世界に誘われるように、──そしてそれから数分後のことである、 突如として病室の扉が開かれるとともに僕の名前を呼ぶ声が聞こえてきたことで僕は目が覚めた、──だがその瞬間目の前に現れた光景を見て思わず固まってしまった、何故ならそこにいたのは紛れもなく彩花ちゃんだったからだ、彼女は僕を見るなり満面の笑みを浮かべてこう言った、

『ただいま♪ダーリン!』と、それを聞いた僕は嬉しさのあまり思わず泣き崩れてしまったもののなんとか言葉を返すことにした、「……おかえり、 そしてお帰りなさい、」

──そう、これは決して幻などではない本当の出来事なのだ、僕はそれを改めて実感しながら彩花ちゃんとしばらくの間、見つめ合う形となったもののやがて我慢できずに彼女を抱き締めたのだった、

(終)

〈補足説明〉:この物語は、いわゆるバッドエンドの物語となっています。ハッピーエンドが好みの方は閲覧しないことをお勧めします。なお、この物語の主人公が彩花ちゃんだとすると主人公と結ばれるはずだった相手は主人公の恋人でもある水瀬くんとなるわけですが、彼は作中でとある理由から記憶を失ってしまったため、それを思い出すことが出来なくなってしまった、つまり主人公は自分の意思で彼を手放したということになるわけで……だからこそ彼女は最後の最後まで自分の気持ちを押し殺してでも彼を守るために彼の記憶を取り戻させないためにこのような行動に出たのではないかと思っています、(本当は別れたくなかったはずなのに……

ですがそれが結果として水瀬くんとレイナさんの恋を成就させる要因になったとも言えるので結果オーライとも言えますが……)

※ご意見・ご感想がありましたら宜しくお願い致しますm(__)m……そして私は目を覚ました、 辺りを見回すと見知らぬ天井が見えてここが病室だということがわかった、さらに驚いたのは隣に彼が寝ていることだった、どうやらずっと側にいてくれたらしい、 それを見た私は途端に嬉しくなった、……だって私のことを忘れていない証拠だからである、 そう思った私が眠っている彼に声をかけようとした時だった、ふと彼の手が視界に入ったかと思うと何故かその手には包丁らしきものが握られていたのだ、──そのことに気付いた瞬間私はゾッとして思わずその場から逃げ出そうとしたのだがどういうわけか足が動かない!?そうしているうちにもゆっくりと起き上がる彼を見た私は怖くなって目を瞑ると耳を塞いで身を小さくするなりその場で震えていた、……なぜならその時の彼の瞳は明らかに常軌を逸していたからである、 その証拠に彼から発せられる言葉はどれもこれも理解しがたいものだった、──曰く「俺は殺人鬼だ」とか、 また曰く「お前は俺の大事な人だったはずなんだ、だから俺と一緒に来てくれ」といったようなものである、……しかしそんな彼の姿を見て思ったことがある、もしかすると今の彼には私と過ごした日々の記憶が無いのではないだろうか?、なぜなら普段の彼なら絶対口にしないであろう発言ばかりをしてくるし何よりあの虚ろな目を見る限りおそらく正気を失っているとしか考えられない、 そう感じた私は何とかしようと試みた、……だが今の彼に私の言葉は届かない、 何故なら今の私には彼の言葉を理解するだけの理性が残されていないからである、 なぜなら今の私の心の中には殺意という名の感情が支配していたからだった、──何故なら今の私にとって彼は自分の邪魔をする存在でしかない、……ならばそんな存在はさっさと消してしまうに限ると考えた私はまずどうやって彼を殺そうかと考えを巡らせてみた、……その結果、私は一つの結論に至った、それは単純に首を切り落とせば良いのではないか?というものだった、 だが、ただ首を切るだけではダメだ、……何故ならそれだけではまだ生きている可能性がある以上、油断はできないからだ、だから確実に息の根を止めるためにはやはり急所を狙うしかないと思い直した、……そこで私は考えを改めることにした、……というのも仮に致命傷を与えることに成功したとしても即死しなければ何の意味も無いと考えたからだったのだ、だがそうなると方法は限られてくる、例えば脳にダメージを与える方法として代表的なものといえば心臓への一突きか、それとも頭を強く打ち付けることによる頭部破壊だろうか? どちらにせよ今の私の力ではとてもではないがそこまでの傷をつけることは難しいように思えた、何しろ腕力が弱いせいなのかいくら振りかぶって力一杯叩きつけてもビクともしないのである、それどころか下手に叩きすぎて手を痛めてしまったほどだった、……なのでいっそのこと首を絞めてみようかとも思ったがそれはやめておくことにした、何せ今目の前にいる男は私の彼氏なのである、もしこのまま絞め殺すようなことがあればきっと後悔するだろうと考えたからだ、──そう考えた私は別の方法を取ることに決めた、その方法が何かと言えばそれはとてもシンプルなもので簡単なことだ、すなわち毒を用いるという方法だったのである、 しかしこれには大きなリスクがあることも承知していた、それは自分が持っている薬が本当に効くのかどうか確証がないことであり更に言えばたとえ致死量まで投与できたところで必ず相手が死ぬとは限らないという点にあった、……だが今はそれに賭けてみるしかなかった、 そして早速行動に移すことにした、幸いにも近くに点滴パックがあったおかげで中身を確認することができた、そこには栄養剤と書かれたラベルと共に緑色の液体が入った容器が取り付けられておりその横には注意書きのようなものが添えられていた、……それを見て私の中で一つ疑問が浮かんだ、何故ならそこに書かれていたことが私にはよく分からなかったからである、何故ならその注意書きにはこんなことが書いてあったのだ、「……この薬は用法容量を守って正しく服用してください、飲み過ぎは禁物です、場合によっては副作用が出る場合がありますのでくれぐれも自己判断での使用は控えてください」と書かれていたからである、……とはいえ今の状態の私にとってはそんなことどうでも良かった、なぜならこれからやることを考えれば考えるほど高揚感が沸き起こってきて居ても立ってもいられなくなってきていたからだ、……そして私は意を決して注射器を手に取ると針先を使って狙いを定めると勢いよく腕を突き刺した、その瞬間だった、 突然全身に痛みが走ったことで私はその場に倒れ込んだ、 慌てて自分の体を見てみるとそこは血塗れになっていた、──しかもかなり深いところまで刺されていたせいで出血量が半端なくこのままだと死んでしまうのではないかと思った、 ──このままではまずい!早く止血しないと!、……そう思ったものの体が言うことを聞いてくれない、……それどころか意識が朦朧としてきてしまい今にも気を失いそうになる始末だった、だがここで気絶してしまったら全てが水の泡になってしまう、それだけは絶対に嫌だった、……何故なら目の前で横たわる彼の姿が次第に霞んできたことで私は確信したのだ、このまま意識を失えばもう二度と目覚めることはないだろうと……だからこそそうなる前にやるべき事を済ませておきたかった、……そしてようやく最後の仕上げに取り掛かることが出来たことで私の胸の中に安堵感が広がっていくのがわかった、……後はもう待つだけである、そう考えていた矢先、ついに待ち望んでいた時がやってきた、……何故なら、 ──私が倒れ伏した音を聞いたからか、彼が目を覚ましてこちらを向いたからだ、そして目が合ったその瞬間、彼と目が合っただけで今まで感じていた憎悪にも似た感情が薄れていくのを感じて、……私は思った、 ──ああ、これで全てが終わったのだと……その後のことは何も覚えていない、 ただ一つだけ言えることがあるとすれば私はこうして彼の前から永遠に姿を消してしまい二度と姿を現すことはなかったということくらいだろう、

(終)

「おはよう水瀬くん」

僕はその声を聞いた瞬間一気に目が覚めた、それと同時に彼女が戻ってきたのだということに気付くと同時に、彼女の名前を呼ぼうとしたのだが、どういうわけか上手く声を出すことができなかったため、結局そのまま黙って見ていることしかできなかった、──それでも彩花は僕が目覚めていることに気が付くなり嬉しそうに微笑んでくれたものの、何故かすぐに俯いてしまった、……それもどこか悲しそうに見えることから何かあったのではないかと心配になり声を掛けようとした時だった、不意に彼女が僕の名前を呼んできたかと思えばこんな言葉をかけてきた、「……ごめんね、私の勝手なワガママであなたを苦しめるようなことをして……」と、 それを聞いた僕は思わず驚いてしまい彼女にその理由を尋ねようとしたのだが、その直後彼女は驚くべきことを口にした、「実はね、あなたはまだ記憶が混乱しているかもしれないけど今から10年前のあの日のことを覚えていますか?」、そう口にした直後彼女はゆっくりと語り始めた、

「──あの時、水瀬くんは私に別れ話をしてくれたんだよね?理由はあなたが私のことを好きではなくなったからだと言って……」

その言葉に僕は思わず目を見開いた、……なぜならその発言は僕にとって全く身に覚えのないものだったからである、──だからこそ彼女の言葉を聞いているうちに段々と腹が立ってきたこともあってつい反論してしまった、「違う!俺はそんな酷いことは言っていないはずだ!」、だが次の瞬間何故か彩花が急に悲しそうな表情を浮かべてきたかと思うとこんなことを言ってきた、「……やっぱり覚えてないんだ」、その言葉を耳にした途端何故だかわからないのだが胸の奥が激しく痛んだ気がした、 そんな僕を見ていた彩花は再び口を開き話の続きをし始めた、

「……あれは高校に入ってすぐのことだったよ、放課後の教室で私が帰ろうとしていると急に後ろから呼び止められたの……、振り返ってみるとそこには見知らぬ男子が立っていたわ、どうやらその人は私を呼び出したみたいだったんだけど最初は何のことかわからなくて戸惑っているだけだった、するとその人が突然私に『好きだ』って告白してきたの、……突然のことに驚きつつも私は何とか断ろうとしたのだけど、なかなか諦めてくれなくて……、そうこうしているうちに他の生徒たちが集まってきてちょっとした騒ぎになってしまったのよね?それで結局その日はそれ以上何も言えずじまいで終わったのだけれど、それから毎日のようにその人は私のことを迎えに来るようになったの……でもね、いくら断っても諦める気配がなかったのよ、しかも毎日会いに来てくれるし優しい言葉をかけてくれるから段々心苦しくなってきたというか申し訳なくなってきたっていうか……そんな感じがしていたある日のこと、私はその人の前で泣き出してしまったことがあったよね?……あの時の私は怖かったんだと思う、あまりにもしつこいものだから何度も断る度にだんだん追い詰められているような気持ちになったせいで自分でも気付かぬうちに涙が出てきてしまっていたのよ、それを見たあの人は何を思ったのか何も言わずに抱きしめてくれたんだよね、……それが凄く嬉しかったのを今でも覚えている、……だっていつもだったら泣いていようものなら周りから冷たい目で見られるかもしくは呆れられるだけだから……」

ここまで話し終えたところでふと我に帰ったかのように我に返った彩花は慌てた様子で再び謝ってきたのだが、僕はそんな彼女を見ながら先程聞いた話の内容を思い出してある一つの疑問が湧いてきたのでそれを口にしてみた、 ──そもそも僕と彼女は付き合っていたのか?……

と、それに対しての答えは意外なものだった、「……違うよ、付き合ってなんかいないよ」、そう答えるなり続けてこう言った、「……というより私は最初からあなたの彼女なんかじゃないしこれからもずっとそうなることはないと思う、……だって今の私は記憶を失ってしまっているんだもの……」、その言葉を耳にするなり今度は僕が動揺してしまったもののどうにか気持ちを落ち着かせて尋ねたところ返ってきた言葉は思いも寄らないものだった、

「……ねえ水瀬くん、私と初めて出会った時のこと覚えてるかな?」

その質問に対して当時のことを思い出そうとしていた時だった、突然彩花の様子がおかしいことに気付いたので慌てて彼女の名前を呼んだ、しかし返事がないばかりか反応もないままだったためいよいよ焦り始めていた時、ようやく彼女が口を開いて何かを話し始めたので安心したもののそれは想像を絶するものだったのである、「……初めて会った時はね正直あなたのことが嫌いだったの」、その言葉を耳にした瞬間思わず固まってしまったもののさらに話は続いた、

「……何でかというとあなたが私にちょっかいばかり出してくる上に勝手に人の家まで上がり込んでくるような人だったからだよ?おまけに学校でもやたらと話しかけてくるしとにかく迷惑極まりない存在でね?、だから本当はあなたと仲良くなりたいとも思ってはいなかったし関わりたくもなかったんだよ、だけどどうしてか知らないけど向こうから絡んでくることが多かったから私はその度に拒絶してたけど結局は無駄なあがきにしかならなかった、……というのもあなたときたら何度突き放しても何度も何度も懲りずにやって来るもんだから最終的には私も折れて仕方なく一緒に行動するようになったの、でもいざ一緒になってみれば思ったより悪い人じゃないことがわかったからね、むしろ良い人だと感じたくらいだし一緒にいる内にどんどん好きになっていったの、……でもいつからかその気持ちに違和感を持ち始めた、そして気が付いた時にはもう既にあなたのことが好きだったんだって……」

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