「そなたらが見ているのは現実だ。決して夢ではない。彼らは獣人だ……」

「まさか……宮殿に獣人が……!?」

 官人らは口々に話す。

「彼らは、獣でありヒトでもある。それはどう足掻いても変えようのない運命だ。獣人と言う縛りをこの帝国がはるか昔に創ったせいで、彼らは迫害され、管理され、この地から逃げることすら許されなかった。彼ら獣人が姿を見せなくなり、人間は“絶滅”したと、まるで動物のように扱い、その存在すら記憶の中から消し去る。そんな彼らがなぜ、我々の護衛としてこの恐ろしい宮殿に来たのか……今もこうして、片時も離れず傍にいるのか……私はずっと考えていたのだ。それは、誰かを護りたいと思うからだ!彼らのなかには、ヒトも獣も獣人も、壁などない。あるのは愛する者を護りたいという意志だけだ。そんな彼らに、私は役職を与える」

 皚は感情をぶつける。

 神官・桜那は彼の手に一つずつ武具を手渡す。それを助けるかのように、黎、碧、緋が手を差し伸べる。

「この盾と剣は、誰かを傷付けるのではなく、自らと仲間を、そして愛する者を護るために使いなさい」

 彼はそう言うと、桜那から受け取った武具をアダマスに手渡す。それを見ていた黎らはそれぞれ自分の獣人、ルベウス、マリーン、アーテルに手渡していく。

「そして、この鎧は……そなたの身を護ってくれる。必ず身につけ、生涯……私のそばにいるんだ。私より先に命を終わらせるな……。いいね?」

 頑丈な重い鎧を、彼はアダマスの身に着けた。

「ちょっと重すぎるか。改良して軽くしな……」

「いいえ……このくらい、どうってことありません。我々は獣人ですから、この重さを身に着けていても戦えます。この重さは……皚さまのお気持ちであると、私は受け取ります」

 アダマスは目に涙を浮かべ、皚を見つめた。 

 それからも、各官人らの役職が発表され、それぞれの役官服が手渡されていった。

 全ての官人にそれが手渡り、賢人会議が閉会となったのは、日が沈んだ頃だった―――。


「皚さま、今日はお疲れでしょう。早くお休みになられては……」

 宮殿の外を歩いている皚に声を掛けるアダマス。

「うん。でも……見ておきたいんだ。皇子としてここにいられるのも明日までだからね。桜那が、明日すべての準備を終える。明後日にはあなたはこの帝国の皇帝になるんだって変な重圧をかけてきていたからね」

 皚はそういう。

「皚さまには申し訳ありませんが、私は皇帝となった皚さまのお傍にいられることを嬉しく思います。昔からの夢でしたから……」

「アダマスの夢?私が皇帝になることが……?」

 彼は頷き話す。

「はい。本当のことを言うと……宮殿に来るのは私にとって嫌なことでしかなかったのです。自らの仲間たちを死に追いやった元凶となるところでしたから……。神聖山に帝国中の獣人らを集めても十数人ほどしかいなくて、それも段々と数は減っていきました。いつしか、五人しかいなくて……それが、私とルベウス、マリーン、アーテルだったんです」

「あと一人は……?」

「それに関しては……今はまだ伏せさせてください……」

 アダマスは続ける。

「我々五人でこれからのことを相談しているうちに、お告げがあったんです。皇子が誕生すると。しかし、命を狙われる運命で、それを護るために獣人らの力を借りに皇帝が助けを求めに来ると。そして、皆様方のお父上である先代皇帝が参られ、お告げの通りに事が進みました。私はそこで、いつの間にか夢に見ていたのです。いつか、皚さまが皇帝の座に君臨され、その隣に私が立つ……それが私の夢だと。ですから、私の夢を叶えてくださったこと、本当に感謝しているんです」

 彼はじっと皚を見つめる。

「アダマス……君は本当に……」

 皚が何かを言いかけたその瞬間、彼らの間に何かが横切った。

 それは青く、光り輝く何かで、ものすごいスピードの光の球……。

「い、今のは!?」

「分かりません!私にも、スピードが速すぎて見えませんでした。ですが、ここは危険です!すぐお部屋に!」

 アダマスは皚を護るように、神経を張り巡らせながら部屋へと連れ帰った。

「何だったんだろう……」

「一瞬ですが、見えたのは青い光球でした……。あれを飛ばせるということは……獣人でしょうか。視えないものを光球にするには、我々が持つ異能しか……」

「どちらにせよ、これはまだ誰にも。もちろん、弟たちには何も言わず、このことはアダマスだけに……。皇帝になる前に何かがあってからでは遅い。私たちの夢を叶えなければ……ね?」

 皚は強張った表情ながらも、アダマスにそう告げた。

「ええ……かしこまりました……」

 皚さまだけは命に代えても守らなければ……。

 アダマスの中には、そんな想いがあった。

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