②
「兄上……!」
黎の目は輝いている。
「そこで、みんなには私の手足となってほしい。皇帝補佐には碧と緋に、そして宰相には黎に就いてほしい。そしてアダマス、ルベウス、マリーン、アーテルには……近衛隊に入ってもらう」
皚はそう言った。
「皚さま、我々は獣人です。この宮殿の中でも姿を隠している身ですよ?申し訳ありませんが……それには従えません……」
誰よりも早く口を開いたのはアダマスだ。首を横に振り、断りを申し出る。
「だめだ。私は獣人も同じ世界で暮らせる帝国を創る。残っている獣人は君たちだけでないのだろう?ほかにもいる……そうであろう?だったら、君たちが先陣を切るんだ。近衛隊に入って、この帝国を護り、私と共に人も獣人も暮らせる国を創っていこう……?」
皚はそう言ってアダマスの肩に手を置いた。
「ですが……我々の姿を知らぬ者ばかりです……この耳と尾をいつも隠してきましたから……近衛隊に入るとなると、耳と尾は一体……まさか切り……」
「そのままでいい。それが君たちの姿だ。持って生まれた姿を変える必要などない。私に任せておけ」
皇帝になると決めた皚は強かった。
誰よりも頼りになるのは、やはり皚であると黎は彼を見つめる。
「緋も、碧も、それでいいね?君たち二人を補佐に任命したのはちゃんとわけがある。それも会議で話す。黎に宰相についてもらったのにも、もちろん理由があるんだ。三人とも異論はないね?」
彼がそう言う。
黎は頷き緋、碧の二人も渋々ながら頷いた。
「よし、そうと決まったら……アダマス、二日後に賢人会議を開くから、各官人に書簡を送ってもらえるかい?」
アダマスは一礼し、すぐさま書簡の作成に取り掛かった。
「三人とも、二日後の会議……必ず参加するんだ。いいね?」
彼はそう言って、皇弟に一瞥をくれる。
「もちろんです!兄上!」
*
―――二日後
賢人会議が開かれる
日が昇ってすぐ、各官人が集められた。その数五十人。
「一体何を話されるのか……」
「先代皇帝がご崩御されて、ご子息である四人の皇子様方はやりたい放題ですからな。また何か仰られるのでは?」
「ははは、そうかもしれませんな」
神武殿の幕の裏では、皇帝の正装姿を身につけた皚が立っている。
「私たちは、彼らの目にはそう映っているのか。心外だな……」
「皚さま……大丈夫でしょうか……。この空気を、一体どうやって……」
「私に任せておけばいい」
皚はそう言って、幕に手を掛けた。
「あ、あの姿は……っ!」
皚が身に纏う皇帝の正装服。指を指す者、驚き口に手を当てる者、言葉を失う者とさまざまだった。
「今日、そなたらに集まってもらったのには訳がある。先代皇帝が崩御し、
皚は声を張った。
騒がしかった神武殿は、途端に静まった。
「あいつら……分かりやすい人間だな」
ルベウスが言う。
「それには同感です」
マリーンが答えると、ルベウスは「お前も相当堅いけどな」と苦笑した。
「我がアステウス帝国の守護神、朱雀、玄武、青龍、白虎……彼らの名のもとに命ずる。私は……皇帝の……」
幕の裏では、アダマスが両手を握りしめ、祈るように目を閉じていた。その体は力が入り、わずかに震えている。
「皚さま……」
そんな彼の背に手を当てる、マリーン、ルベウス、アーテル。
「自分の主人を信じるんだ」
マリーンはそう告げた。ルベウスの瞳は、皚をまっすぐに見つめる。
「ゲルハルト・皚・アトラス……この地を護る四神よ、我が皇帝と認めるか……っ!」
皚は大声を張った。
すると、皇帝の座である玉座が温かな光に包まれた。
「あ……」
「光だ……」
「先代皇帝が就かれたときも光って……」
「四神が……神が認めた……」
官人らは玉座の隣に立つ皚から視線を離せないでいる。
「神は、私を皇帝にと認めた。そなたらはどうだ?」
彼が問いかける。
「し……新皇帝、万歳!」
「……万歳!」
官人らは、そう唱えた。
「ゲルハルト・皚・アトラスさまを我らが皇帝と認めます」
突然、幕の裏から現れた女性。
当たり前のように、皚の隣に立った。
そして、緋、碧、黎も壇上にと上がる。
「これより、そなたらに役職を与える。私がこの帝国を治めるにあたり、今までの慣習は取り去る。一新し、共に繫栄する帝国を築いていこう!」
皚はそう説いた。不服そうな表情を浮かべる者、安堵の表情を浮かべる者とさまざまであった。
「ここへ……」
幕の裏に待機していたアダマス、ルベウス、マリーン、アーテルを呼ぶ皚。
彼らはまだ耳と尾を布で隠していた。それが、官人らがいつも見ている姿だ。
「我が皇弟の緋と碧に、皇帝補佐を任命する!そして、宰相に我が皇弟の黎を任命する!」
皚は次々に口にしていく。
「聖職官には、北州の神殿より神官・
神武殿はいつの間にか、異議を唱える者はいなくなっていた。
「そして、私がここでそなたらに伝えたいことがある。とても重要で、皆に理解してもらいたいことだ……。私はこの帝国を、この先も永遠に繫栄していく帝国へと築き上げたい。そのためには、皆の理解が必要になってくる。ここに立つ四人は、私と皇弟の護衛として、我々が幼い時に来宮した。自らの郷を捨て、生涯をここで終える覚悟でこの地に来た彼らがいることを皆に伝えたい。……外していいよ」
皚は優しい声で、アダマスらに布を取るよう言った。
「あ……!」
「まさか……それ……」
「絶滅したんじゃ……」
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