序章 後

「一体どうなさるおつもりですか陛下……」

 重臣はひざまづき、進言する。

「なにとぞ、後継者を……でなければこの国は滅びます!」

 必死に話す重臣を横目に、皇帝は頭を抱えていた。

「陛下、皇妃が身籠みごもられないならば……どこからか……」

「何を言う!私の妻は皇妃だけだ!他の女など……」

 皇帝は大声を張る。

 

「私のせいで陛下は連日……重臣たちに……」

 皇妃は敷地内を歩きながら、心を痛めていた。

 

 だが、いくら年月が過ぎても皇子は生まれず、御子さえ授かることがなかった。

 皇妃はついに心を病み、自害してしまう……。

 そんな彼女の後を追うように、皇帝の体は病にむしばまれた。

 自らの命は残り少ない。

 この国と共に滅びる決意を胸に、皇帝はその生涯を終えた—――。


 重臣らは、皇帝を失った悲しみと、この国が滅びる喪失感でさいなまれていた。

 だがそんなある日、一人の男が皇宮に現れる。

「私がこの国を立て直します」

 そう宣言し、自ら皇帝の座に君臨した。

「一体どうなさるおつもりか……!そなたは……」

「この国は滅びません。あと一月ひとつき……お待ちください……」

 彼はそう言った。

 一月後に何があるというのだ……。重臣らは不信の目を向ける。だが、男は顔色一つ変えず、ただそこにいた。


 一月後、皇宮に赤子の泣き声が響いた。

「無事に産声を上げられました!」

 産婆は喜びの涙を浮かべながら、皇帝に知らせる。

「そうか……!妻も、子も無事だな?」

「はい!皇妃様も無事であられます!御子も……様もご無事です!」

「全員、男だな?」

「はい!神のお告げの通りです!」

 産婆がそう告げる。

 それを耳にした重臣らは、目を丸くさせ、言葉など発せないでいた。

「皆、聞いたな?我が皇妃が、四人の皇子を誕生させた。これで、私を皇帝と認め、妻を皇妃と認め、皇子らを私の後継者だと認めるな?」

 彼はそう言う。

 誰が最初か、皇宮は「新皇帝陛下!万歳!」と歓声に包まれた。


 それからは皇子らはすくすくと成長し、この上ない美形に成長し、才覚をも手にした。

 だが、彼らはそれがゆえに命を狙われる。

 はじめは小さなケガから。しかし、いつの間にか命が危ぶまれるほどの事故へと発展していった。

 皇帝は頭を抱える。

「なぜだ……なぜ命を狙われる……」

 そんな時、夢を見た。

神聖山しんせいざんの頂上に行きなさい。そこにはかつて存在していた、ヒトであってヒトでないものたちがいる。彼らを皇子の護衛につけなさい』

 皇帝はそう“お告げ”を受けた。

 彼はその“お告げ”のとおり、神聖山へと向かった。

 何日も何日も、ただひたすら登り続ける。皇子らを守るために、頂上へと。


「誰かいないか……!?」

 声を張る。

 がさっ……と、草を踏む足音が聞こえた。

「だれか……き、きみたちは……」

 皇帝の前に現れたのは、ヒトの姿に耳と尾が生えたヒト……いや、動物……だった。

「そなたたちが……」

「そう。我々があなたがお探しの“ヒトであってヒトでないもの”です」

 そう口にしたのは、屈強な体つきだが物腰柔らかな男性……いや、青年だった。

「私はこの国の……」

「皇帝……でしょう?我々にはお見通しなんですよ。あなたが今日ここへ来ることも、我々をあなたの御子……皇子様らの護衛として来宮させようとしていることも……全てわかっています」

 青年はそう言った。

「だったら話は早い!今すぐにでも……」

「そうもいきません。我々はここを離れられない。いつの間にか同族は激減した。残っているのは我々四人だけです。この血を守らなければ……それに、護衛について、我々に何か得でもありますか?」

 皇帝は言葉を失った。

 自らの子を守るために護衛につけようとした彼ら。だが、彼らにも生活はあり、同族を守る義務がある。それを奪っていいものか……。そう悩んだ。

「……君たちに仲間はいるのか……?」

「なぜです?」

「さっき、“激減した”と言った。ということは、少なからず同族はいるということであろう?もし、皇宮で皇子らの護衛をしてくれるというのなら……君たちが安心して生活できる居住区を設けよう」

 皇帝はそう提案した。

 しばらくの沈黙のうち、青年は「……分かりました。約束していただけますね?」と提案を飲む。

「もちろんだ。皇帝として、そなたらの立場も守る。それが私にできる、そなたら一族へのお礼だ……」

 

 皇帝と共に、彼らは麓から外界へと歩みを進めた。

 もちろん、尾は服の中へ、耳は被り物で隠して―――。


「皇子たちをここへ」

 従者に告げ、四人の皇子を彼らの前に連れてきた。

「この子が第一皇子のがい、この子が第二皇子のあかつき、この子が第三皇子のあおいで、この子が第四皇子のれい

「四つ子……なるほどな。これが“神のいたずら”ってやつか」

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