四神奇譚(仮称)

文月ゆら

前日譚

序章 前

 その昔、一つの大国があったそうだ。

 国が誕生し、その命を終えるまで繫栄し続けた、昔にも今にもない大国が―――。

 その大国の名は“アステウス帝国”と言うそうだ。

 この国の古い言葉で“共に”と言う意味があるらしい。


 その国が祀っていたのは四神。

 南の朱雀、東の青龍、西の白虎、北の玄武。

 そしてこの四神の力を持つ、ヒトであってヒトでない者……“獣人”も存在していたとか……。

 四神と共に、獣人と共に……と言う意味だろうか。

 

 ある年の皇帝は、皇族の証として“獣人”を傍に置いていた。彼らが持つ能力を我が物とし、時に政治に、時に癒しに、時に戦に……彼らを使った。

 だが、何の因果かその皇帝には、皇子が産まれることなく、皇帝の座はいつの間にか空いた―――。

 そして“獣人”の姿も減り、一気に滅亡への道を歩むことになった。


 だがそんな時、一人の男が皇帝としてその座に身を置いた。

 新皇帝の元には、の御子が誕生した。

「安泰だ!この国は崩れずに済んだ!」

「一度に四人の御子が誕生するなんて神の使いだ!」

 などと、喜ばれた。

 だが、それはある意味当たっていたのかもしれない。

 は、それぞれが光に包まれ誕生したのだ。

 成長するにつれ、彼らは才能に恵まれ、何不自由ない生活を送っていた。


 だが、それを疎まれた彼らは命を狙われることもしばしば。

 それを知り、危惧した皇帝は皇子らに護衛を付けた。

 その護衛は、絶滅したはずの“獣人”だったのだ―――。


 皇帝が皇子らにつけた獣人は、この国が祀る“四神”の力を持ち、それを異能として自らの身を隠し、密かに種族を守り続けてきたのだった。

 皇帝はそれを知っていたのか否か、皇子らを守るよう命令した。

「皇帝の意のままに……」

 その獣人はそう口にした。


 そして月日は流れ、皇子らは獣人に守られながら大人になった。

 文武両道、立派な後継者として成長した。

 そんな彼らの姿を目にした皇帝は、自らの残された命が短いことを知る。自らの身を隠す直前、この大国を皇子らに治めさせることを決めた。

「この国を……お前たちに託す……」

 皇帝は、国を四つの州に分け、それぞれを四人の皇子らに託した。

「お前たちがそれぞれを治めよ……そして、いつの日か皇帝を立て、この国を一つに……」

 そう言い残し、皇帝はその生涯を閉じたそう—――。


 皇子らは意見の食い違いやら、州の治め方やらで喧嘩が絶えない。

 だが、常に互いを尊重し合い、喧嘩しながらも切磋琢磨し、やがてその国を一つにする日が来た……。

 

 皇帝を立て、国をまとめ、その国が寿命を全うする日まで繁栄を続けた—――。


 これは、四人の皇子と四人の獣人、そしてかつて存在した大国が一つになるまでの物語———。

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