最終話・そんな風に。

「うっ……うぅ……おめ……おめでとう、おめでとう絹枝きぬえちゃんッ!!」

「ふふ、ありがとう」

 あの日から――吹っ切れたことで脇目もふらずにはちゃめちゃに頑張って――二年。ようやく、そこそこ名のある新人賞を頂戴し、月刊誌での長期連載が決まりました。

 お祝いということで唯那ちゃんが私の家に遊びに来てくれて、ローテーブルの上は彼女の手料理やちょっといいお酒が所狭しと並んでいます。

「お、おめ、本当に……おめでとうぅぅぅうう~」

「もう、泣きすぎだよ唯那ゆなちゃん~」

「だって……だって……嬉しくて……」

「うん、ありがとう。唯那ちゃんが喜んでくれるのが、私にとって一番のご褒美だよ」

「嬉しいんだけど!!」

 明らかなオーバーペースにトドメを刺すように、度数の強い日本酒を豪快にクッと流し込むと、唯那ちゃんは私をがっちりと抱きしめて言いました。

「嬉しいけど……ふ~あ~ん~!!」

「確かに甘い世界じゃないからねぇもっと精進しないと」

「そこじゃなくて!!」

 えぇ……ここ以外に不安ポイントあります……?

「絹枝ちゃんの才能が世界にバレちゃった……これからグングン……有名になって……遠くになっちゃったら……私……私はだって……普通のOLだし……」

「こーんな可愛い普通のOLがいるもんですか」

「そういう話をしてるんじゃなくてぇ~」

「そういう話だよ」

 手酌して波々に注いだおちょこを唯那ちゃんの手から取り上げてから、ゆっくりと床に押し倒しました。

「どんな仕事をしようと、どんな経験を積もうと、私の中心には唯那ちゃんがいて、私の未来にも唯那ちゃんがいてくれる。だから頑張れたし頑張れるんだよ?」

「うぅ……絹枝ちゃぁん……」

「離れるなんて許さないから。わかった? 唯那」

「…………ひゃい」

 あの頃。自信がなくて、後ろめたくて、理由の見えない申し訳無さに支配されていた頃の私とはもう、違います。

 唯那ちゃんという太陽が私に光を与え続けてくれたから、こうして祝福すべき今が訪れたのです。

 だから、彼女が不安に思うと言うのなら何度だってこうして、言葉と行動で想いを伝えます。

「唯那ちゃん、ずっと私の傍にいてくれて、ありがとう」

「ん、ん……こちゅらこしょ……」

「ふふ、可愛い」

 珍しく酔いつぶれてしまった彼女の額を撫でて、軽く口付けをして。

 私達のこれからを思い浮かべました。

 きっと想像もできないような苦難が待ち受けているでしょう。気骨が折れるような絶望も、根幹を揺るがすような衝撃も。

 全部がダメになって、自分という存在に心底信頼をなくし、彼女の隣にいることを恥じる日だって再び訪れるかもしれません。

「きぬえちゃ……おんなじ……におい……すゆ、ね……」

「ふふ、そうだね。はぁ~……可愛い」

 それでも、光を分け合って。あなたから受け取った光を、私の中で育てて。あなたがかげる日はそれを送り返して。

 そんな風に、生きていけるよね。

「大好きだよ、唯那ちゃん」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

今夜、フラれる気がする。 燈外町 猶 @Toutoma

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ