第2話・執筆の開始

 壁が光った後、純白ロードの目の前に文字が表示された。

【物語のあらすじを作ってください】

 と、表示された。


 まずは、テーマだ。

 言霊というのは言葉に宿る魂みたいなもんだったはずだ。

 それが機能するってことは、何かを訴えかける作品ならカリブンを止められるかもしれない。分かんないけど。

 取り合えず、舞台はどこにしよう。何を訴えかけるか。

(よし、戦争にまつわる物語で行こう)


 次に、登場人物や大まかなあらすじだ。

 主人公は……ええっと、『俺』でいいや。

 戦争は戦争でも、舞台は現代の台湾で行こう。

 ええっと、主人公は戦争で亡くなったヒロインをいつまでも忘れられずに家に引きこもる生活が続いていて、それである日家にミサイルが落ちて、家族を全員亡くす。そこから、『俺』は台湾を脱出し、日本のNPOに協力してもらいながら世界各国を飛び回ってお金を集める。台湾に帰った主人公は庶民にこの金を配る。そして……。




 あらすじを口述し終わって、純白ロードの目の前にはこう表示された。

【それでは、執筆を開始してください】

 小説の執筆をする、というのは初めてだ。まあ、どうにでもなる、はず。

「ドーン、ドーン。また海の方の町に砲撃があったらしい。内陸にある我が家も揺れている。俺は悪夢から目を覚ました」

 口述すると、真っ白な地面に、筆で書いたような黒い文字が写った。


 と、気づけばカリブンが俺のすぐ後ろまで来ていた。

「うわぁっ!! くそっ、やめろ!!」

 だが、カリブンに自分の意志は通じない。あいつはさらにスピードを上げる。真っ赤な目をギラギラさせながら。

「くっ、終わりだ……」

 俺は走れなくなってきた。終わりだ。ここで死ぬんだ。


 ――と、その時。


 地面に書かれた、俺の物語の数カ所が光った。

「グガアッ……」

 カリブンが悲鳴を上げる。次の瞬間、カリブンの動きが止まった。

「これが、言霊」

 しばらくあっけに取られてボーっとしていたが、思い出す。六十秒ほどたったらカリブンは再び動き出す。

 ――マズい。

 俺は、再び立ち上がり、どこまでも白い道を奥へ奥へ突き進んだ。




「母が心配しながら目玉焼きを作っている。俺は揺れが収まるのを待って、布団から出た。今日の夢は昨日と変わらない。チュンメイの悲劇だ」

 そろそろ、言霊の効果が切れたらしく、再びカリブンが動き出した。

「チュンメイは、俺の彼女だった。台湾の大学の優等生で、面倒見のいい女子だった。俺が告白して、受け入れられる。そして、ずっと一緒にいると誓い、ずっと一緒に話していた。映画館や遊園地にデートに行って、インスタに写真を挙げていた」

 意外と、口述では良く書けている。

 俺は、物語の中の『俺』の感情を想像し、こう続けた。

「なのに、俺とチュンメイの付き合いは一週間前に終わった。中国軍がいよいよ攻めてきた。台湾全土が混乱に陥った。それでも、俺とチュンメイは一緒にいた。でも……チュンメイの家の近くにミサイルが着弾し、チュンメイは……俺の一人しかいない大切な恋人はがれきに押しつぶされていった……」

 ズラズラと真っ白な床に文字が書かれていく。

「それから、俺はチュンメイに関する様々な夢を見るようになった。チュンメイの最期の夢を、毎日毎日。チュンメイの遺骸は見つかったが、そこらに埋葬された。チュンメイへの思いを俺は捨てずにいられない」


 ここまで来た時に、言霊が発動した。カリブンが動きを止める。

 と、目の前にはこう表示された。

【ボーナスタイム】

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