第7話(最終話) それぞれの・・

あっという間に月末となり、「候補生たちの進路」が決まった。


結論だけを言うと、「現候補生8名の内、4名が事務所の指定する配信サイトへの異動を希望」し、


残りの4名は「卒業」することとなった。


「・・・ちょうど半分になっちゃったか・・」


常連のファンといえるのは「霞」さんと「乃愛」さんの二人だけど、候補生同士のコラボや全体企画もあったため、残りの候補生6名もどんなキャラかくらいは知っていた。・・・そしてみんな、おそらくは「良い子」なんだろうと、主観ではあるが思っていた。なので、寂しい気持ちが少なからずある。



そして僕が常連のファンとなって推していた「バーチャルアイドル候補生 霞」と「バーチャルアイドル候補生サブリーダー 乃愛」は、二人とも「卒業」を選んでいた。


今日は彼女たちも含んでの、最後となる「卒業式配信」なのである。



その卒業配信も終了間近になり、「霞」や「乃愛」との別れは、最後の言葉を残すのみとなった。

・・ちなみに、卒業式配信を設けたのは、いわば元凶でもある事務所なので思う所もあったが、それを差し引いても、こみ上げてくるものがあった。


霞さんが、応援してくれたファンに向け、最後の言葉を言ってくれた。


「・・このような形の卒業となってしまい、思う所はあります。」


思わぬ人の思わぬ言葉にざわつくが、彼女は続ける。


「・・ただ、皮肉にも聞こえるかも知れませんが、このことが、「今の自分」と「これからなりたい自分」を真剣に考えさせてくれた気がします。」


ただひたすら、聴き入る。


「「アイドルになりたい自分」が、消えてしまった訳ではありません。でも、「今の自分なら、もっと他のこともやれるんじゃないだろうか?」「別の形で自分を表現できるんじゃないか?」」


「・・さらに言えば、「霞」でも「バーチャル」でもなくても、何かになれるかも知れないと思えるようになり、「卒業」を決意しました」


「・・・そんな風に思えるようになったのは、きっかけをくれた事務所の方と、応援してくれたファンのみんなのおかげです!ありがとうございました!!!」



・・・泣くしかないだろ、こんなの・・


本当に、こんな子を応援してきて、良かった!!




そして卒業式配信は、最後の卒業生の言葉を待つのみとなった。


大トリを飾るのは、「バーチャル候補生サブリーダー 乃愛」。・・・なんだけど・・


「・・ほら、乃愛ちゃん。泣かないで。最後の言葉いける?」


「霞せんぱぁ~~い・・・えぐっ・・・・みんなぁ~~、ガンバルから、ちょっとだけ待ってぇ~~」


感極まってしまい、なかなか最後の言葉が言えない乃愛さん。

みんなも、その気持ちはわかっているから、強くは言えない。だけど、時間は有限だ。すでにかなり押し気味なため、無情にも、配信終了リミットが近づいていた。


だから俺は、言ってやった。


「最後まで締まらないって、全く乃愛さんらしいっすねwww」


あまりに空気を読まないコメントに、場が静まり返る。それを狙って、次の言葉をかける。


「・・・でも、そんな乃愛さんだから、心から楽しかったです!!今までほんとうにありがとう!!卒業おめでとう!!!」


そして時は動き出す。


「そうだ、楽しかったぞ――!」「今までありがとうね――!!」「卒業、おめでとうございます!!!」「お疲れ様でした!」


コメント欄が怒涛の勢いで流れる。中には配信で見かける名前以外の方も多数見られたことが、悲しさと嬉しさと、誇らしさを与えてくれた。


「・・・ほら、乃愛ちゃん」


「・・・・・うん!!」


そして彼女は、彼女らしい最後の言葉を叫んだ。


「みんな、ありがとおーーー!!!」


「「乃愛」は卒業するけど、きっとまた近いうちに、別の形で頑張ります。もしそれを見かけたら、その時はまた応援してね――!!」


「「「「「はいぃーーーーー!!!???」」」」」



――――――――――


「卒業式配信」の数日前。

卒業する候補生に向けて、ファン有志で「寄せ書き」を贈った。


僕も「霞」さんと「乃愛」さん向けに、それぞれ自分の思いを書いた。


「アイドルの霞さんももちろん観てみたいです。が、「あなた」なら、きっとバーチャルリアル問わず色んな可能性があると、僕は勝手に思っています。新天地でも、自分のペースで頑張ってください。今までありがとうございました。」


「乃愛さん。アイドル目指してるのにあえて言いますが、「あなたは面白い」。少なくとも私はそう思っています。そして「ライブの時が一番」とも思っています。どんな形でもいいので、「天然おバカな」貴方の配信を、いろんな人に魅せて欲しいと思っています。今までありがとう!できればまた!!」


―――――――――――



・・・だから、「天然おバカなあの子」が、いつの日か、こんな風に叫んでくれる。僕に、ファンのみんなに、ささやいてくれることを、望んでいる。



「はじめましての方ははじめまして!そうじゃない方は久しぶり!!」


「元「バーチャルアイドル候補生サブリーダー」ふっかーーーつ!!・・だよ♪」

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