第6話 急転
「バーチャルアイドル候補生」が、このライブ配信サイトで配信を始めてから約半年過ぎた頃。候補生とリスナーの間に、良いとは言えない噂が流れていた。
「候補生たちが所属している事務所が、彼女たちとは別のバーチャルアイドルをデビューさせようとしている。」
候補生の方たちにそれとなく聞いてみるが、彼女たちも知らないかあるいは事務所から口止めされているのか、曖昧な返答ばかりだった。候補生のファンの一部が、事務所に問い合わせる猛勇を見せたらしいが、当然ながら答えてもらえなかった模様。
それでも、彼女たち候補生は、今応援してくれているファンのため、そして自分のため、これまで通り配信するしかなかった。
・・・そんな噂が流れて間もなく、「事務所初」の「バーチャルアイドルユニット」が、「候補生たちとは別のライブ配信サイト」にて、デビューすることが、事務所の公式にて告知された。
「当社のバーチャル事業にて、バーチャルアイドルのパフォーマンスを最大限活かせる方法は何かを熟慮した結果、この度の形におけるデビューが適当であると判断いたしました。」
「なお、今現在活動中の「バーチャルアイドル候補生」の今後につきましては、候補生一人一人の意向を確認した上で、各自判断させて頂きたいと思います。」
・・・・・・・・・ふざけるな・・・
僕はそう憤るしかなかった。
「・・・事務所の担当の方に、どういう事か聞いてきました。候補生の方々に問題はありません。ただ改めて事務所の方針を見直した際、より適した場と人材を選考し直した結果、今回の発表となったそうです」
・・・つまり、事務所の公式発表と同じって訳だ。いちファンである自分ですら、到底納得できないのに、当事者である霞さんはどんな想いだろう・・
「・・・それで、候補生の方々の今後については、何か聞いていますか?」
「・・・・・・」
我ながら意地が悪いと思うが、これを聞かないと話は進まない。嫌われるのを覚悟で、質問した。
「・・・今月いっぱいは、こちらで配信を続けて良いそうです。その後は、希望するなら事務所の指定する配信サイト、バーチャルアイドルユニットがデビューするところですね、で、配信活動しても良い」
「・・・そうでなければ、それ以後、このサイトで配信することはできないため、卒業扱いになるそうです」
「・・・なんだそりゃあ・・」
思わずつぶやいてしまった。他のファンの方も同じ思いだろう、納得できないコメントが殺到する。中には、事務所を非難するものもあった。
「・・・私も納得したとは言い切れませんが、事務所の方々にも事情があると思います。あまり非難しないで頂ければと思います」
霞さんの毅然とした言葉に、非難のコメントをしていた人のほとんどが謝罪する。
「いえ、お気持ちは嬉しいです。ありがとうございます」
強い人だ。
「・・・それで、霞さんは、どうしようと思っていますか?」
また嫌われ役を買って出る。
「・・・正直なところ、考えがまとまってません。あまり時間はありませんが、しっかり考えようと思っています」
「・・そうですね。失礼しました」
「いえ。・・・さーって!暗い話はここまで!今日は何をする予定でしたっけ!?」
気丈に振舞う彼女を、応援してきてよかったと改めて思った。
・・その一方で、
「・・・おかしいよう、ぶう」
「・・ぶうたれ、かわいいかわいい(棒読み」
「茶化さない!本当に怒ってるの!!」
「はいはい、わかってますよ。・・自分らも怒ってるんっすから」
「同じく!」「当たり前!」「許すまじ!!」と言った賛同のコメントが、一気に流れる。
過激な発言が多いが、今の配信は乃愛さんが許可した一部のリスナー以外は観れない形式を取っている。要するに気心が知れた常連さんばかりなので、包み隠さず討論している。僕もその中の一人だ。
「・・と言っても、いちアイドル、・・一部の反感だけで、会社の方針が変わることは、現実にはありえないこともわかってますよね?」
「・・・うん・・・」
この子は天然おバカかもだけど、常識が無い訳ではない。
「・・どうするかは乃愛さんが決める事だけど、どんな決断でも尊重しますね」
「・・・それは、卒業を選んだとしても?」
弱ってしまっている発言に、僕は頭がガンとなった。・・だけど、それも仕方がない。多分この子は、僕よりも若いだろうから。
「・・・正直、乃愛さんたちの所属している事務所には、良い印象はないです。なので、離れるのは選択としてありとは、自分は思ってます」
「それは俺も」「私も」多くの常連さんが賛同してくれた。
「だけど、事務所に所属していれば金銭面で安定なのも事実。他の配信サイトで仕切り直すのも否定しない。人によっては、そっちの方が合うかも知れないしね。」
「実際、異動を決めた候補生の中に、ひょっとしたら合うかもと思う方もいるからね」
「・・それであなたは、私は合うと思いますか?」
僕は、正直に答えることにした。
「乃愛さんは、自由なのが、一番合ってると僕は思います。」
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