第5話 コラボ配信

「バーチャルアイドル候補生」たちが配信を始めて約4ヶ月。あの「第1回バーチャル候補生総選挙」からは2ヶ月半が過ぎた。一度は争うと言うか競走した彼女たちだが、いや「地獄のイベントを乗り越えた仲」という意味では、むしろ前より仲良くなっていったようだ。


そんな中、複数の配信者同士がひとつの配信で会話や企画をする「コラボ配信」というものが、候補者同士でも度々行われていた。


「応援してくれているみんな、いつもありがとうございます!バーチャルアイドル候補生の霞です!今日は、同じ候補生にしてサブリーダー。仲良しの乃愛ちゃんとのコラボです!乃愛ちゃん、早速自己紹介どうぞ!!」


「はーい、バーチャルアイドル候補生サブリーダーの乃愛でーす。はじめましての人は、はじめまして!えっと、自己紹介・・乃愛は、じゃないわたくしじゃない、わたしは・・」


「「事故」紹介、ありがとうございます!!w」


「うっさい!!緊張してるの!!」


そう思ったから、ツッコミ入れたんだけどね。


「・・乃愛ちゃん。緊張しないで大丈夫だよ。とりあえず深呼吸。」


「そうですよ。はい、深呼吸。ヒッヒッフー」


「ヒッヒッフー。・・・あれ?これ、なんか違くない!?」


「うん、ラマーズ法って奴。よくドラマとかの出産で見かけるやつね」


「あー、あれって、ラマーズ法って名前なんだ―」


「・・・乃愛ちゃん、感心してないでツッコミ入れようよ」


「え? そうそう!深呼吸ですよ!ヒッヒッフー」


「うん。一時的な混乱はしてるけど、緊張は解けたみたいだね。じゃあ、コラボ企画始めようか」


「扱い慣れてる霞パイセン、サイコ―!!」


「でしょでしょ? もっと褒めたたえなさい」


「霞パイセン、賢い!綺麗!カッコイイ!!」


「霞先輩!賢い!綺麗!素敵!!!」


「・・待って。目の前にいる乃愛ちゃんもなんで言うの?・・・恥ずかしいんだけど」


「え?思ったから?」


「くぅ~~・・・」


「画面の向こうで、明らかに照れているであろう霞パイセンサイコ――!!今日のコラボ企画成功と言う事で、乃愛さん、お疲れ様でした!!」


「なんで!?わたし、まだ来たばっかだよ!!?」


いやー、この子らはホント面白いwww



そんな感じで始まった「霞さんと乃愛さんのコラボ配信」は、コラボ慣れしていないからかグダグダなところもあったけど、面白おかしく過ぎていく。

先のイベント含めた「バーチャルアイドル候補生」の話だけではなく、彼女たちの素の姿も垣間見え、良い配信だったと個人的に思う。


名場面や迷場面、珍場面?はそれほどたくさんあったが、個人的にこれが一番印象的だった。


「リスナーさんからの質問。「配信で困った事か悩んでいることがあったりしますか?」という事だけど、乃愛ちゃん、思いつくのある?」


「う~ん。・・これは配信始めてから今もずっと思ってるから、ちょっと恥ずかしいんだけど、」


「お、なんだなんだ?お姉さんに言ってごらん?」


「うん、乃愛。・・・なんて言うか、個性が特にないから欲しいなって・・」


「「「「「は?」」」」」


時が止まった。そして、おそらく、これを聞いた全員がこう思っただろう。


(((((この「個性の塊」のような子は、何を言っているんだろう?)))))


「えっと・・それ、何かのネタ?」


「ネタなんかじゃないですよぉ。本気ですよぉ・・」


(((((この子、マジもんだ!!)))))


こうなると、質問を振った霞さんの返答が楽しみ、もとい、大事になる。


「・・・うん、大丈夫。乃愛ちゃんは今のままでいいと思うよ」


「真面目に答えてくださいよ~」


(((((いたって真面目に、答えてますよ!!)))))


この時僕は、「自身のことは、実は自分が一番わからない」と言った言葉は、本当なんだなぁと実感した。大変勉強になりました。



そんな事もあり、当初は1時間程度の予定となっていたが、気づけば2時間以上過ぎていた。


「あれ?もうこんな時間?乃愛ちゃん、時間大丈夫?」


「大丈夫ですよ~。むしろ温まってきました~。これからが私の、乃愛の時間です~~」


「え~~・・・」


僭越ながら、助け舟出すか。


「乃愛さんの配信は遅い時間が多いですけど、霞さんはいつもよりちょっと過ぎてますね。名残惜しいですが、今日はそろそろ終わって良いかもですね」


「え?霞先輩、そうなの?」


「うん。・・正直、ちょっと眠くなってきた」


「わっ、知らなかった。ごめんね~」


「体調管理が一番っす。乃愛さん、配信やり足りないなら、ちょっと休憩して自分の所で始めても良いですし」


「そうだね~・・うん、そうしよう!この配信終わった10分後くらいに、乃愛の部屋で配信するから、まだ配信観れそうな方は是非来てください!」


「ぁ、じゃあ、私も観に行く~~」


「「霞先輩は寝てください!!」」


「そんなコメント欄と一緒に言わなくても―。ちょっとだけだよぉ~」


「はぁ・・まぁ、いいですけど」


「・・・ご自愛ください」


基本「頼れるお姉さん」気質なのに、たまに子どもっぽいんだよね、霞さんって。


「ということで、これにてコラボ配信終了いたします!お相手はわたくし、バーチャルアイドル候補生の霞と、」


「あ、思い出した。霞先輩、ちょっと今後のスケジュールで確認したいことがあるんですけど」


「「いま!!!?」」


「へ?・・あれ?」


本人たちは多分気まずいだろうが、乃愛さんの空気読めなさすぎの発言にコメント欄は爆笑の渦。僕も思わず頭を抱えながら、・・笑っていた。


「・・・そう言うのは、配信以外ならいつでも聞くから、締め直すよ?いい?」


「わーい。お相手はバーチャル候補生サブリーダーの」


「早い早い早い!! タイミング!!」


「え~~~???」


面白すぎるんよ。でも、真面目に締めないとだろうなぁ。


「このコント、ずっと観ていたい気もしますが、時間的に締めまっしょい。霞さん、お願いします。乃愛さんは、少々黙りやがってください」


「言い方、ひどくない!?」


「助言、感謝いたす。では改めまして、本日のコラボ配信はこれにて終了いたします。お相手はわたくし、バーチャルアイドル候補生の霞と、」


「わたし、バーチャル候補生サブリーダーの乃愛でした!」


「最後まで観てくださってありがとうございます!それではまた、次の配信でお会いしましょう!!」


「楽しかったよー。霞先輩とファンのみんな、最後までありがとうね!10分後、自分の所で配信するから、来れる人は来てください!では!」


「「「お疲れ様でした!」」」


こうして、面白すぎる「霞&乃愛のコラボ配信」は無事、終了しました。



・・・配信終了10分後。


「霞先輩!ホントに来てるし!!」


「リスナーの所にさりげなく混ざる、霞パイセンww」


「いや~、あの空気だったら、顔くらい出さなきゃかなって」


「「寝てください」」


「ぶ~。じゃあ、改めまして乃愛もファンの皆さんも、コラボありがとうございました。おやすみなさ~い」


「おやすみなさーい」


「おやすみなさいませ」


・・・・・・・


「・・・行ったかな?」


「・・いつも寝るって言われている時間は、とっくに過ぎているので、多分・・」


「そうなんだ~・・って、やたら詳しくない?」


「YOUの敵時代からのファンですから」


「あー、そうだったっけ?・・今はファンになってくれてるから、水に流すけど」


「今でも敵ですが?」


「帰れ!!」


「冗談っすwまぁ、なにはともあれ、パイセンとの初コラボ、無事成功お疲れ様です」


「無事、だったかなぁ・・」



「話が脱線しがちとか、相手のリスナーさんが質問してきたことを上手く説明できなくて、霞先輩にだいぶフォローしてもらっちゃったり・・駄目なところがたくさん出ちゃった気がするんですよね・・」


あ、自覚はあったか。ならば問題無いでしょう。


「改善点がわかっているなら、次に活かせればいいんっすよ。・・成功かどうかは、観てくれた人たち次第。リスナーが成功と言えばきっと成功っすよ」


「おー、よかったよー!」「成功、成功!!」「楽しかったからOKだよー!」と言った、温かいコメントが一気に飛び交う。本当にこのルームのファンは、良い。


「・・でもまぁ、霞パイセンの冷静さと状況をまとめる力は、自分も見習いたいくらい凄いですね」


「うんうん、そう!つまり、まとめるとー」


「まとめると?」


「・・・霞先輩は、すごくて、憧れの存在!!」


乃愛さんらしい、率直なまとめだった。



・・・そんな次の日、霞さんの配信でもコラボの話が上がり、


「昨日のコラボ観てくれた人は理解してくれると思うけど、乃愛ちゃんって、可愛いし面白いよね!あの独特なセンスと、周囲を巻き込んじゃうキャラは、正直うらやましいのです」


ぁれ?ちょっと沈んでる?・・・ちょっとだけ、焚き付けますか。


「・・ここだけの話、霞さんが配信抜けた後、乃愛さん言ってましたよ。冷静に対処できる霞先輩に憧れてるって」


「え、本当ですか?」


「嘘は・・・すみません、ネタ的にたまにつくかもですが、これは本当っす」


「あ、なんかすみません・・ でも、そうですかぁ。・・やっぱりかなわないなぁ」


「そんなことを素直に言える、乃愛ちゃんはやっぱりすごいなぁ・・」

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