第4話 出逢い
彼女たち「バーチャルアイドル候補生」がライブ配信を始めてから、約一月経った頃。ようやく「ライブ配信」というものに慣れつつあるのを見計らったかのように、そのイベントは発表された。
「第1回バーチャル候補生総選挙」
それが彼女たちにとっての「地獄」の名称であった・・
アイドルグループの「総選挙」に、ちなんでつけられた名称なのだろうが、要するにグループ内のNo.1と2を決める。そしてNo.1、2になると、仮ではあるがそれぞれ「リーダー」「サブリーダー」を名乗れるというイベントだ。
配信を観て「この子を応援したいなぁ」と思ったリスナーは、有償あるいは無償のアプリ内ギフトを投げて、応援することができる。その応援ギフトによって加算されるポイントの大小で、順位を決めるイベントだ。その期間は約1週間。
もしある程度、知名度や固定ファンのいる配信者だったりしたなら、短めの配信でも、ポイントを獲得しやすい効率的なスケジュールを組んだりできたかも知れない。だけど、「候補生」の多分全員が、そういった余裕などなかった。「無名の私たちが応援してもらうには、まずは多くの人たちに見てもらう必要がある。」「それには、なるべく配信をするしかない!」と思ったとして、誰が非難できるだろう。
こうして彼女たち、約10人の「バーチャルアイドル候補生」は、夢のための地獄の1週間に突入したのだ。
僕が彼女、乃愛さんを始めてライブ配信で観た、出逢ったのは、このイベントの最中だった。
でも、実は僕は当時、彼女を応援している側ではなかった。
・・・ありていに言えばむしろ、敵対する側だったのである・・・
僕が、そのイベント当時応援していたのは、「可愛いと言うより美人でおとなしいタイプの文系少女」と言った感じのデザインの、「霞(かすみ)」という別の候補生だった。
彼女はライブ配信が始めてどころか、パソコン含む配信機器自体をあまり扱ったことが無いらしく、配信中も悪戦苦闘していた。
幸いと言うか、僕も配信に関する知識はほとんどないが、パソコン関連にはそこそこ詳しかった。見かねてではないが、わかりそうな範囲で手伝えられればと、コメントをしていくようになった。そしていつしか、ファンの一人になっていた。
情が移ったと言うのも否定できないが、彼女もまた僕にとって面白かったのも事実だ。「声はほんわりしているけど、知的なしっかりもの。そして、独特な感性を持つポエマー」と言ったタイプ。いろんな話題に対し、時に鋭く、時に楽しく返せる彼女に、僕は素直に感心し、頑張って欲しいと思っていた。
霞さんには、もちろん僕以外にも多くのファンがいたが、イベント期間が半分過ぎた時点で、ランキングは真ん中くらいだった。加えて、1位~3位の候補生のポイントが他に較べ非常に高く、実質その3人による決戦の様相を呈していた。
「候補生たちはレッスン等で何度か顔を合わせているし、連絡を取り合う子もいます。だからそんなにギスギスした関係ではないですよ」
と、霞さんは言っていた。
だが、いや、だからこそ、諦めるような気配は見られなかった。始めてでも興味を持ってもらうよう色々試行錯誤したり、配信時間をよりできる限り取ったりと、一ファンから見てもはっきりとわかるほど、頑張っていた。それでも、上位との差はなかなか埋まらなかった・・・
僕は「そんな彼女の力に少しでもなれたら」という思いと、「こんなに頑張っている彼女らを押さえる上位の人たちって、どんな人でどんな配信をしているんだろう?」という興味と敵愾心もあり、独断ながら上位3人の配信を敵情視察することにした。
まずは、自分がある程度配信を観れる時間帯に配信をやっているか確認したが、それは杞憂だった。3人とも1日に何回も長時間配信をしていたからだ。配信時間の多さが全てと思いたくはないが、やはりとも思えた。
自分的には敵情視察なので、あまり長く滞在する気はない。とは言え、一目で「これはどういった人」とわかるはずもないので、ある程度配信内容を見ることにした。当然、コメントする気は無かった。
一通り見た結果、3人はそれぞれ、「歌がかなり上手い」「声優志望で、色々声が変えられる」「アニメ声で如何にも可愛い」と言った特徴を持っているように自分は感じた。そして、3人共通して「初対面の人に対し、あまり人見知りしない」ように感じた。実際、3人とも始めて配信を聞いている自分に気づき、名指しで声をかけてきた。単純なことだが、それだけにアイドルに必要な要素だろう。霞さんは人見知りするというより、どうも遠慮してしまうようだ。どちらかと言えば「いざ話してみると面白い」タイプなので、初見のファンをキャッチできる力は弱いかも知れない。そう感じることができたのが、敵情視察のまぁ、成果かな?
あと、もう一つ共通して感じたのは、これは3人だけじゃなく霞さんもだけど、疲労感がかなり見られた。ファンの手前、取り繕ってはいるけれど、無理もないと思った・・
・・・ちなみに、僕が霞さんのファンと知っているリスナーがたまたまいて、配信者の方に告げ口されることがあった。それを聞いて、
「敵情視察されるぐらい、わたし、注目されてる!?」
と、本音なのか取りなしてくれているのかわかりにくい反応を示し、さらに、
「・・でも、今は敵なんで応援はできないけど、お互い頑張りましょう!」
なども言ってきた。予想外の言葉に僕は当惑し、思わず、
「はい、頑張りましょう。ルームの皆さん、失礼しました」
とコメントしてしまった。
・・・これが、「バーチャル候補生 乃愛」との出逢いだった。
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