第8話

 ゆいレールの券売機は相変わらず多くの観光客で、無秩序な混雑ぶりだ。

 成田空港で眺めていたテレビで沖縄地方が梅雨明けになったと告げていたが、夕方六時過ぎでも明るい空は、まさしく真夏そのものだ。

 結局、英昭は沖縄地方の梅雨入りから梅雨明けまで、沖縄を離れていたことになる。

 昨年も梅雨明けした直後に沖縄入りしたので、沖縄暮らしも二年目になるのだと、改めて時間の経過の速さを感じた。

 英昭は素面の状態で直接マンションに帰るのをやめて、〈青空〉で軽く一杯ひっかけてから部屋に帰ることにした。

 重いキャリーバックを引きずりながら古びた木戸を開けて、いつものように空いているカウンターに座った。

「庄司さん、久しぶりですね。どこか旅行でしたか?」

 おしぼりを出しながら、マスターが尋ねてきた。

「東京にね。お袋の葬儀だったんだ」

 英昭は冷たいおしぼりで顔の脂を拭きながら、マスターに小さく笑いかけた。

「そうでしたか……ご愁傷様です。大変だったんですね」

 マスターは軽く頭を下げて詫び、先ずは生ビールですねと言いながらビールサーバーに向かった。

「長い間入院していたし、しかも米寿だから家族とすれば良く頑張ってくれたなって感じだよ」

 英昭は生ビールと鶏皮ポン酢のお通しを、カウンター越しに受け取った。

「そうですか。うちと嫁の両親はまだ健在ですけど、介護となったら沖縄にいられなくなりますからねー。ちょっと考えなきゃいけない歳ですよね」

「マスターのところはまだ大丈夫でしょ。それに備えるといっても病気の種類で違うからね。こればかりは、その時々で対応するしかないんじゃないの」

 久しぶりのオリオンビールを喉に流し込みながら、英昭は不自然にならない程度の明るい口調でマスターに視線を向けた。

「まあ、確かにそうですけどね。でも金銭面の備えはしておかないと……って、これが一番難しいんですけど」

 マスターも営業用ではない笑顔になった。

 その時、入口のドアを開けて紀之が入って来た。

 カウンターに座っている英昭を見て一瞬足が止まりかけるが、後ろから押されるようにカウンターに近付いてきた。

 その後ろには花柄のワンピースを着た、大柄な中年女性がいた。

「……庄司さん、帰って来たんだ?」

 少し上擦った声で、紀之が英昭の隣に座った。

 ワンピースの女性は紀之の隣に座り、持っていた大きめのトートバックを足元の籠の中に置いた。

「今着いたところ。直接部屋に帰っても何もないから、ここで軽くやって行こうと思って」

「水臭いな。帰って来るのなら電話くれればいいのに」

 隣に座った女性を意識しながら、紀之が早口で言った。

「明日にでも電話しようと思っていたんだけどね。何しろ一か月半以上も留守にしていたから、いろいろとやらなければならない事が多そうで……」

 英昭が紀之に顔を向けて応えていると、ワンピースの女性と視線が合った。

「そうだ、庄司さん……こちら石田直美さん。久茂地でスナックをやっている……」

 紀之はワンピースの女性を、ぎこちない口調で英昭に紹介した。

「石田です。お噂はかねがね伺っています」

 大柄な体躯には似合わないか細い声で、直美は英昭に挨拶をした。

 薄化粧の直美は五十五歳よりは若く見え、おっとりとした雰囲気はスナックのママさんには見えない。

「庄司です。ノリさんにはいつもお世話になっています」

 英昭は当たり障りのない挨拶を返した。

 紀之はこの場をどう取り繕うかと思案しているようで、マスターが置いた生ビールに手を出さない。

 直美も同様に俯き加減で、ジョッキに手を出すのを躊躇している。

「ノリさん、先ずは乾杯しようよ。ビールの泡がなくなっちゃうよ」

 英昭は固まっている二人に、自分のジョッキを差し出した。

 それにつられるように紀之と直美がジョッキを持ち、乾杯の仕草をした後にジョッキに口をつけた。

 三分の一程ジョッキを空けて一息ついた紀之は、ようやく英昭の母親の事を思い出し、「庄司さん、お母さん残念だったね」と、お悔やみを言った。

 英昭は無言で頭を下げた。

「長いこと帰ってこられなかったみたいだけど、いろいろと大変だっただろ?」

 紀之は労わる口調で言って、英昭の肩を軽くポンポンと叩いた。

「葬儀関連や家の処分とかね……。でも姉夫婦に助けられて、なんとか片付いたかな」

「うちの親の時は、俺が東京にいた時期だったので、信幸が全部仕切ってくれたし、隆志も親戚代表みたいな感じで手伝ってくれたから、本当に助かったよ」

「沖縄は血縁関係が濃いからそういう時は助かるよね。うちは親戚付き合いもないから全部自分達でやらないといけなくて、結構しんどかった」

 マスターが焼鳥を三人の前に置きながら、英昭に報告するように言った。

「そういえば、先週川名さんが会社の方達と見えて、八月の始めに東京に帰るって話をしてましたよ」

 英昭と京子は二人で〈青空〉に来ることは控えていたが、英昭は隆志や紀之と来ることがあるし、京子は三線のサークル仲間や薬局の同僚と来たりしていた。

 ただ、いきなり紀之の前で京子の話題が出て、英昭は少し戸惑ってしまった。

「えっ、そうなの?それは知らなかったな。東京に居る間は三線のサークルの人達と連絡をとっていなかったし」

 英昭は紀之に詮索されないように努めて平静を装って、今初めて聞いたというニュアンスでマスターに返した。

「一緒に来られた会社の人は、結婚式には呼んでねみたいな事を仰ってたからご結婚で東京に戻られるみたいですね」

「それはおめでたいね!」

 英昭は言っている自分に嫌悪感を抱きながら、マスターにぎこちない笑顔を向けた。

 横で聞いていた紀之は大して興味がないような口調で「誰の話?」と、英昭に訊いてきた。

「三線のサークルに通っている人だよ。隆志さんも知っている生徒さん」

 英昭が応えると「ふーん」と、紀之は呟き、カシラを串から外して一口頬張った。

 京子が自分より先に周りの人達に結婚の話をしていることに、英昭は少し落胆したが、それも一瞬で、自分たち二人の関係はそんなものだったのかと急速に醒めた気持ちになる。

「ところでノリさん。今日はお二人でデート?」

 カシラを咀嚼している紀之が、京子の話題に関心がないのを確認した英昭は話題を変えた。

「いや、そんなんじゃないよ。な?」

 紀之は、隣で静かにしている直美に助けを求めるように話しかけた。

「うちは、平日は夜の八時からお店を開けるので、その前の腹ごしらえを金城さんにお付き合いして頂いてます」

 直美が俯き加減で英昭に応えた。

「スナックだからつまみ類もそんなに種類はいらないし、掃除も前日の閉店後に済ませちゃうから、開店ぎりぎりで大丈夫なんだよ。客が来るのも九時前後くらいからで、お通しに出す簡単な料理も家で作って持って行くし」

 直美の足元の籠のトートバックに目をやりながら、紀之が早口で喋る。

「ノリさん、すっかりスナックのマスターみたいだねー。これから二人で開店準備なんだ?」

 英昭は揶揄うように言った。

「そんなんじゃないよ。今日はたまたまだよ」

 紀之は慌てた口調で言い、ビールのジョッキを空けた。

「別に良いじゃない。それに、ノリさんって接客業に向いていると思うよ」

「だから、俺はただの客の一人なの。今日だって彼女の店に行く予定だったけど、庄司さんと会ったんだから行くのを止めるよ。な、別に構わないよな?」

 紀之は、直美に顔を向けて話しかけた。

 多分、二人はアイコンタクトで、この場の収拾策を図っているのだろうと英昭は感じた。

「いや、今日は疲れているからあと一杯飲んで帰るから気にしないで」

 英昭は二人に笑いかけてから、生ビールのお代りをマスターに頼んだ。


 紀之と直美も一緒に店を出ようとするのを制して、英昭はキャリーバックを引き摺りながら、那覇のマンションのエントランスに立った。

 暗証番号を押してからゆっくりとメイルボックスを開ける。

 数枚のチラシ類の下に、合鍵と水色の封筒があった。

 この瞬間を出来るだけ先送りしたかったが、紀之達との遭遇で素面に近い状態で迎えることになってしまった。

 チラシ類は乱暴に握り潰し、キャリーバッグの取っ手を握って封筒を口に軽く咥えてから合鍵でオートロックを解く。

 エレベーターの中で、英昭は封筒から京子の香りを感じた。

 真っ暗な部屋に入り手探りで照明のスイッチを押すと、少しかび臭いが、きれいに整理された室内が現れた。

 英昭はカーテンとサッシを開け、部屋に南国の穏やかな風を招き入れた。

 数日前に来た京子は、部屋の掃除だけではなく、郵便物をテーブルにまとめて置き、観葉植物の水やりもしてくれていたようだ。

 キャリーバックを開け、洗濯物を洗濯機に放り込んでから東京で洗濯済みの着替えをチェストに戻そうと引き出しを開けた。

 やはり、京子のスエットやTシャツなどがあった場所がぽっかりと空いていた。

 一通りの整理が終わり、英昭は冷蔵庫から缶ビールを取り出す。

 冷蔵庫の中にはビール以外はほとんどなく、明日の買出しはリストが必要だなと英昭は考えた。 

 ベランダに出てビールを一口飲み、タバコに火をつける。

 梅雨が明けた那覇の空だが、雲が多いのか星が見えない。

 英昭は京子の封筒が気にはなっていたが、あえて読むのを後回しにした。

 買い出しする物を考えるが、明日以降気持ちが弾むような楽しみがなくなっている現実があり、必要な物を思い浮かべても頭に定着しない。

 英昭は頭の中での買い出しリストの作成は諦め、空き缶を潰して部屋に戻り、サッシを閉めてエアコンのスイッチを入れた。

 ソファに座り、テレビをつけてからゆっくりと京子からの封筒を開封した。

 水色の封筒には四つ折りにされた便箋が二枚だけ入っていて、やや右肩上がりの小さな文字が便箋一杯に綴られていた。

 英昭は折りたたまれた便箋を開くが、文字を目で追うだけで内容が中々頭に入ってこない。

 便箋に綴られている文字は京子の謝罪の言葉から始まり、英昭には本当に感謝しているし楽しかったなど、二人の関係が完全に過去のものとなっていることを再認識させられる内容だ。

 読み終えた便箋を封筒に戻し一旦テーブルに置いたが、英昭はもう終わったことだと自分に言い聞かせるように、チラシ類と一緒にゴミ箱に捨てた。

 今は京子を責める気持ちが湧かない。

 自分は京子との将来像が描けなかったのだ。京子も同様に自分との先行きに展望が描けなかったのだろう。 

 そこに、京子との将来像を明確に描き、語れるひとが現れただけのことだ……。

 全ては自分自身が京子に対して強い気持ちを持てなかったことに起因しているのだということが、英昭には痛い程分かった。


 翌日、英昭は住民税と自動車保険の払い込みをコンビニで済ませた。

 自動車税は東京にいる間にネットで払い込みをすませてあった。この時期は健康保険を含めて何かと支出が多い。

 冷房の効いた店内から出ると、南国らしい強い陽射しが全身を直撃する。

 駐車場に停めてある車まで数歩の距離だが、車内にこもった熱気もあり汗が吹き出してきた。

 これからスーパーに寄って買い出しをするつもりだったが、英昭は予定を変更して、散髪屋に車を向けた。

 散髪屋の小さな駐車場は満車で、仕方なく隣のスーパーの駐車場に車を停める。

 散髪屋は午後二時を少し過ぎているが、待合用のソファに先客の三人が座って新聞やマンガを読んでいた。

 英昭は自動券売機でカットとシャンプー、それに髭剃りのセットを選んでボタンを押す。それでも千五百円だから東京の半額以下だ。

 ペラペラに薄いスポーツ新聞を読んでいると、券売機で買ったチケットに記載されている番号を呼ばれた。

 大きな鏡の前に座った英昭は、マスクをした理容師にどのようにするかを訊かれ、思い切り短くしてくれるように頼んだ。

「五ミリ位で刈り上げますか?」

 理容師は、鏡の中で英昭の髪の毛を軽くつまんで確認する。

「もう少し短めにお願いします」

「上もすそに合わせて短めにしますか?」

 理容師の言葉に英昭は頷いた。

 散髪が始まると、鋏とバリカンでカットされた髪の毛の長さを見て、英昭は少し後悔をした。

 だが、男だろうが女だろうが異性に振られたら髪の毛を切るのが王道だ、と自虐的な想いで目を閉じた。

 途中、両開きの鏡ですそ側の長さの確認をされるが、英昭は鏡の中の理容師に機械的に頷くだけだ。

 髭剃りとシャンプーが終わり、ドライヤーで短くなった髪の毛を乾かされたが、数十秒で済んだ。

 ハンディタイプの箒のようなもので、Tシャツについた髪の毛を落としてもらい、スーパーの駐車場に停めてある車に戻った。

 運転席に座った英昭は、うなじから頭頂部にかけて手のひらで逆撫でてみた。シャリシャリという触感が気持ち良いが、バックミラーに写っているのは懲役帰りのオヤジのような頭と顔だった。

 これ程坊主頭に近い髪型は、中学の野球部にいた一年生以来で約五十年振りだなと、英昭は触り心地の良い後頭部を撫でながら苦笑した。


 駐車していたスーパーで大量の買い物をしてから部屋に戻った。

 エアコンのスイッチを入れてから汗だらけの顔を洗面台で洗うが、髪の毛を切ったことを思い出し頭にも水を掛けた。

 フェイスタオルで頭と顔を拭きながら短い髪の毛の手間いらずの利点を発見し、英昭は少し気分が良くなった。

 後頭部を触りながらまだ熱気が取れていないリビングに戻ると、スマホが鳴り出した。着信の表示を見ると隆志だ。

「庄司さん、帰って来たみたいだねー。ノリ坊から聞いたよ」

 たったひと月半だが、懐かしいイントネーションの声が聞こえてきた。

「隆志さん、ご無沙汰、昨日帰って来たよ。俺も、今日にでも隆志さんに電話しようと思ってたんだ」

「そうねー。今日は何してるの?」

「住民税やら自動車税やらの払い込みと、冷蔵庫が空っぽなので買い出し。それから暑くなってきたから散髪に行って、今帰ってきたところ」

 英昭は後頭部を撫でながら応える。しばらくは後頭部を触るのが癖になりそうだ。

「お母さんが亡くなったばかりだけど、家に一人でいても仕方ないでしょ?ヒマだったら飲みに行かない?ノリ坊も飲みたがってるし」

「いいけど、何処で飲むの?」

「ノリ坊の彼女の店さー」

「えっ!彼女の店って大丈夫なの?ノリさん嫌がらないかな」

 昨夜会った直美の顔を思い出しながら、英昭は隆志に訊いた。

「大丈夫さ。ノリ坊がそこに庄司さんを誘えって言ってきたんさ」

「へー、だったらいいけど。でも店は八時からって昨日言ってたけど」

 壁の時計を確認すると、まだ五時前だ。

「だからよー。その前に腹ごしらえを兼ねて美栄橋の居酒屋に集合さ。〈うりずん〉って店、前に行ったことあるの覚えてる?」

「あー、隆志さんがヘロヘロになって、俺とノリさんで家まで送った時の店だよね?」

 少し揶揄うように英昭は言った。

「そんな事あった?でもその店さ。俺は六時ちょい過ぎには行ってるさ。ノリ坊もその頃には来るみたいさだから、庄司さんも適当な時間に来ればいいさ」

「了解!俺もその時間には行けると思う。現地集合だね?」

「そう。じゃあ待ってるよー」

 隆志の明るい声で電話は切れた。

 一人寂しく部屋で飲んでもつまらないなと考えていたので、隆志からの誘いは英昭にとってはありがたかった。

 

 〈うりずん〉の引き戸を開け店内に入ると、隆志と紀之は既にジョッキを前に話をしていた。

 席に近付く英昭に気づき紀之が隣の椅子を勧めるが、そこで帽子を脱いだ英昭の頭を見て二人はのけぞった。

「庄司さん、どうしたのその頭!昨日と全然違うじゃん」

「暑いからね……。さっき散髪屋に行ってきた」

 頭全体を撫でるようにして英昭が紀之に応え、隆志に「久しぶり」と、挨拶をした。

「お母さんは残念だったねー。まさか喪に服すために頭を丸めた?それとも他に東京でなにかあったん?イメージが変わったさ」

 隆志も無遠慮に英昭の頭を見た。

「なんにもないよ、暑くなってきたから短くしただけ。これだと手間もかからなくて楽だよ。ノリさんも短くしたら?」

 英昭は、長い髪を後ろで縛っている紀之の髪型を指さした。

「ノリ坊が短くしたら単なるツルッパゲさー」

 隆志が手のひらを額から頭頂部にかけて撫でる真似をした。

「バカヤロー!俺だって少しは残ってるんだ!」

 英昭は従兄弟同士の遠慮のない楽しいやりとりを見て、気持ちが和んでくる。

「でもさ、最初は刑務所から出所したばかりの爺さんに見えて、ちょっとへこんだけどね」

「確かに!万引きとかの軽犯罪のオジイが出てきたって感じだね!」

 紀之が悪乗りすると、隆志も手を叩いて笑った。

「やっぱりそう見えるかな?」

 英昭は自分の頭を撫でた。

「冗談だよ、揶揄っただけだよ」

 紀之が右手を振って、笑いながら否定した。

 英昭のジョッキが届いたので、三人は乾杯の仕草をした後に冷えたオリオンビールを喉に流し込む。

「ところで何時頃にノリさんの彼女の店に行くの?」

 英昭は枝豆をつまんで口に放り込んだ。

「ここを七時半頃に出よう。彼女も待っているからさ」

 紀之はジョッキをテーブルに置いて、英昭と隆志に同意を求めた。

「待ってるって?なにを?」

 紀之の言葉に反応して英昭が訊くと、隆志が紀之をチラッと見てから英昭に話しかける。

「庄司さん、ノリ坊が彼女と結婚するんだよ、今日はその報告さ。ノブもショップが終わったら来るさね」

「えっ!マジ?それはおめでとう!ノリさんやったねー」

 英昭はビックリしながらも、祝福した。

「いやーそんな、お恥ずかしい……。でも、これが最後のチャンスだし、あいつも両親は既に亡くなっていて、結婚した娘さんとは離れて暮らしているからとりあえず一緒になるかってことで……」

 紀之は照れを隠すようにジョッキに口をつけた。

「信幸さんは彼女とは会ったの?」

「庄司さんが東京に行っている間に、俺とノブは会ったよ」

 英昭の問いに隆志が応えた。

「じゃあ、何の問題もなく所帯を持てるんだ。羨ましい限りで」

 本当に羨ましく、また良かったと英昭は思った。

「所帯たって、俺の部屋に彼女が来るだけで、何の変化もないけどね」

「そうかー、もうノリさんのところでYouTubeやDVDを観たりCDは聴けないねー。でも部屋がきれいになるだろうから、時々押しかけちゃおうかな、ね?隆志さん」

 英昭は隆志に視線を向けた。

「そんなの関係ないさ。今まで通りにノリ坊の部屋には出入り自由さ」

 隆志が宣言するように言った。

「そう、全然構わないよ。どんどん来てよ。彼女もその方がいいって言っているし、大歓迎だよ」

 紀之が真面目に応えてから、厚揚げを頬張る。

「でも、新婚生活の邪魔をしたら悪いじゃない……。そうだ、新婚旅行って行くの?」

「そんなの今更行かないよ、もちろん式も挙げないし。お互い歳だし再婚同士だから特別なことは何もやらないよ。まあ、籍を入れたら、仲の良い人を呼んで食事会っぽいのはやるつもりだけど」

 紀之は照れながら新婚旅行を否定した。

 それから、紀之の結婚相手の直美について紀之が説明してくれるが、隆志が茶々をいれるので英昭が理解するのには時間がかかった。

 

 石田直美は静岡県下田市の出身で、沖縄本島北部出身の貨物船の船員と結婚して、二十代後半に見知らぬ沖縄での結婚生活を始めた。

 子供は娘を授かり平穏な生活を送っていたが、ご主人は十年程前に肺癌で亡くなってしまった。

 その後は恩納村にあるリゾートホテルで働きながら一人娘を育てた。

 その娘は三年前に結婚して現在は大阪で暮らしている。

 娘が高校を卒業した後、那覇市内の運送会社で働き始めたのを機に、母娘で那覇市に転居して新たに母娘での生活を始めた。

 那覇に移ってからの直美は昼間は総菜屋で働き、夜はリゾートホテル時代の先輩が経営しているスナックに、週三日程アルバイトとして手伝っていた。

 その後、仕事に慣れた頃にスナックを経営している先輩が体調を崩し、スナックを引き継いで欲しいと頼まれた。

 最初は辞退したが、常連客の強い勧めもあり、断り切れなくなって店名を変えずに居抜きで引き継ぐことになった。

 慣れないスナック経営だったが、常連客のサポートもあって今現在は生活できる程度の売り上げを維持しているようだ。

 昨夜の初対面で英昭が感じた水商売の女性らしからぬ印象は、あながちはずれていないようで、紀之もそんな彼女の事が心配で、最近は店を時々手伝っているらしい。

 七時半近くになったので三人は割り勘で支払いを済ませ、県庁方面に向けてブラブラと歩く。

 直美がやっているスナックは、銀行の裏の雑居ビルの四階にある〈みっち〉という店だ。

 一階の居酒屋の横にあるエレベーターで三人は四階に上がり、オーク調のドアを開けて店に入った。

 信幸は既にカウンターの前のスツールに座って、直美と談笑していた。

 他に客はなく、紀之の趣味らしいジャズが低いボリュームで流れている。

 カウンター五席に小さなテーブル席が二つの小さな店だが、茶系の色調でまとまった店内は居心地が良さそうだ。

「いらっしゃいませ」

 直美が声をかけてきて、カウンター席を勧めた。

 紀之は右手のカンターの下を潜り、英昭達三人を前に立つ。こうして見るとスナックのオヤジに見えてくるから不思議だ。

「お飲み物は何にしますか?」

 おどけた口調で紀之が尋ねた。

「泡盛のロック」と、隆志は注文した。

 英昭は隣に座っている信幸に、「ご無沙汰です」と挨拶をし、目の前にあったメニューを見て、「IWハーパーの水割りで」と、注文をした。

 紀之は注文された飲み物をそれぞれの前に置き、自分のビールと直美のビールを注いだ。

「今日はお出で頂きありがとう。これからも宜しくお願いします」

 紀之が目の前の三人にグラスを掲げて、頭を下げた。           

 英昭たち三人は「おめでとう!」と、目の前に立っている紀之と直美に祝福の言葉をかけた。

「ありがとうございます」

 小さな声ながらも、満面の笑みで直美も頭を下げた。

 目の前の幸せそうな二人を見て、英昭も嬉しくなった。

 紀之と出会ってから一年にも満たないが、紀之の結婚を祝うことになるとは、想像もしていなかった。

 還暦を過ぎて、後輩や元部下ではなく友達の結婚を祝福できるのは、ある意味感慨深いものがある。

 この先自分には訪れることはない出来事を目の当たりにして、英昭自身もほのぼのとした、安心感に似た気持ちになれた。

「お披露目というか結婚報告というか、まあ近しい人だけ集まってやる食事会の招待者だけど……。親戚を呼ぶことになると範囲が広くなり過ぎちゃうから、友人中心にしたらどうかと、さっき直美さんと話していたんだ。兄貴はどう思う?」

 先に来ていた信幸が、直美や英昭、それに東京暮らしが長い紀之などのヤマトゥンチュを意識してか、標準語に近いイントネーションで紀之に問いかけた。

「そうだな、俺もそう考えていたよ。今帰仁のオバアとか親戚一同が来ると面倒だし、小ぢんまりとやれば良いんじゃないかな。隆志はどう?」

 親戚代表みたいな隆志に、紀之は確認した。

「それでいいんさ。今帰仁のオバアには二人で行って挨拶をすれば問題ないさ」

 隆志は事も無げに言うが、血縁関係での祝儀不祝儀の呼んだ呼ばないは、結構面倒だと聞いている英昭は少し心配になった。

「兄貴がいいなら問題ないな。後々うるさく言いそうなオジイやオバアは、俺と隆志で何とかするさ」

 隆志より頼りになりそうな信幸の言葉に、英昭は安堵した。

「直美さん、それでいいよね?」

 信幸の問いに直美は「はい。宜しくお願いします」と、丁寧に頭を下げた。

「ところで、子供達はどうする?兄貴はもう昇には言ってあるん?」

 信幸は、甥にあたる紀之の一人息子のことを気にかけた。

「まだ言ってないよ。こっちに来てから、あまり連絡を取っていないしな」

 英昭同様に、紀之も息子とは疎遠のようだ。

「でも昇にもちゃんと報告しないと駄目だよ。そうだ、いい機会だから昇を食事会に参加させればいいんじゃない」

 信幸は紀之に提案をした。

「うーん。でもあいつも忙しいと思うから、来るかどうかは分からないよ」

 紀之は、一人息子を呼ぶことに躊躇した。

「ノリさん、私に気を遣わなくていいのよ。それに私も息子さんに一度お会いしたいし。うちの娘には参加してもらうようにするわ」

 兄弟のやり取りを聞いていた直美が、静かに言った。

「ほらな、直美さんもそう言ってくれているんだから、とにかく昇には連絡しなよ。仕事とかで忙しくて来られなかったらそれはそれで仕方がないけどな。直美さんとの結婚の報告はしないと」

 どちらが兄なのか分からないくらい、信幸はしっかりしている。

 ただ、英昭には紀之の躊躇する気持ちが分かる。

 自分も二人の息子とは疎遠で、彼らが大学を卒業してからは会っていないし、連絡も殆ど取っていない。

 数年前に長男が家を出て部屋を借りたいので、保証人になってくれと頼まれた時も、メールでのやり取りだけだった。      

 会社に勤めていた時に長野から、「息子達のこと、気にならないのか?」と、訊かれた事があった。

 英昭は「便りの無いのは良い便り」と応え、はぐらかしていたくらいだ。

 決して息子達の事が気にならないわけではないが、周りが良く言うように、会って酒でも飲みたいと強く思ったことはない。

 別れた妻から、もう父親ではないと思ってくれと言われたからではない。

 英昭としては、彼らは彼らのペースで暮らしていけば良いと思っている。

 もちろん、彼らから何か助けを求められるような事があれば、自分に出来ることはしてあげるつもりではいるが……。

「食事会の日程が決まったら連絡してみるよ。考えてみれば俺の息子や直美の娘さんには大事な報告だもんな」

 直美と信幸の話に耳を傾けていた紀之は、素直に従った。

「そう、そうした方がいいさ」

 信幸がカウンターの向こうに立っている紀之に頷いた。

「そうさー、それが一番さ。何も悪い事じゃないんだからさ」

 隆志も賛同した。

「で、食事会なんだけど、出来るだけ早めにしたいんだよ」

 紀之が横にいる直美を見て、信幸に提案した。

「そうだな、別に大袈裟にやるわけじゃないし、内輪でやるんだから早いに越したことはないよな。兄貴も早く籍を入れたいだろうし」

 信幸は頷いた。

「会場なら俺が押さえるさ。ノリ坊、人数が分かったら俺に教えろって」

 隆志も胸を叩く。

「おう、隆志。面倒掛けるけどよろしくな」

 紀之と直美は二人揃って頭を下げた。

 

 〈みっち〉からの帰り道、一人になった英昭は熟年結婚する紀之と直美の事を羨ましく思うと同時に、少し妬む自分に気づいた。

 還暦過ぎの男と還暦に近い女が出会い、一年も経たないで結婚を決意することが出来る。

 自分を紀之に置き換えて考えると、決断力のない自分にはとても出来そうにない。

 考え過ぎて、肝心な時に腰が引けてしまう自分の性格が嫌になるし、それがあっさりと出来る紀之が羨ましい。

 結局、いつも面倒なことからは逃げている自分が悪いのだが、こればかりは六十年間で身ついた習性で、今更変える事はできそうにない。

 離婚の時も妻の言いなり、有香里の時も自分から積極的に修復しようとしない。

 京子の時もすごすごと尻尾をまいて蹲るだけ……。

 つくづく駄目なやつだと自虐的になる。

 酔った頭であれこれと考えながら歩いていたが、久しぶりに強い酒を飲んだので喉が渇いた。

 道路の真向かいにあるコンビニでミネラルウオーターを買おうと道路に下りた瞬間、英昭は身体の右側に衝撃を受けた。

 そのまま左側に身体を飛ばされ、それを庇おうとしたら左手首に激痛が走った。

 

 英昭は生まれて初めて救急車に乗り、若狭にある救急病院に運ばれた。

 身体の右側は重い痛み、左側は手首を中心に鋭い痛みで英昭は吐き気を催す。

 歩行者用の信号が点滅していた記憶はあるが、右側から来た車には全く気が付かなかった。

 ぶつかってきた車の種類も分からないし、誰が救急車を呼んでくれたのかも分からない。

 英昭は、ストレッチャーで運び込まれながら病院の白っぽい天井を見て、ぼんやりとした意識の中で、何もかもがどうでもいいといった投げやりな気持ちになった。


 ギブスで左手首を固定され右足を引きずり気味に病院から出ると、紫外線たっぷりの午後の陽射しが英昭を射る。

 付添いをかってでた紀之が車を駐車場から病院の入り口に回してきて、後部座席のドアを丁寧に開いてくれた。

 事故による英昭の怪我は左手首橈骨遠位端骨折と右大腿部の打撲、顔の左側と左腕の擦過傷だった。

 加害者のライトバンが左折している時に英昭にぶつかったので、速度が出ていなかったため、幸いにも大事には至らなかった。

 脳波にも異常はなく、右足の痛みが引いてきたので検査を含めて五日間の入院で済んだ。

 事故から入院、そして退院に至るまで、英昭は金城一族には大いに助けられた。

 事故の翌朝には連絡を受けた紀之と直美、そして隆志が病院に来て、見舞い品だといって英昭の替えの下着類を買ってきてくれた。

 今英昭が身に着けているTシャツと短パンも、彼らからの差し入れだ。

 また、その日の午後には、隆志と紀之が親戚だという弁護士を連れて来てくれた。

「相手側や保険会社との交渉はこの進が全てやるから、庄司さんは何も心配しなくていいさ」

 隆志は横幅の広いがっちりとした体形の、三十代前半に見える男を紹介してくれた。

「金城進です。大変な災難でしたね。この後の事はお任せ下さって、ゆっくりと治療に専念してください」

 人の良さそうな若い弁護士が、大きめの名刺を英昭に見せて、サイドテーブルに置いた。

「こいつは、隆志の姉の長男坊で頭は良いし、東京の法律事務所で長いこと修行をしていたから丈夫ですよ。費用の方も心配しないでいいからね」

 一緒に来ていた紀之が、進の肩を叩いた。

「相手は土産物店のライトバンだけど、あの会社の社長は良く知っているさ。さっき会社に行って話をしてきたよ。撥ねた従業員と後でお見舞いに来るって言ってたからその時は会ってあげてよ。従業員も社長もビビっていたから、あんまり脅したりしないでよ」

 隆志が口を開けて笑った。

 金城一族恐るべしだな、と英昭はベッドの中で思った。


 「取りあえず庄司さんの部屋に送るけど、どこか寄りたいところとかある?」

 車を走らせながら、紀之がバックミラーを一瞥して訊いてきた。

「いや、特に寄るところはないので、直接部屋に行ってもらえるとありがたいです」

「庄司さん。今夜の夕飯は私が作りますけど、何か食べたいものとかありますか?と言ってもそれほど凝った物は作れませんし、味の保証も出来ませんけど」

 直美が、助手席から振り向きながら笑いかけた。

「とんでもない!入院から退院までみなさんにはお世話になりっぱなしですから、夕飯の心配までしてもらったら罰が当たりますよ」

 英昭は恐縮して、固定されていない右手を振った。

「なに古臭いオッサンみたいなこと言ってるの。こういう時は遠慮しないでいいんだよ。それに左手が使えないからいろいろと不便でしょ?車の運転だって出来ないから買い物だって大変じゃない」

 紀之が少し怒った口調になった。

 確かにこれから暫くは車の運転が出来ないから、重い荷物とかがあると不便だなと英昭は思う。だからと言って、これ以上金城一族に迷惑をかけるわけにはいかない。

「いえ、本当に大丈夫ですよ。直美さんだって店の仕込みとか掃除とかあって、夕方は特に忙しいでしょう?」

「なーに言ってんの!そんなのはどうにでもなるの!な?」

 紀之は直美の方に顔を向けた。

「そうですよ庄司さん。本当に遠慮しないでください。この人に言われているからじゃなく、庄司さんは私達の身内みたいなものだと思っていますから」

 直美は後部座席に座っている英昭を軽く睨んだ。

「そうだよ庄司さん。そんなに遠慮すると、縁切りだよ」

 ハンドルを切りながら、紀之は言い聞かせるように言った。

「じゃあ、お言葉に甘えて今日のところはお願いします」

 二人の厚意をこれ以上拒否するのは却って失礼だと判断した英昭は、頭を深々と下げた。

「そうそう、怪我人は素直が一番だよ。それに年寄りは助け合っていかなくちゃね」

 バックミラー超しに英昭を見た紀之が、大きなフレームの眼鏡の奥の目を細めた。

「そうですよ、庄司さん」

 直美も後ろを振り向きながら、珍しく悪戯っぽい笑顔を見せた。

「でも、事故って聞いた時は本当にビックリしたよ。隆志なんか俺が電話したら、庄司さんが死んだらどうすんだって言うから、バカなこと言うなって本気で叱ったよ。あいつは本当におっちょこちょいだからな」

 病院からの連絡を受けた時を思い出しながら、紀之が笑った。

 病院の女性看護師に連絡する家族か知人を訊かれ、英昭は紀之の電話番号を伝えた。

 隆志か信幸でも良かったのだが、二人共家庭を持っているので、現時点で独身の紀之に一報を入れて貰った。

「あの晩、そんなに酔ってた?」

 赤信号で車を停止させた紀之が、バックミラーに映っている英昭に視線を向けた。

「直美さんの店で久しぶりにバーボンを飲んだからかな。こっちに来てからはビール専門だったから、アルコール度数の高い酒は要注意だね。まあ、医者からは暫くアルコールは控えるように言われたから、当面は大人しくしますよ」

「これからがビールの美味い季節なのに残念だねー」

 紀之言うと、直美もつられて笑った。

「沖縄は一年中ビールが美味いけどね。でも、ギブスの中が蒸れて痒いのは最悪だよ」

 英昭は、ギブスを右手で軽く叩いた。

「何か困ったことがあれば、遠慮なく仰って下さいよ。こっちは全然構いませんから」

 直美が念押しした。

「ありがとうございます。パンツの洗濯以外はお願いするかもしれませんので、宜しくお願いします」

 英昭も素直に、冗談紛れに頭を下げた。

「下着の洗濯だって何だってやりますから、本当に遠慮しないで言ってくださいよ。もちろん、こちらから二人で様子を見に押しかけますから、そのつもりでいてください」

 直美は強く言い、その横で紀之は笑顔で頷いている。

 英昭は紀之が本当に良い人と結ばれて良かったと、自分の事のように嬉しくなった。

 

 片手でも食べやすいということで、直美が作ってくれたカレーライスを平らげ、英昭は医者にこの機会に止めるように言われているタバコをベランダで一服した。

 この後シャワーを浴びるつもりだが、ギブスが濡れないようにする作業が面倒だ。

 医者からは一か月程度でギブスは外せると言われたが、夏場のギブスは辛い。

 退院したばかりの初日だが、この先を考えて英昭は憂鬱になった。

 時が早く過ぎるのを願うばかりだが、残り少ない寿命の浪費のようにも思えてきて英昭は更に気が滅入った。

 悪戦苦闘しながらシャワーを浴びたが、事故の直前に髪を短くしたお陰で洗髪は身体を洗うとき程苦労はしなかった。

 ドライヤーも片手でサッと髪を乾かすことが出来た。但し、下着類を身に着けるのは一苦労で、慣れるまで時間がかかりそうだ。

 身体はサッパリしたが気持ちの方はそうはいかず、ベッドに入っても悶々として、いろいろなことが無秩序に頭に浮かぶ。

 沖縄での生活も二年目に入るが、母親の死や京子との別れもあって、気持ちが弾むような楽しみが持てていない状態に戻ってしまった。

 明日の楽しみ、来週の楽しみ、来月の楽しみ、次の秋の楽しみ。年末年始を含めた冬の楽しみ。そして、来年の春と夏の楽しみ。

 今の英昭にはそれらが一切思いつかない。

 事故で怪我をしたからかもしれないが、気持ちが落ち込んでいる。

 沖縄に来てから一度も考えたことがなかった東京に帰りたいという思いが、突然湧き上がって来た。

 吉田に会いたい、長野とバカ話をしたい。義兄の和則とゆったりと酒を呑みたい。

 何故会社を辞めて沖縄に来たんだろう?何を目的に来たんだろう?何故有香里と連絡を取らなかったんだろう?……意地を張ったところで、何も得るものなんて無かったはずなのに……。

 頭の中で堂々巡りをする不快な想念が邪魔をして中々寝付けない。

 厭世的な思いだけが頭に浮かび、脳の検査は本当に大丈夫だったのかと思わずにはいられなかったが、いつの間にか眠りに落ちた。


※最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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他に【シンビオシス~共生~】【ポイズン~自己中毒~】という物語もアップしていますので、ご一読いただけたらと思います。

 


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