第170話 狂気の夜伽

「よく戻ったな。俺のかわいいアメーリア」


 公国の都。

 私邸していでトバイアスは帰還したアメーリアを出迎えると、開口一番そう言って熱い抱擁ほうようを交わした。

 トバイアスに会う前に風呂で身綺麗みぎれいにしてきたようで、アメーリアの体からは花のような石鹸せっけんの香りがただよっていた。


「遅くなりまして申し訳ございません。トバイアス様」


 アメーリアは任務遂行すいこうの報告を行い、持参したコンラッド王子の首をふくろから取り出してトバイアスに差し出した。


「ハッハッハ! これがコンラッドか。思ったよりも男前じゃないか」


 そう言うとトバイアスはコンラッドの首を片手に持ち、もう片方の手でアメーリアの手を握ると、早々に寝室へと向かう。

 そこには2人分のグラスと上等な葡萄ぶどう酒が用意されていた。

 トバイアスはコンラッドの首をベッド脇の小机に置くと、あらためてその顔をながめる。

 うつろげな表情で固まっているコンラッドの顔を見ながら、トバイアスはおどけてその首に話しかけた。


「今日は災難だったな。第4王子殿。俺を殺そうだなんてヒドイ奴だよ。あんたとは仲良くやれそうな気がしたのに。王族と貴族では違うが、同じ末席の男として俺はあんたの気持ちが分かるつもりだったんだぜ。だが、あんたは死んで俺は生きている。俺たちの命運を分けたものは何だと思う?」


 そう言うとトバイアスはふところから取り出したくしでコンラッドの頭髪を丁寧ていねいでつける。


「野心さ。あんたは第4王子の座に満足しないながらも甘んじていた。だが、俺は今のままではいない。もっと上に行きたい。そのためなら自分の父親でも殺すさ。鼻歌まじりでな。残念ながらあんたにはその気概きがいがなかった」


 トバイアスは振り返ってアメーリアを見る。


「そしてコンラッドには有能な部下がいなかった。そこが奴の不運なところさ。だが俺は幸運だ。有能にして愛らしい最高の女がそばにいてくれるんだからな」


 そう言うとトバイアスは葡萄ぶどう酒を2つのグラスに注ぎ、片方をアメーリアへ手渡した。


「よくやってくれた。アメーリア。きちんと仕事を果たしたな。責任感のある女は好きだぞ」


 そう言うトバイアスにアメーリアは恐縮したように言った。


「しかしクローディアと遭遇そうぐうしていながら、取り逃がしてしまいました」


 トバイアス暗殺計画の黒幕はコンラッドだが、実際に暗殺者を動かしたのはクローディアだ。

 彼女を殺してこそ本当に仕事を成しげたと言える。

 そう考えるアメーリアだが、トバイアスは鷹揚おうように手にしたグラスを差し出して言う。


「構わぬ。クローディアはいずれ死ぬ。今でなくともな。おまえが殺すと決めた相手は必ず死ぬのだろう? アメーリア」


 そう言って微笑ほほえむトバイアスに、アメーリアもようやく笑みを浮かべて手にしたグラスを差し出した。

 グラス同士がぶつかってチンッという音が響き、赤い葡萄ぶどう酒を2人は飲み干した。

 そしてトバイアスはアメーリアを抱き寄せてベッドに押し倒すと、荒々しく彼女の服を脱がしていく。


 アメーリアはほほを赤らめて恍惚こうこつの表情を浮かべた。

 彼が自分の体にむしゃぶりつこうとして、いそいそと服を脱がせにかかる仕草がアメーリアはたまらなく好きだった。

 そんなにも自分を求めているのかと思うと喜びと興奮で彼女は打ち震える。

 そんな2人のかたわらでは、小机に置かれたコンラッドの首がうつろな目を2人に向けていた。


「トバイアス様。コンラッド王子が見ております」

「構わんさ。むしろ見せつけてやればいい。俺は自分の大事なものを他人に自慢するのが大好きなんだ」


 そう言うとトバイアスはあらわになったアメーリアの美しい白肌をその指で、くちびるで、舌で堪能たんのうしていく。

 アメーリアの白い肌があちこち赤く染まっていき、その口から嬌声きょうせいれ出た。


「あっ……ああっ……トバイアス様」


 トバイアスに全身を愛撫あいぶされ、アメーリアは身をくねらせてその快感と幸福感におぼれる。

 これだ。

 このために自分は生きている。

 アメーリアは愛する男に抱かれる喜びを、全身で享受きょうじゅした。


 彼の手が豊かな双丘をみしだき、重ね合うくちびるの間で彼の舌が自分の舌をからめ取る。

 そして彼のそれがれた蜜壺みつつぼに入り込んでくると、アメーリアの快感は絶頂の坂を駆け上っていく。

 今、アメーリアは全身で彼を求めていた。


 体を激しく打ち付けてくるトバイアスが興奮のあまりアメーリアの首をその手でめ始めた。

 だが、トバイアスがその手に力を込めるよりも早く、アメーリアはトバイアスのそれを包み込む力を強めた。

 途端とたんにトバイアスの手の力が弱まり、彼はアメーリアの奥深くにありったけの欲望を吐き出して果てた。


「はぁ……はぁ……はぁ」


 荒い息遣いきづかいをらして自分の上でグッタリとするトバイアスの白髪を指できながら、アメーリアは幸せをみしめるのだった。

 物言わぬコンラッド王子の首が見守る中、狂気の夜伽よとぎは続く。


******


「次の襲撃時に死兵を本格稼働かどうするぞ。すでに穴蔵あなぐらの中に500体を用意してある」


 激しい男女の営みを数時間に渡って幾度いくども繰り返し、満足したトバイアスは腕の中で甘えるアメーリアにそう言った。


「もう次の襲撃の日時がお決まりですか?」

「ああ。近々、ちょっと面白い集まりがあるんだ。そこに特別客として参加してやろう。まあ、歓迎はされないだろうがな。ククク……」


 そう言うとトバイアスはアメーリアの髪を優しくでる。 


「また俺のために働いてくれるか? アメーリア」

「喜んで。トバイアス様のためならば」


 そう言うとアメーリアはトバイアス胸板にほほり寄せるのだった。

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