狼少女と逃げ出したウサギ【恋する狼少女は愛する人の側にいたい】

【恋する狼少女は愛する人の側にいたい】より。


 https://kakuyomu.jp/works/16817330648318703427



 人間に魔族と、多くの生徒が通うラピス学園。

 そんな学園の平和を守るのが自衛組織、『ガーディアン』なんだけど。アタシ、ルゥは団員のハイネ、エミリィと一緒にある任務の為、学校の庭を歩いていた。


「くんくん……匂いはこっちに続いているな」

「本当ですの? わたくしは何も感じませんけど」

「狼の嗅覚をなめるなっての。せっかくエミリィのドキツい香水を落としてもらったんだから、匂いなんてちゃんとかぎ分けられるさ」

「……ルゥさん、それはケンカを売ってらっしゃるのかしら?」

「なんだよ。香水の匂いがキツいのは本当の事じゃねーか」


 不機嫌そうな目でギロリと睨んでくるエミリィに、アタシは言い返す。

 アタシ達は今探し物をしていて、人狼の優れた鼻を使ってそいつの匂いを辿っているんだけど、そのためにはいつもエミリィのつけている香水が邪魔になるため、落としてもらったんだ。

 近くに強い匂いがあると、本命の匂いが辿れねーもんな。

 エミリィはそれが不満らしいけど、しょーがねーだろ。人狼にとって、キツい匂いは天敵なんだから。


 するとハイネが、アタシ達の間に入ってくる。


「二人とも、ケンカは後にしろ。モタモタしてたら、ターゲットに逃げられるぞ」

「ああ、そうだったな。匂いはだいぶ、近くなってきてると思う」


 校舎の外を、並んで歩くアタシ達。

 いったい何を追っているのかって? 実は少し前に、生物部からガーディアンに依頼があったんだ。逃げ出したウサギを、捕まえてくれってな。

 何でも校内で飼育していたウサギが5羽、逃げてどこかに行っちまったんだとか。それでアタシ達に捕まえるのを手伝ってくれって、泣きついて来たんだよ。


 あ、今ガーディアンが逃げ出したウサギの捕獲なんてするのかって思ったか?

 うん、アタシも最初は、そんなの自分達でやれよって思ったさ。けどウサギ達がウロウロしてる間に怪我でもしたら可哀想だし、これも広い意味では学園の平和を守るって事だもんな。

 と言うわけで、アタシはハイネやエミリィと一緒に、ウサギの足取りを追ってるってわけだ。

 幸いアタシは人狼。狼の鼻があれば、匂いを辿って追いかけるくらい朝飯前だ。


 てな感じで匂いを追い、校舎の角を曲がって、やってきたのは中庭。

 ここには園芸部の作った、色とりどりの花が植えられた花壇があるんだけど、そこに目をやると……いたーっ!

 白ウサギに黒ウサギ。モフモフした5羽のウサギが、花壇の中で丸くなっていた。


「すごいな、本当にいたよ」

「ええ。ルゥさんの嗅覚だけは、称賛に値しますわ」


 ハイネもエミリィも驚いている。

 ふっふっふっ。見たかアタシの鼻の良さを!


 それにしても、ウサギ達は歩き疲れたのか、花壇の中、大人しくまん丸になってちょこんと座っている。

 時折ピョコピョコと耳を動かしたり、ウサギ同士で鼻を擦り付けあったり。それにどいつもこいつもモフモフしてて、可愛いじゃねーか。


 生物部のやつらが捕まえてくれって頼んできた気持ちがわかるよ。

 こんな小さくて可愛いやつら、いなくなったら心配するもんな。

 生物部の連中は今頃他の場所を探しているはずだけど、待ってろよ。すぐに捕まえて、連れて行ってやるからな。


「ほらほらウサギ達ー、散歩は楽しんだかー? けどもう、家に帰る時間だぞー」


 ウサギ達を怖がらせないよう、ゆっくりと花壇へ近づいて行く。

 するとウサギ達はアタシに気づいて、ひょこっと頭を動かしてつぶらな瞳をこっちに向ける。

 ふふっ、やっぱり可愛いなー。よーし、大人しくしてろよー、すぐに捕まえてやるから。


 だけど、もう少しで手が届きそうってなったその時。


「──ッ@ゑ∀∑₩∞☆%!?」


 突如耳をついたのは、普段なかなか聞くことのないウサギ達の悲鳴に近い鳴き声。 

 突然の事で伸ばした手が止まっちまったけど、その隙にウサギ達は脱兎のごとく逃げ出しちまった。

 脱兎のごとくって言うか、まんまウサギなんだけど、今はそんなこと言ってる場合じゃねー。


「ちょっ、お前らどこ行くんだ!? くそ、何なんだよ急に」

「いきなり走り出したけど。ルゥ、お前何かしたのか?」

「何もしてねーって。ハイネだって見てただろ」

「まあ、確かに」


 アタシはただ、捕まえようとしただけ。だけどまるで何かに怯えるように、散り散りになって逃げていったウサギ達。いったいどうしたって言うんだ?

 するとエミリィが何かを考えるように、口元に手を当てながら言ってくる。


「もしかすると、ルゥさんが怖かったのではありませんか?」

「はぁ? アタシが何したって言うんだよ!? 怖がらせるような事してねーだろ!」

「ええ、わたくしから見ても、ルゥさんの行動には何の問題もないように思えます。ただ、なにぶんルゥさんは人狼ですから……」


 何だ? アタシが人狼だったら、何かマズイのか?

 するとエミリィが何を言いたいか分かったのか、ハイネが、声を上げた。


「そうか、狼はウサギの天敵。ルゥはその、狼の血が混ざっているから」

「そう。本能で危険を感じ取って、逃げた可能性が高いですわ」

「何ぃーっ!?」


 ハイネもエミリィも納得したように頷きあっているけど、冗談じゃない。

 アタシは別に、取って食おうとしたわけじゃないぞ。それを怖いだってー!?


「くそー、可愛い顔して、失礼なことしやがって。こうなりゃ、何がなんでも捕まえてやる。待てーウサギどもー!」

「ルゥ、お前こそ待て! せっかく見つけたのに、お前が追いかけたらどこに逃げるか分からないぞ!」

「失敗でしたわ。ルゥさんがいれば匂いを辿れるって思いましたけど、こんな落とし穴があったなんて」


 ハイネとエミリィがゴチャゴチャ言ってるけど、その間にもアタシはウサギを追い詰めていく。

 向こうは野生の本能で逃げたのかもしれねーけど、こっちだって狼の狩猟本能があるんだ。そう簡単に逃げられると思うな。

 うりゃーっ、1羽目ゲーット!


「ふっふっふっ。どうだウサギめー、捕まえたぞー」

「止めろルゥ。今のお前は、ウサギを取って食おうとしているようにしか見えない」

「同感です。どう見ても悪役ですわ」


 両手でウサギを掴むアタシを見ながら、二人が失礼なことを言ってくる。


 この後何とか無事に全てのウサギを捕まえたんだけど、後日アタシが生物部のウサギを食べるために追いかけ回したというデマが学校中に流れたのだった。


 くそー、せっかく頑張ったのに、何だよそれー!

 アタシだってウサギを、モフモフしたいってのー!

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思い付きシチュエーション短編集 無月弟(無月蒼) @mutukitukuyomi

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