10話.[いやまああれだ]

「おはよう……」

「はは、眠そうだな」

「うん、五時ぐらいに目が覚めちゃって寝ようとしたんだけどできなかったんだ」


 それでも正月ということで九時までは行こうとするのを我慢したらしい。

 稲多家は正月すらも他の家みたいなことはしないため、正直に言えば五時に来ても全く構わなかった。


「っくしゅっ、うぅ」

「温かい飲み物をすぐに用意するから待っていてくれ」


 桜のだけにすると気になるかもしれないからと自分の分も用意することにした。


「はい、熱いから気をつけてな」

「ありがとう」


 ちなみに今日は母も父も仕事はないが、まだ下りてきてはいない。

 そういうのもあって初日から騒がしくなってしまうなんてこともなく、また、温かい紅茶のおかげでいい時間を過ごせていた。

 まあ、二人で勝手に盛り上がってくれるというのもそれはそれで楽でいいがな。


「あれから萌音さんとメッセージでやり取りをしているんだけど、高井君と楽しくやれているみたいだよ」

「そりゃそうだろうな」

「だから私達も負けないようにしないとね」


 意外と影響を受けやすいところや負けず嫌いなところはらしかった。

 ただ、この流れで難しいことを求めてくることもあるため、頑張るのは程々にしてほしいというのが正直なところだと言える。


「哲君もこっちに座ってよ」

「ああ」


 おかわりを求められたときにすぐに移動できるよう椅子に座っていたのだが、そんなことをする必要はなかったらしい。

 やはり少し前からは食べることだけではなくそっち方向への欲求も大きくなっているみたいだった。


「ぎゅー」

「歩いてきたのに温かいな」

「逆に哲君は冷たいからこのままくっついて温めてあげるね」


 夜中に神社に行くとか、初日の出を見るとかそういうこともしないからいつも通りの時間に起きたのもあって眠たくなるなんてことはなかったものの、どうしてもこのまま普通に会話を続ける自信がなくては、離してくれと情けない自分を晒すことになってしまったという……。


「はーはっは! はぁ、萌音さんと同じでくっつきたくなるんだよ」

「桜はいつもすごいな」

「すごいんじゃなくて、自分に甘いだけだよ」

「あ、それなら大丈夫だぞ、自分への甘さなら俺の方が上だ」

「はははっ、なんでそこでそんな顔をしちゃうのっ」


 いやまああれだ、情けないことだとしてもそこでぐらいは他の人間に勝っていたかったのだ。

 いい面で勝てないならそういうところで勝つしかない、もっとも、それで勝っていると言えるのかどうかは分からないが。


「抑えられなくなるときがあるからそのときはなにも言わずに受け入れてね」

「場所次第だな」

「大丈夫だよ」


 そうか、それなら安心だ。

 振り回してくるような存在ではないのもあっていい未来が想像できたのだった。

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