09話.[仕方がねえだろ]
「もうちょっと早くてもよかったよね」
「無茶言うなよ、すぐに踏み込めるなら鴻巣だって苦労してねえだろ」
俺はいまでもあの告白はなんだったのかと引っかかってしまっている。
皆のことをすぐに名前で呼ぶというわけではないが、仲がいい相手の名前は呼んでいたから俺が特別というわけではなかった。
遊びにだって行くし、なにかを買ってもらって嬉しそうな顔をしている萌音を見て何度も悔しい気持ちにさせられた。
それだというのにいきなりこれだもんな、彼女の中でなにかがあったのか、それとも最初からそうだったのか……。
「稲多君を振り向かせるのは大変だっただろうね」
「どうだかな、もっとアピールをしていればすぐに変わっていたんじゃねえか?」
「えぇ、女の子の方から積極的にアピールをしろと言いたいの?」
「好きなら仕方がねえだろ、萌音だっていつまでも俺任せだと変わらねえから告白をしてきたんだろ?」
「そうだけどさぁ、そこはできれば男の子の方からしてほしいじゃん?」
彼女は自分の髪に触れつつ「義一も稲多君もちょっと男らしくないよ」と。
「でも、安心できる点もあるんだよ」
「なんだ?」
「積極的にアピールできないから浮気される心配がない!」
実際にそうだったから違うなんて言ったところでなにも意味がない。
情けねえ、好きな異性が相手のときぐらいもっと動けるようになりてえ。
だが、もう告白ってのはできないからやれることと言えばこれぐらいだ。
「わっ」
「これからは俺も頑張る」
「頑張らなくていいって」
離してと言われたから離すとなんか変な顔をしていた。
抱きしめられることは嫌いなんだろうか、となると、俺にできることは手を握るとか頭を撫でるとかそういうことしかなくなるが。
「真夜中に義一と話していたとき、物凄く我慢していたんだよね」
「したいことがあるなら言えよ」
「あれからくっつきたくて仕方がないの、でも、義一からされるのはちょっと違うかなっていま分かったよ」
自分のペースでやれないと嫌だということは知っている。
余裕がなくなってしまったりすることが怖いのかもしれない、だからまあ俺がちゃんとできるんであれば問題はなかったんだが……。
「ううん違う、単純にされるのは恥ずかしいんだよ」
「いまのを聞いて抱きしめたくなったんだが」
「我慢して、義一からやっちゃ駄目」
そうは言うが、いまからするつもりはないようで歩き始めてしまった。
これは所謂生殺しというやつではないかなどと考えながら付いて行くと彼女の家に着いた。
「さ、続きは中でやろうよ」
「変な言い方をするなよ、ま、上がらせてもらうが」
そこからも至って健全な時間だったが意外と外にいたときと違って不満なことはなかった。
「はは、上手いね」
「まあな」
それになにより、彼女が楽しそうだったからそれでいいと終わらせたのだった。
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