08話.[喜んでくれたよ]

「「メリークリスマス!」」

「メリー……クリスマス……だ」


 女子二人は分かりやすく元気だった。

 食べ物選びやいまだけではなく、朝から元気だったから維持できてすごいと思う。


「もう、なんでそんなに疲れているのさ」

「男友達と萌音、特に萌音のせいだが……」


 今日決めるつもりで来ているわけだからおかしくないのかもしれないが、俺らがいるところでも全く気にせずアピールしまくっていたから精神がいい意味で疲れてしまったのかもしれない。

 相変わらず御崎にだけではなく男友達にも強気に対応できないのが不思議だ。


「もう知らない、三人で盛り上がろうっ」

「まあまあ、そんなこと言わないであげて」

「鴻巣ちゃんにそう言われたら……」


 仲良しすぎるわけでも仲良くないわけでもないというところか。

 どちらも上手く対応できているということだから俺も見習いたい。

 だが、俺の場合だと友達の友達的存在が参加することになったら黙る結果になりそうだったが。


「緩くいこうぜ」

「稲多君はずるい、鴻巣ちゃんがいまこうして言っていなかったら黙っていたよね」

「御崎は俺のこともよく分かっているな」

「うわぁ、そこでそうやって返しちゃうのは駄目だよ」


 駄目と言われても事実、鴻巣がなにも言わなければ俺も言わないようにしていたから仕方がない。

 というか本当はこうして話している場合ではないのだ、疲れたくないから参加しないことを決めたはずの俺が結局こうして一緒に過ごしていることが問題だと言える。

 鴻巣の誕生日の件ならともかくとして、こちらに参加してしまっているのは……。


「色々買ってきたけど、私からのクリスマスプレゼントは作ったこれだよ」

「御崎もできるんだな」


 まあもう参加してしまっているからそれはいいとして、クリスマスプレゼントなんて用意していないぞと内で呟く。

 え、こうして集まるなら当たり前のことなのだろうか? 何度も言っているように盛り上がる文化が稲多家にはないから分からない。

 ただ、鴻巣もそれらしい物を持ってきてはいないようなので、単純に気にしすぎている可能性もある。


「できるよー、何回も義一に食べてもらって練習したから味については心配しなくていいよ」

「じゃあ後で食べさせてもらうわ」

「うん、足りなかったら作るから遠慮しないで言ってね」

「いや、ここにある食べ物を少しずつでも食べられればそれで十分だよ」


 食べることよりも喋ることの方が好きだから正直、一つだけで足りてしまう。

 とりあえず弱っている高井に食べさせて回復してもらうことにした。

 御崎本人がまだその気ならこの後動くわけだし、そのときに相手である彼が弱っていたら嫌だろうからだ。


「稲多も食えよ」

「食べているよ、ただ、鴻巣や御崎、高井が多く食べた方がいい」

「いや、いくらなんでも三人でこの量は――あれおかしいな、さっきまで結構あったはずなんだが」


 それならいまこうして話している間にもむしゃむしゃマシンがいるわけで、先程の発言は主に高井と御崎に対してのものだった。


「はははっ、鴻巣ちゃんがいたらこれでも足りないかもねっ」

「相変わらず凄えな、それで太っていないんだから奇跡だろ」

「食べた分はちゃんと払うから心配しないでね、あと、私に負けないように三人も食べてね」

「「「それは無理だ……」」」


 この場は賑やかなのに内側は静かでそう悪くない感じだった。

 普通にしているだけで雰囲気を悪くしてしまうとかそういうこともないのもいい。

 小さい頃も高井と集まるぐらいはしてもよかったのかもしれないな、なんてことはないまま終わっていくから集まろうなんて考えが微塵もなかったのがもったいない気がする。


「稲多君」

「どうした?」


 鴻巣に比べたら少ないものの、それなりに食べていた御崎が手を止め横にやって来たので意識を向けた。

 ちなみに無理だなんて言いつつも張り合おうとしている高井君がいるが、ペース的にはボロ負けだった。


「今日は十九時まででいいかな?」

「ああ、それでいいよ」


 半日で終わったこともあって二人が待ちきれなくなった結果、想像以上に早めの開催になったから全く文句はない。


「ごめんね、今日は頑張らないといけないからさ」

「頑張れよ、次会ったときにおめでとうと言わせてくれ」

「まだどうなるのかは分からないけどねー」


 もう断言してしまってもいいぐらいなのに御崎もあれだな。

 それきり戻ったからまた俺にとっては静かな時間を味わっていた。

 でも、十七時半ぐらいから集まっていたのにそうしていたらあっという間に十九時がきて解散することになった。


「ふぅ、結構食べちゃったなぁ」

「これからどうする?」


 解散なら解散でもいいが、まだいられるということならこのままがいい。

 まだ足りないということならまたおでんを買うのもいいかもしれない。


「今日は私の家に来てもらおうかな」

「え、マジ?」

「うん、哲君のことをお母さんに知ってもらいたいから」


 でも、来てもらってばかりなのも事実だから言うことを聞くしかないか。

 そのため、特にいやとかだがとか言わずに付いて行ったのだった。




「なんというかその、鴻巣の母さんは鴻巣をそのまんま大きくした感じだな」


 食べる量も、やり方もよく似ていた。

 一時間だけでこうなるわけだから、過ごす時間が増えれば増えるほど尚更こういう答えになりそうだった。


「お父さんよりお母さんに似ているってよく言われるからね」

「肉食系親子か、鴻巣――」

「桜だよ」

「桜の父さんも攻め攻めな母さんにやられたんだろうな」


 初対面の俺が相手でも距離が近かったからまず物理的にやられていそうだ。

 ただ、自分の武器をしっかり分かっているわけだから強いとしか言いようがない。

 そしてそれがしっかり娘に引き継がれていて、普通に一緒にいるだけでも俺はやられて――いや、ま、まだだがな。


「うーん、実際はお父さんの方が積極的だったみたいだけどね」

「へえ、流石に俺とは違うか」

「そうかな? 哲君も積極的だと思うけど」


 ここで待てなどといつもみたいに乗っかってしまったら俺の負けが決まる、そんなことは一切ないのだから堂々としていればいい。


「というか名前で呼ぶのやめようぜ、桜はいいけど俺の哲は合っていなさすぎる」

「気にすることないよ」

「じゃあまあそれはいいとして、そろそろ帰ってもいいか?」

「駄目ー」


 駄目って彼女の母さんと一時間話したのもあってもう二十時を過ぎているのだが。

 まさかこのまま泊まれとか言わないよなと恐れていると「せめて二十一時まではいてよ」と今日は少し優しい彼女だった。

 まああれか、長時間一緒にいても向こう的にメリットがないということを分かったのかもしれない。


「実際のところはどうなんだろうな、桜の母さん的には賛成なんだろうか」

「駄目なら分かりやすく顔に出るから大丈夫だよ」

「そういうところも桜に似ているな」


 勘違いする方が悪い的なことを言ったときの笑顔は怖かった。

 御崎がよく浮かべているような笑みと同じで、内容はマイナス寄りなのに最高のそれだったからだ。


「えー、私は一応隠そうと努力をするよぉ」

「確かににこにこしているけど正直、あれは怖いぞ」


 自分がやばくなったときだけ高井や御崎を利用することになってしまうからなるべくやめてもらいたいところだった。

 俺の能力だと言ってくれないとずっとそのまま失敗ばかりをしてしまう可能性の方が高いわけで、不満があるなら言葉でぶつけてくれた方がいい。


「ふふ、どう? これでも怖い?」

「いや、なんか無邪気な子どもみたいだ」

「えー」


 いいのかこれ、ちょっと腕を掴んで逃げたぐらいでいいのか。

 いやまあそりゃ他の男子なら普通のことかもしれないが、俺がこの結果になるのは違和感しかない。

 とはいえ、他者を洗脳なんてできる人間でもないし、こうなってくると彼女が不安になる存在ということになるか。


「桜、後悔しないか?」

「この先のことは分からないから一生とかは言えないけど、少なくともいまは全く問題ないよ」

「そうか、じゃあ」


 じゃあって変だろ、俺はどう答えるのが正解なのだろうか。


「哲君?」

「よろしく頼む」

「うん、よろしくね」


 今日の俺を無理やり褒めるとしたら嫌な雰囲気にしなかったことと、保留にして持ち帰ることにはしなかったことだ。

 俺にしては悪くない結果だと言える、これを続けることができたら自分が言ったことぐらいは守ることができる。


「じゃあはい、寒いだろうからお布団に入って」

「その手には乗らないぞ」

「もう関係が変わったんだからいいでしょ?」

「今日はもう帰るよ、俺にとっては慣れないことの連続で少し疲れたから」

「そっか、それじゃあ気をつけてね」


 鍵のためだろうが玄関まで来てくれたから挨拶をしてから背を向けて歩き始めた。

 寄り道などをしても仕方がないから真っ直ぐに家に帰って、リビングにいた二人に挨拶をする。


「珍しいな」

「友達に誘われてな」

「そうか、そういう友達がいるのはいいことだ」


 それはそうだ、誘ってもらえるというのはありがたいことだな。

 まあ、俺はそれを疲れたくないからなどという理由で断ろうとしたわけだが、結局一緒に過ごすことを選んだわけだからなかったことにしてしまおう。


「父さんと母さんはどうしたんだ?」

「いつも通りだ」

「違うよ、クリスマスプレゼントをあげたら分かりやすく喜んでくれたよ」

「俺はそんなことより母さんが自分に買うか、哲に買った方がよかったと思うがな」

「もう、優しいのはいいけどお父さんだって貰ってもいいでしょ」


 結婚してからもずっと仲がいいままでいるなんてすごい。

 俺らはどうなるのだろうか、早くも不安になってきてしまったのだった。




「哲、高井君が来てくれたよ」

「ありがとうの前に、なんで高井だけ名前で呼ばないんだ?」


 小さい頃から高井と一緒にいて、それこそ家で集まることも多くて母が話す機会も多かったのに慎重だった。

 女子ならその日の内に名前で呼ぶぐらいなのにその差はなんなのだろうか。


「え、だってほら、馴れ馴れしいのは嫌いそうだから」

「昔から母さんと話してきているんだから別に気にしないだろ」


 とにかく待たせるわけにはいかないからちゃんと礼を言ってから一階に移動する、すると椅子に座ってむしゃむしゃ菓子を食べている御崎とソファでぐったりとしている高井がいた。

 ちなみにその御崎の対面には桜もいて、いつものようにむしゃむしゃマシンになっていた。


「御崎か桜かどっちでもいいけど、高井が弱っている理由を教えてくれないか?」

「はい、それは私が徹夜に付き合わせたからです」

「徹夜? おいおい、まさか付き合い始めた初日に――」


 流石に違かったらしく「していませんよ、出会ってからのことを話していたの」と教えてくれたが、そこまで長い期間一緒にいたというわけでもないのに朝まで盛り上がれることがすごいと思った。

 小学生みたいで少し微妙なものの、本当にそうとしか言えないから仕方がない。


「本当か?」

「ああ、でも、まさか朝まで続けるとは思わなくてな……」


 俺と同じぐらい、いや、俺以上に強気に行動できていない存在がいる。

 彼にはこれから嬉しいことも増えるだろうが、それと同じぐらい疲れる回数も増えそうだ。

 次の話をする前に少し偉そうではあるものの、全部に付き合っていたら体が保たないぞと言っておいた。


「そういえばあっちの方はどうなったんだ?」

「結局、萌音が告白をしてきて関係が変わったんだ」

「そうか、おめでとう」

「おう、そっちもな」


 で、その徹夜の原因となった御崎は母にどんどんと菓子を渡されてどんどんと口にしていた。

 あれは後で酷いことになりそうだ、それでぐったりとした御崎を彼が運んだことでまたなにかが起きるかもしれない。

 付き合い始めたばかりなら本当に小さなことでそういう雰囲気になってもなんらおかしくはないため、自分達のことではないからこそ期待している自分がいる。

 どういうことをするのか、○○のときはどうするべきなのかなどを未経験者の俺に教えてほしい。


「だ、駄目だ、鴻巣ちゃんはすごすぎる」

「御崎さんもすごいと思うよ」

「い、いや、無駄に張り合って稲多君のお家のお菓子を終わらせてしまっただけだから駄目だよ……」


 その点については心配しなくていい。

 主な理由は桜に食べてもらうためではあるが、お客が来たとき用に買っているわけだから悪くない流れとなっている。


「気にしなくて大丈夫だよ、私達はそこまで食べないからね」

「す、すみません、ありがとうございます」


 そうは言っても無限に食べられるわけではないため、御崎はやめて大人しく彼の隣に座った。


「義一、いい加減復活してよ」

「ふぅ、ああ、もう大丈夫だ」

「よし、じゃあそろそろ行こっか」

「そうだな」


 どうやらこれから出かけるみたいだった、寝てしまわないように俺の家に来ただけらしい。

 まあ、大抵の店は十時ぐらいにならないと開店しないわけだから仕方がないという見方もできる。

 だって寝ていないのに暇な時間があると俺なら寝てしまうからだ。


「もう、高井君っていつもすぐに帰っちゃうね」

「ここにいなくちゃいけないなんてルールはないし、仕方がないだろ」


 そもそも中学のときから来る回数は減っていたから今更なことだった。

 これぐらいの年齢になっても、彼女ができてもああして来てくれていることに感謝をした方がいい。


「あんまりこういうことを言いたくないけどその点、桜ちゃんはいっぱいいてくれるから好きだよ」

「私もここが好きです」

「両想いではないけどそう言ってもらえて嬉しい!」


 構ってもらえればもうなんでもいいのかもしれない。

 だが、こういうところを見る度にそういうところは分かりやすく引き継がれるなと内で呟いてしまう。


「あ、そろそろ邪魔になりそうだから部屋に戻るね」

「それこそ気にするなよ」

「でも、関係が変わったばかりなんでしょ? ならやりたいこともあるんじゃないかなって思ったんだけど」


 あれ、そのことはまだ母には言っていないのにどうして知っているのだろうか、一応桜を見てみると「どうしたの?」と気にしている感じはしない。


「ここは私の家というわけではないですし、気にしないでください」

「そう? それならいさせてもらうけど」


 分かりやすく嬉しそうな顔をしている、多分こういうところも影響して友達が多いのだと思う。


「はい、それにお母さんがいても余裕でできますから」

「「えっと、なにを?」」

「え? ふふ、そんなのお喋りに決まっているじゃないですか」


 変なことをするつもりはなかったようで安心することができた。

 相変わらず俺とか母よりも菓子を優先している彼女ではあるが、いい食べっぷりを見ることができるのだから気にする必要はない。

 あとはそう、飛ばしすぎると絶対にどこかで悪いことが起こるからゆっくりやっていけばよかった。

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