第31話【エピローグ】

【エピローグ】


「で、全員生還できたのはめでたい話だが……」


 グレープ号でセーフハウスに帰還して早々、安野と帆山は権田の目の前で正座させられていた。権田自身は椅子にどっかり座り込んだままだ。


「あのなあ、これは戦争なんだぞ? その現場でいちゃこらするやつがあるか?」

「す、すみません、つい……」


 帆山がこれでもかと顔を真っ赤にしながら呟く。

 一方の安野は、ぼんやりと権田を見返している。


「おい安野、お前にも思うところはあるだろう? 言ってみろ」

「え? ああ、そりゃあ突然キスされたのには驚きましたけど」

「キ、キキッ……!」


 ますます鮮やかに赤くなる帆山。


「まあまあ、そう目くじら立てなくてもいいじゃない、ゴンちゃん。二人はまだ若いんだし」

「おい姐さん、あんたまで二人の肩を持つのか? もしマシンが一機でも生き残っていたらどうなってた? 接吻途中に二人は殺されてたかもしれねえ」

「あの、えーっと……」


 権田の横で、矢口がもごもごと口を開いた。


「その可能性はありません、権田さん。熱源探知システムで、安野さんと帆山さんが……その、キスをしている間、周囲に残存する敵がいないかは確認できていましたので」

「そういう問題じゃねえ!」

「まあそうカッカしないの。気は済んだ?」

「……ああ、もういいよ。で? 今回の作戦、結局成功だったのか? バンカーバスターは確実にアクアフロートの中枢を潰したんだよな?」

「ええ。それは保証できるわ。でも――」

「でも?」

「これは予想の域を越えないのだけれど、まだまだこの秘密結社とは戦わなければならないようね」

「ほう?」


 権田はテーブルに片手で頬杖をつきながら、もう片方の手で菅原に説明を要求した。


「実際、大倉さんは気づかなかったようだけど、アクアフロート中枢の会議室に集っていた四名の黒幕は、遠隔で会議に臨んでいたのよ」

「遠隔? それってまさか――」

「立体映像、でしょうね。彼ら一人一人が実際はどこにいるのか、あるいは大倉さんのAIのような存在なのか、分からないことだらけなのよ」


 ふーーーっ、と権田は長い息をついた。


「なるほど、そいつはまだ動向を監視する必要があるな。組織とやらの」

「でも、その組織にしたって、機密組織であるだけで本当は世の中の役に立ってるんじゃ……?」


 小声で見解を述べる矢口を、権田は一瞥をくれて黙らせた。

 が、すぐに思案顔に戻り、片手で無精髭の生えた頬を撫でた。


「さあどうだかな。それを見極めるのも、俺たち『エンターテイナー』の役割だろう」

「その通り。ま、今後三日間は休日にして、美味しいものでも食べましょう」

「結局食欲の話かよ!」


 権田は、ツッコミ用のハリセンがこの場にないことを深く嘆いた。

 もちろん胸の中でだが。


「さ、ぱーっと焼肉でも食べに行きましょう!」

「じゃ、じゃあボクがグレープ号で――」

「馬鹿! 目立つだろうか!」


 そんな三人の様子を見ながら、安野は呟いた。


「やれやれ、僕がここの食料で何か作った方が早そうっすね。瑞樹さん、何か食べたいもの、ある?」

「えっ、あ、あああたし? えっと、じゃあ、立己くんの得意なパスタでも……」

「りょーかい」


 一体どこまで朴念仁なのか。大いなる疑問を残したまま、安野は立ち上がってキッチンへと向かうことにした。

 それを手伝うということを名目に、帆山が彼の後を追ったのは言うまでもない。


 THE END

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弾雨に踊れ、エンターテイナー! 岩井喬 @i1g37310

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