第30話

「おーい、タっちゃん、ミっちゃん、無事かしら? って、おっとっと」


 無防備に階下を覗き込んだ菅原は、慌てて首を引っ込めた。

 そこには三つの人影。帆山とマシンの生き残り、それにマシンに首を締め上げられた安野だった。


「がはっ!」

「立己くん!」


 気が動転した帆山が、ナイフを捨てて安野を引っ張り下ろそうとする。だが、相手は機械だ。人力で相手にできるはずがない。ゆっくりと安野の足が床から離れていく。


「ミっちゃん、離れて」


 極めて冷静な声で言い放ち、菅原は下り立ちざまに刀を一振り。一瞬で歩行機械を縦に斬り捌いた。すとん、と安野の身体が床に落ちる。


「かっ、かは……」

「大丈夫、立己くん!」

「ふう、これで全機撃破のようね」


 軽く肩を上下させる菅原。その前で、帆山はうずくまる安野に縋りついた。


 安野は無言で、膝をついたまま大丈夫だと伝えようとする。が、遅かった。

 十分な時間がなかったのだ。帆山に唇を塞がれるのを避けるには。


 これには流石の菅原も、驚きを隠せなかった。両眉を上げて事の次第を見守っている。

 それからたっぷり十秒は経過しただろうか。


「あらあら……。ヤっちゃん、こんな大人になっちゃ駄目よ?」


 菅原がヘッドセット越しに聞いたのは、矢口の間の抜けた返答だけだった。

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