第3話上京①

「領収書ください。野原証券株式会社で。」

今まではアルバイトでお金持ちに渡してきた領収書。ついに自分も領収書をもらう立場になったか、、誰に向けるわけでもなくドヤ顔をしながら東京へ向かう新幹線チケットを買った。

新型コロナの影響もあってか新幹線の人はまばらだが、自分同様新卒で上京するのかスーツに不釣り合いなカジュアルなトラベルバックを持った若者がちらほらいて少し安心する。今日はこの後東京に到着次第本社へ向かい、業務管理者の方から寮の鍵を受け取る手筈になっていた。よし、緊張してきたからとりあえず飲むか。


連日の卒業祝い飲み会で肝臓がやられていたせいもあってか、ビール一杯で爆睡していたようだ。気づいたら野原證券大手町本社に到着していた。

業務管理者から言われた通りロビーのベンチに腰をかけて待っていると、前方からのしのしと歩いてきたスタイリッシュなアルパカのような男が声をかけてきた。

「山本くん?」

「あ、はい、山本です!」

急ぎ立ち上がり背筋を正して挨拶をする。どうやらこの人が業務管理者が言っていた田中さんのようだ。

「なんで座ってるの?」

「えっ、」

「まぁいいけど。」

「、、、、、」

どうやら座って待っていたのはまずかったようだ。しかしこれだけ新卒社員がいるロビーで一目散に見つけてくるあたり、この男只のアルパカではないな。。さすが野原の社員。


「これ鍵と寮の書類ね〜。女の子とか連れ込むなよー。」

アルパカさんはさっきより少し物腰柔らかい雰囲気で書類を渡してくれた。この人昔やってんな。


「それじゃ明日オフィス着いたらピンポン押してね。引っ越し頑張って〜」

説明も手短にアルパカさんは足速にオフィスに戻っていった。開口一番のツメには震えたが、どうやら悪い人ではないようだ。。と思いつつ受け取った鍵を眺めると、車のキーのような形をしている。どうやら綺麗そうなマンションだぞっと少し嬉しく思いながら、葛飾区を目指してオフィスを出た。

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今日も僕には彼女はいない @okidoku

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