第3話 故障
ルイヤの住む屋敷は宮廷に引けを取らないほど大きく、きらびやかである。そんな屋敷には3つの調理場、50の寝室、100人は入るであろう巨大な大広間など様々な部屋が用意されており、多くのメイドやコックがそこで働いている。ただ、彼らの仕事はごくわずかである。というのもこの屋敷を訪ねてくる人はほとんどおらず、貴族なども住んでいないためルイヤだけの世話をすればいいからである。一人分の食事、衣服、入浴、これらの用意さえすればよい。設備、労働力、ともに過剰であることは明白だが、そんなことは関係ない。これらは帝国特等魔術師である自分が皇帝より偉いと国民に示すためのいわば『必需品』なのである。
「ル、ルイヤ様、朝食をお持ちしました」
屋敷に仕えるメイドの一人が、震えた手で朝食のステーキを寝室にある小さな机に置く。
屋敷ができたころは食事用の豪華な部屋で食べていたルイヤだったが、数日後には部屋間の移動が面倒という理由で、生活のほとんどを寝室で送るようになっていた。
執事のガイはメイドを部屋を出たのを確認し、ゆっくりと話し始めた。
「先ほどの話なのですが、皇帝陛下のご命令で帝国魔術師は全員、ペンサーチで魔才を計測するようにとのことでしてぇ、、、」
「なぜ俺様がイチョウの命令に従わなければならない?」
「も、もちろん、ルイヤ坊ちゃんが皇帝陛下より偉いことは重々承知しております、、、。ただ、、、」
「俺様の魔才が衰退しているかもしれないから、、、か」
「その通りです、お坊ちゃま。万が一がありますし、この最新型のペンサーチは先端から出るライトを額に少し当てるだけで計測できますので、、、」
ルイヤは少し悩んだ後、数秒の我慢でガイが静かになることを考えれば断るほうが面倒、としステーキの隣に置かれてるペンサーチを手に取った。ただこの時、ルイヤは一抹の不安を拭えないでいた。彼はたびたび、屋敷近くのガーダ平原へと足を運び、オークなどのモンスターに向け魔法を打っていた。巨大な屋敷での『一人』暮らしはストレスがたまりやすいためである。しかし、この生活を5年程続けていたある日、ふと自分の魔法に対して違和感を持つことになる。魔法によってできる地面の穴が以前より、小さくなっているようにみえたのだ。原因を特定するにあたり、魔才を確認するといいう手段は真っ先に思いついたが、彼はしなかった。いや、できなかった。
怖いから。
魔才はこの世界で最も重要なもの。容姿。金。頭脳。これら、他要素を超越する存在。
魔才によって身分が決まり、生活が決まり、人生が決まる。まして、魔才を武器に威張り散らかしていてルイヤにとっては命より大切なものだった。
ただ、それでもいつかは確認しておく必要がある。それが今日ということだ。
「このボタンを、、、押せばいいのだな」
ペンサーチは名前の通りペンの形をしており、赤く丸いボタン一つと、数値を表示するモニターのみで構成されていたため、使い方はすぐにわかった。
「ピッ」
ボタンを押したのと同時にペンの先端から青い光がはなたれ、ルイヤはほんの少し震えた手で自分の額へと押し当てた。
「正常に計測できました」
ペンサーチの機械的な声が、静寂な部屋に響き渡る
それを聞いた彼はゆっくりと右手を下ろし、恐る恐るモニターへと目を移した。
『魔器力 32 MP、魔回力 28 MP、異能力 S』
ルイヤはじっと数値を見続ける。そしてじわじわとやってくる様々な感情。
『絶望』『落胆』『怒り』。
彼はこれらを受け入れられるほど大した人間ではない。当然、心の器から感情あふれ出る。
そのようになった人間がとる行動は一つ。『発狂』。
「は?、、は?、、どういうこと、え、どういうこと。」
ルイヤはガイを顔をにらみつける。まったくの八つ当たりであることは自分でもわかっているが、我慢などできない。っていうか、ガイの顔が気にくわない。こいつは心配そうな顔をしているだけ。
何とかしろ。お前が何とかしろ。お前は俺の言うことを聞くことしか脳がないゴミなんだから。早くしろ!
最強魔術師のボクは民を苦しめ、やりたい放題してたけど突然弱体化をくらいお先真っ暗!! @daihito
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