第2話 奴隷

「失礼します」 




イースト帝国皇帝秘書のラールは金銀で豪勢に装飾された扉をゆっくりと開く。


全身が黒の秘書専用スーツを着た彼はそそくさと皇帝イチョウの前で跪き、日課となっている秘書報告を始めた。 




「イチョウ様、予定通り本日、我が帝国魔術師全員にペンサーチを届き終えました。3日後には全員の計測結果が出るとのことです」




「うむ。被害状況を把握しなくては対策もできんからのう。魔術師団は帝国で最も重要な軍隊。一刻も早く原因を特定するのじゃ!」




イチョウは秘書ラールの顔をじっと見ながら強く訴える。




「かしこまりました」




ラールは軽く頭を下げ、一度床に映る自分の顔を見つめた後、再び顔を上げ話し始めた。




「もう一つ、ご報告したいことが、、、」




「何じゃ」




「奴隷どもの件ですが、本当にあれだけの数をケイ帝国に輸出なさるおつもりですか?確かに奴隷どもは魔法は使えませんが安く従順な労働力になります。」




イースト帝国には貴族階級、平民階級、奴隷階級の3つのカーストがあり、同じ階級でのみ結婚が許されている。これは魔才が遺伝的なものであることが大きく関係している。例えば父方の魔器力が10MP、母方の魔器力が5MPだった場合、生まれてくる子供の魔器力は5か10MPとなる。これは魔回力の場合も同じである(ただし異能力は遺伝しない)。このような仕組みになっているため、イースト帝国皇帝は優秀な兵士を増やそう(というより、魔才を持つものが減らないよう)と階級を分けているのである。3つの階級とはいえ、魔才を持つ貴族階級、平民階級は同じ地域に住む一方で、魔才を全く持たない奴隷階級は奴隷区と言われる劣悪な環境で過ごさなければならず、長年差別の対象とされているのが現実である。




「何を言っておる。お主も知っておろう。近頃は産業の機械化が進み、人手は足りてきておるし、先の世界大戦で財政は大赤字。そんな中、あやつらが相場の3倍で奴隷を買い取ってくれるのじゃから、こっちとしては断る理由がなかろう。」




イチョウは少々呆れた顔で肘をついた。


彼の言葉を聞いたラールは一度反論しようと口を開いたがすぐさま思いとどまりゆっくりと口を閉じた。




「それでは、そのように致します」




ラールはすっと立ち上がり、部屋を出て行く。目の前の中庭には青々とした草木が広がっており、その中心には一等魔術師ラルクの巨像が堂々と立っていた。


彼はじっとその像を眺めた後、その場を後にした。


後書き編集

読んでくださり、ありがとうございました。


初投稿ですのでアドバイスなどがあれば教えていただけると嬉しいです。

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