第3話

 勇者と姫が元魔王城を出てから5時間が経過した頃、2人は森を歩いていた。


「あの、勇者様。大分歩いたと思うのですが。もしかして迷子になってたりなんて…」


 姫が息を切らしながら勇者に聞く。勇者はその言葉に少し動揺したのか、近くの木に刀で傷をつけ早足で歩き始めた。


 それから30分後


「勇者様。この傷がついた木を見るの何回目か分かっていらっしゃいます?3回目でしてよ?ねえ!迷子になってるんですよね?わたくし達」


 姫が半泣きになりながら声を荒げる。勇者は焦っているのか、数分前から冷や汗が止まらない。


「姫さん。道分かるか?」

「分かる訳ありませんわ。そろそろ日が暮れますわよ?どうしますの?」

「…今日は野宿だな。その辺から小枝を集めてきてくれ。」


 勇者の言葉に姫は絶句したが仕方がない。夜になれば、夜目が効く魔物の方が人間よりも遥かに有利になる。

 勇者だけならば何とかなるだろうが、姫も一緒では何が起こるか分からないのだ。


「わ、分かりましたわ。」


 姫はそう言うと勇者と同じように、そばに落ちている枝やよく燃えそうな落ち葉などを拾い集める。


「これだけあれば大丈夫だろう。じゃあ火をつけますね。」


 勇者はそう言うと、自身のアイテムボックスからマッチを取り出し、慣れた様子で火をつけ木を焚べていく。

 それを黙って見ていた姫は言いにくそうに口を開く。


「勇者様は、どうやって魔王城に辿り着いたんですの?とんでもなく方向音痴ですわよね?」


 勇者は木を焚べながら、姫の方には目をやらずに答える。


「一緒に旅をしていた魔法使いがいたんだ。そいつが道案内をしてくれてたんだよ。」


 その答えに姫は何も言えなくなってしまった。その魔法使いが今居ない理由がなんとなく分かってしまったからだ。きっと魔王城についた後、魔王の元に辿り着く前に力尽きてしまったのだろう。魔王に捕まり、自力で逃げ出す事が出来なかった自分の無力さを呪うばかりだ。姫は勇者の顔を見る事が出来なくなり、俯いたまま声を押し殺し涙を流す。


 勇者はそんな事には気づかないまま思い出話を続けていく。


「魔法使いは、魔物との戦闘で壊れた村の建物を無償で直したり。怪我や病気、呪いなんかも無償で治したり。ほんっとうに使えない野郎でしたよ。」


「…はい?」


「戦闘時もあいつはクソの役にも立たないし、俺は依頼は報酬が無いと受けないんすけど、あいつはがめつい!そんな事ではダメだ!とか抜かしやがって。こっちは命かけてんだぞ!がめついもクソもあるかっての!道案内しか出来ない無能の癖によぉ!」


 感情的になっていったのだろう。どんどんと声が大きくなり、語気が強くなっていく。眉間の皺もやばい。極悪人面だ。姫は姫でポカンと口を開けたまま、こいつは何を言っているのだろうと言いたげな目で勇者を見ている。


 勇者の言っている事は別に間違っている事ではない。間違ってはいないんだけど、姫の涙を返してやってほしい。


 全ての愚痴を吐き終わったところで、勇者はやっと姫の方を向き、分かりやすい営業スマイルで


「魔法使いとは方向性の違いによって解散したんですよ。」


と爽やかに告げた。

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守銭奴勇者 @pyaratyan

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