第2話

 魔王城の宝物庫の扉を蹴り破り侵入した勇者は、宝箱も力ずくで開き、目の前に聳える宝の山に感動の涙を流す。


「あ、あの勇者様。先程まで立っているのがやっとなほどフラフラではございませんでしたか?大丈夫なんですの?」


 姫の言葉には耳をかさず、勇者は山のようにある宝を自身のアイテムボックスにしまうのに必死だった。


「あの!勇者様!聞いているのですか!?」


 姫が少し大きな声で勇者を呼ぶと、勇者はやっと聞こえたのか、不機嫌そうに姫の方を向く。


「なんですか姫様?今俺は見ての通り忙しいんですよ。用がないなら静かにしててくれませんかね?」


 その声は苛立ちを含んでおり、勇者の表情も本当に姫を見ているのか?と疑問に思うほど、苛立った顔をしていた。


 姫相手にそんな顔を向ける相手は今まで当然のようにおらず、初めて向けられた感情に(フッ、面白い勇者様)などと思う訳がなく、ただただ苛立ちしか生まれなかった。


 それもそのはず、先程までのやり取りを見てもらえれば分かると思うが、100%勇者が悪いのだ。10割勇者が加害者なのだ。


 姫はただ勇者の身体の心配をしただけなのに、あろう事か勇者はそれに対して苛立ちをぶつけてしまったのだ。せめて隠せよ。


 先程の勇者の発言の後、姫が固まってしまった為、元魔王城にはしばらくの間沈黙が続いたが、宝を全てアイテムボックスにしまい終わった勇者が「帰りましょう」と声をかけた事で沈黙は途切れた。


 自身に比べ足の遅い姫を少し気にかけながら、元魔王城を後にする勇者は気づく事が出来なかった。魔王だった塵が再び動き始めていることに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る