第4話

一か八か



「おじさん。おじさん」

隣のベッドに声をかけたけど返事がない。

このままでは、自分も殺される。どうにか脱出しないと…でもこの身体じゃ動けない。家に帰るにも母さんも面会にすら来ない。ケイタイもないから外部と連絡を取る手段がない。とてつもなく長い夜に感じた。二度と朝が来ないような絶望感に僕はおそわれていた。


外が明るくなって、た看護師が二人がかりで

「おじさん重い」

「せーの」

おじさんは担架に乗せられて、別の部屋に移された。

"カラン"

「なんだ?」

床に何か落ちた。

「これだ!」


「火事だー!火事だー!」

部屋から煙が。非常ベルが病院中に響いていた。

「ゴホッゴホッ、助けてー」

消防車がサイレンを鳴らして病院へ向かってくる。僕は煙の中、助けを待った。レスキュー隊がやってきて僕は病室から運び出された。

「助かった」


この火事がきっかけで病院には警察が捜査に入り、入院患者の遺体が多数発見された。医師、看護師も事情聴取のため連行された。

「渡辺、ゴメンな」

「田村君、おばあちゃんに守られているだね…」

僕は胸元のネックレスをみた。


おじさんは夜な夜な看護師に見つからないように屋上でタバコを吸っていた。担架におじさんを乗せるときライターが床に落ちた。僕は一か八かの賭けに出た。ライターでガーゼに火をつけ窓際に投げた。カーテンに火がついた。

「レスキュー隊が来なかったら、今ごろ焼け死んでいたかもしれない」


僕は結局、次の病院へ移された。



       (了)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

実験病院 将源 @eevoice

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ