第075話 欠乏症
――
しかし欠乏症は
彼等は自身の体内で生成された
その主な原因は過度な
故にLTSでは
人間が空腹時に筋肉等のタンパク質からアミノ酸を産生しエネルギーを得る作用に似ている。
それにより生じた歪みが機構に不具合をもたらし、場合によっては動くこともままならない。
カズキとスカイライナーに現れた症状もまた、体内の
◇◇◇
「――欠乏症だよ、
理解不能といった様子で倒れるカズキに、御堂ツルギが解を示した。
「君はここに来て何体の
生身の肌に浮かぶのはアレルギー様症状を思わせる発疹と汗。高熱と眩暈に襲われ全身に疼痛が走る。
口と鼻から血を垂れ流し、痺れる手足から徐々に感覚が失われていった。
『坊ちゃま! 大丈夫ですか!』
カズキの異変にエルグランディアが駆け寄った。
傍らに膝を付くと、斃れるカズキの肩を抱え必死に持ち上げる。
『逃げましょう、坊ちゃま』
エルグランディアに支えられようやく立ち上がったカズキ。その瞳には力無く蹲るエーラと、横たわり痙攣するスカイライナーが映った。
痛々しい胸が熱く締め付けられる。けれどカズキには一人で歩く力も無い。
「……エル」
『なんですか坊ちゃま。大丈夫ですよ、エルが絶対に助けてあげますからね』
「俺はいい……エーラとライナを連れて逃げろ」
『なに言ってるですか坊ちゃま! そんなこと出来るわけないです!』
「ならお前だけ逃げろ……お前は関係ない……御堂もお前まで殺したりしないはずだから……」
『イヤです! 絶対にダメです! 何度お願いされても、坊ちゃまを置いてなんか行けません!』
「頼む……お前にまで死んでほしくねェんだ……」
そう告げるカズキの瞳には、もはや虚ろに昏い光しか宿らない。
今にも泣きだしそうな顔で、エルグランディアは首を左右に振った。
『坊ちゃまの居ない世界なんて、エルは居ても意味ないです! エルが今ここで稼働してるのは全部、坊ちゃまのためだけなんです!』
必死にカズキの身体を支え、叫ぶエルグランディアは重たげに足を踏み出した。
けれど思うように前へ進まない。すぐにバランスを崩して前のめりに倒れてしまった。
放り出されたカズキも俯せに床を転がる。
横たわり痙攣するスカイライナー。
項垂れるエーラ。
険しく睨む御堂ツルギ。
昏い瞳に映る残酷な現実に生きる本能は麻痺し、闘う力も奪われる。
だからカズキは、静かに瞼を降ろした。
『ごめんなさい、坊ちゃま! 今すぐにそっちに行きますから!』
慌てて立ち上がるエルグランディアはカズキの元へ駆け寄ろうとした。
「もういいよ、エル……」
けれどカズキのか細い声が、エルグランディアの足を止めてしまう。
「もういい……もう、しんどい……」
『な、なに言ってるんですか坊ちゃま!!』
「最初から分かってた……俺は御堂に勝てねェ……アイツは悪い人間じゃないし、願いもある……俺は死んだところで、悲しんでくれる人すら……」
『そんなことないです! 坊ちゃまのことを大切に思ってる人はいっぱい居ます! だから坊っちゃまは生きなきゃダメです!
楽しいことだって、これから沢山あります!
それに坊ちゃまが死んじゃったら、エルは……』
悲痛に顔を歪めるエルグランディア。
その声はカズキの心を打ち鳴らし掻き抉る。
けれど灯る炎は、燃え上がらない。
「もういいんだ……こんな世界で生きたところで、苦しいだけだ……」
絶望を表すような声に、エルグランディアは四つの手ついて愕然と肩を落とした。
けれど次の瞬間には顔を上げる。震えながら立ち上がると、赤い鎧の御堂ツルギに
『お願いです御堂さん。エルはどうなっても構いません。御堂さんの気が済むまで壊してもらっていいです。だからどうか、坊ちゃまだけは助けてあげてください! 見逃してください!』
「……それは出来ない」
華奢なエルグランディアの体を、赤い鎧の腕が優しく退かした。けれどエルグランディアも必死にしがみ付いて抵抗する。
『御堂さんが「分かった」って言ってくれるまで、エルは離れません!』
「……ごめん」
軽く腕を振り、御堂ツルギはエルグランディアを投げ飛ばした。けれど乱暴ではない。優しく、尻もちをつく程度。
『あうっ!』
と愛らしい喘ぎ声とは裏腹に、エルグランディアは鋭く御堂ツルギを睨めつけて、尚も立ち上がり太い腕にしがみつく。
御堂ツルギは腕を振り、またエルグランディアを引き離した。
けれど彼女は諦めることをしない。今度は両手を広げて目の前に立ち塞がる。
『坊ちゃまは……坊ちゃまだけは……!』
その美しい身を汚してなお、翠の目が御堂ツルギを睨み据える。
とうとう赤い拳が振り上げられた、その瞬間。
『グルァオオオァ!』
けたたましい雄叫びが耳を刺した。
見ればスカイライナーが立ち上がっている。
弱弱しい足取りで体を支え、蒼い機獣は唸り声を鳴らし御堂ツルギに接近する。
(エル……ライナ……)
ボロボロになろうと立ち上がる二人。痛々しい姿にカズキは苦悶に顔を歪ませ奥歯を噛み締めた。
心が僅かに、奮い立つ。
「ぐっ……!」
右の手甲を支えに震えながら体を起こした。
けれど思うように動かない。痙攣する足がもつれて、カズキは呆気なく前のめりに崩れ落ちた。
――トンッ……。
けれど倒れはしなかった。
落ちるカズキの体を抱きしめるように、エーラが支えていた。
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