第046話 版権型《キャラロイド》

 二足歩行の版権型キャラロイドに強烈なアッパーを喰らわされたカズキは、「べふっ!」と間の抜けた声を上げて尻もちをついた。


 小型のAIVISアイヴィス赤ん坊のように小さい手だが威力は充分。尻もち状態のカズキは立ち上がれない。

 座り込むカズキに追い打ちをかけるよう、顔面に追撃が撃ち込まれる。

 揺れている脳では防ぐこともままならず、呆気なく後ろに倒された。

 

 仰向けになるカズキ。


 するとネズミの版権型キャラロイドがマウントポジションにカズキを抑え、その顔面に連続パンチを繰り出した。


「あぶぶぶぶぶっ!」


右に左に連打される版権型キャラロイドの小さな拳。良いように殴打されてもカズキは抵抗する素振りも見せない。否、抵抗する余裕も無いのか。


『グルァッ!』


威嚇に吠えながらスカイライナーが擬人化ネズミに向けて牙を剥いた。主人に危害を加える敵を排除するべく。

 しかし二足歩行の版権型キャラロイドは素早く攻撃をかわすと、軽妙な動きで公園内を走り回った。そして思い出したかのように芝生を引き抜いたり木に体当たりを見舞えば、また小忙しく駆け回る。


「な、なんだアイツ」


両頬を赤く腫らしながらカズキはようやくと立ち上がった。

 同時にネズミの版権型キャラロイドがカズキを振り返り、剽軽ひょうきんな走り方で一目散に接近してくる。


「うえっ!」


右手甲をスライドさせBRAIDブレイド機粒菌きりゅうきんを満たす。

 焦るカズキを目掛けてネズミが跳んだ。

 併せてカズキは右腕を突き出す。

 ハンドボールのようにネズミ型AIVISアイヴィスを鷲掴みして、そのまま外装をスライドさせた。


 青白い光が放出されて、ネズミ型AIVISアイヴィスの体に浸透していく。


 手足を振り乱して抵抗する版権型キャラロイド。カズキの青い右手で暴れるネズミを、スカイライナーが尻尾を巻きつけ更に拘束する。

 そうして数秒後、力尽きたかのようにネズミは動きを止めた。


「な、治ったか……」


ほっと胸を撫で下ろし、カズキはすぐに赤鎧へ視線を戻した。

 ネズミ型AIVISアイヴィス機療きりょうしている間、赤鎧は一歩も動かなかった。まるでカズキの動向を見守っているかのように。


 そして動き出したかと思えば、何をするでもなく赤鎧は大きく跳んで夕陽の空に紛れ消えた。


 頬を腫らして呆けるカズキは追いかける気力も無く、スカイライナーも隣で空を見上げている。


「とりあえず、コイツを学校に持っていくか」

『グル』


ネズミの版権型キャラロイドを小脇に抱えて、カズキとスカイライナーは学校に戻った。



◇◇◇



 「――ってなAIVISアイヴィスが居たんだよ」

「それは大変だったね」


体育の授業中、校庭ランニングを終えたカズキは御堂みどうツルギにネズミの版権型キャラロイドについて話していた。もちろん、赤鎧や〈アクマ〉など〈イロハネ〉に関わることは除いて。


 ほとんど同時にゴールを決めた二人は、地べたに座り他の生徒が走り終わるのを待った。


 ジャージのような体操服姿で、生徒達がグラウンドを走る。

 全5周のランニングのうち4周目を終える日室ひむろ遊介ゆうすけがゴール前を通り過ぎたが、既にグロッキー状態で歩くのと大差ない。


「アイツ、もうちょい鍛えた方がいいんじゃねーの?」

「確かにね。長瀬ながせは最近ジムにでも通い始めたの?」

「いや全然。なんで」

「だって鍛えてるでしょ。前のランニングの時はもう少し時間かかってたじゃないか」

「そうだっけ」

「そうだよ。良かったら今度一緒に午後のトレーニング参加しようよ」

「いーけど、片桐かたぎり先生の時にな」


面倒臭そうに答えるカズキに、御堂ツルギは「確かに片桐先生の時は気が緩んじゃうよね」と微笑み返した。

 その後しばらくして、日室遊介も5回の外周を終えた。


「や、やっとゴールや…」


汗に塗れて息も絶え絶え、日室遊介はグラウンドに大の字で倒れた。


「お疲れ様、日室」

「だらしねーなー、お前」

「いや……ハァ、オレ……こういうの……向いてへんから……ハァ、ハァ……」


満身創痍の日室遊介に反して、ほかの生徒らは涼しい顔でランニングを終えている。残る二人の生徒もゴールしたが、彼ほど疲弊してはいない。


「今日の午後って、なんだっけ」

「ホールでBRAIDブレイドの講習だよ」

「寝るだろーな、コイツ」


大の字に寝転がる日室遊介を見て、御堂ツルギも「そうだね」と笑った。


 体育の授業を終えたカズキらはシャワーを浴び、ロッカールームで制服に着替えた。

 ほどよい疲労感のカズキと反し、日室遊介は「あ~、あ~」とゾンビのように低くうめいている。

 北館の屋上へ向かうと、いつも通りエルグランディアがシートを広げて待っていた。


 弁当の生姜焼きに舌鼓を打ったカズキは、コンビニ弁当をかき喰らう日室遊介らと共に講堂へと向かった。

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