第038話 過剰症《かじょうしょう》
スポーツバッグから蒼い
蒼い掌から
まるで
バシュン、と外装が勢いよくスライドして青白の
同時、カズキの手甲型
「うん、OK。その手首の所にあるメモリが改良点だね」
「はい。
「ふむふむ。なるほど4回分か。
「ありがとうございます。言っても、ほとんど
「そうなんだ。やるじゃないか日室君」
「それじゃあ、次はこっちね」
カズキは作業台の上に転がる、片割れのペンギンを見た。先程のとは打って変わって、油が切れたようにギクシャクと手足を動かしている。
「こっちの子は
人工羽毛を掻き分け片桐たゆねはペンギンを差し向けた。すると白いブラウスの隙間から、形のよい胸の谷間と黒い下着が覗き見えて、カズキは慌てて視線を逸らした。
「ここに緑っぽい石みたいのが見えるでしょ。これがその結晶体だよ」
細い指先が示したのは人工皮膚にこびり付いた小さな石。キラキラと光を反射して、まるで
「この結晶体が
「どうやって治すんですか?」
「この結晶体を溶かすのさ。方法は幾つかあるけど一番手っ取り早いのは大量の
「大量の
呟きながらカズキは再び蒼い手甲の外装をスライドさせて、右手甲の平をペンギンにあてがった。
輝く
にも関わらず、ペンギンの動きは相も変わらず錆びついたよう。
「なんも変わらへんで?」
「そうだね。
「ほな、どないすればエエんです?」
「普通は何回かに分けて
「大量の
蒼い右手を見つめたまま押し黙るカズキに、片桐たゆねがパンパンと手を叩いて促した。
「さ、今日はこれくらいにして続きはまた授業や課題の時にやってみようか」
「はーい」
「はい……」
「ああ、それからこれも単位に含めるからね。二人ともレポートを書いて提出しといてね」
「わかりましたー」
明るく笑って手を振る片桐たゆねは見送れて、二人は個室を後にした。カズキは右腕に
けれど階段を降りる一歩手前で、カズキとスカイライナーは突然と立ち止まった。
「悪い日室。先に教室行っててくれ」
「ええけど、どないしたん?」
「ちょっと野暮用」
バッグをまさぐり一冊の大学ノートを取り出すと、カズキはそれを日室遊介に放り渡した。
「これ、約束の宿題な」
「おお~! ありがとう!」
嬉しそうに手を振って日室遊介はひとり階段を下りていく。
カズキはスカイライナーと共に片桐たゆねの部屋へ戻った。
「どうしたの長瀬君。忘れ物かな?」
「ちょっと、見てもらえますか」
険しい表情のまま、カズキはスカイライナーの額に蒼い手甲を触れ合わせた。
「スカイライナー」
祈りを込めて名を呼んだ次の瞬間。橙色の光がカズキ達を包み込んだ。
眩い光から発せられる斥力のようなエネルギー。それを目の当たりにした片桐たゆねは驚きの色を隠せないでいた。
「な、なんだ……?」
きめ細かい肌に汗が浮かぶ。
収縮した光の中から現れたのは、橙色の羽を背に負い蒼の鎧を纏うカズキの姿。
輝く機粒菌を鱗粉のように振り撒いて、カズキは作業部屋にいるペンギンの前に立った。
錆びついたように動くモノクロの
すると直後、ペンギンの人工皮膚に付着していた石のような結晶体が昇華し美しい粒子と変わった。
「……ふぅっ」
息を吐いて緊張を解いたカズキの身体は再び光に包まれて、元の姿へと還された。
スカイライナーも同じく蒼い
――ガチャン。
乾いた金属音が外の扉から響いた。かと思えば片桐たゆねが入り口を背にドアを
「長瀬君……キミは一体、何者だ?」
普段の
緊張が、カズキの喉をゴクリと鳴らした。
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