第005話 LTS

 校舎の裏手に連れられたカズキ達は、がら空きの平面駐車場に在る、赤い4シートのオープンカーへ乗りこんだ。


 御堂みどうツルギは助手席へ、カズキとスカイライナーは後部座席に腰を下ろす。


 シートベルトを装着した片桐かたぎりたゆねが、ハンドルを握る。するとクルマが起動して、音声で目的地を示すと車は走行を始めた。


一行を乗せた赤いオープンカーは【LTS第三支部校】と刻まれたゲートから公道へと出る。


LAVER Training School】――通称【LTS】。


 カズキらが通うこの【LTS】は、所謂いわゆる高等専門学校となるため、英語や数学など普通科の高校と同程度の授業が行われる。

 そこに加えて機核療法士レイバーを育成するための教育課程が設けられているのだ。


 中学・高校から専門性の高い学校へ進学することが一般的となった現代において、医療やAIVISアイヴィス関連校への進学率は、有名な進学校のそれに引けを取らない。


 なかでも【LTS】では授業内容に『実際に現場で仕事を行う』というシステムが設けられており、近年注目を浴びている。

 ここにいう『仕事』とは、【LTS】が自治体や企業、個人から受けた依頼を、単位修得課題として生徒に発布したものだ。

 

 今カズキらが「課題」と呼んで向かっている現場は【LTS】が受けた依頼の一つだ。同様に以前行ったゴミ拾いもまた依頼だ。

 

 そうして【LTS学校】を出て5分もすれば、カズキらは目的の場所に到着した。

 辿り着いたそこはビビットカラーが特徴的な大型輸入家具店。リーズナブルな価格と気鋭のデザインが人気で、カズキも数か月前に訪れていた。


 立体駐車場に車を止めて一階から店外に出れば、3人と1機は裏手の搬入口へ向かった。

 そこにあるのは大きな鉄扉てっぴ。その前では行き場を失ったよう数台のトラックが並び、手持ち無沙汰の従業員らが野次馬と化している。


「あそこが今日の現場だね」


脇目も振らず片桐たゆねは、作業着姿の中年男性に声を掛けた。おそらく責任者だろう。


 御堂みどうツルギと共に後方で待機していたカズキは、落ち着かない様子で辺りを見回した。従業員が奇異の目でカズキらを見遣みやる。


 「お待たせー」


と、話を終えた片桐かたぎりたゆねが悠然とカズキらの元に帰った。


「それじゃあ早速、お手並み拝見といこうかな。たしか御堂みどう君は二度目の機療だったね」

「はい」

「じゃ、今日は一人でやってみようか」


屈託ない片桐かたぎりたゆねの提言。御堂みどうツルギは二重の目を丸めて驚く。流石の御堂みどうツルギも逡巡しゅんじゅんしたのだろう。しかし――


「……やります」


――意を決した御堂みどうツルギは、精強せいきょう眼差まなざしで答えた。片桐かたぎりたゆねは、満足そうに微笑み返す。


 御堂みどうツルギは鞄を下ろして、50㎝ほどの金属棒を数本取り出した。それらの突端を繋ぎ合わせ、一本の長いじょうをこさえる。

 そうして最後に、突端へトリガー付きのグリップを装着した。


「お前のそれ、昔の鉄砲みてーだな」

「猟銃とか火縄銃のこと? 確かに似てるけど、これは弾丸なんて出ないよ」


完成したグリップ付きのじょうを脇に構えれば、御堂みどうツルギはたくみに操ってみせた。


「ヒューッ。カッコいいね~、御堂みどう君」


微笑む片桐かたぎりたゆねに茶化され、御堂みどうツルギは照れくさそうに含羞はにかんだ。

 けれどすぐさま、真剣な表情で顔を上げる。

 5メートルはあろう鉄扉てっぴを見上げて、御堂みどうツルギは勢いよく跳んだ。ただの垂直飛びにも関わらず、ヒラリと華麗に越えてみせる。

 周りでたむろしている従業員が驚く中でカズキと片桐かたぎりたゆねは、当然といった様子だ。


 軽やかに着地を決めた御堂みどうツルギは、ぐに構内を見回した。

 広い敷地と高い壁。白く大きな壁沿いには搬送用のトラックが並んでいる。


 そのすぐかたわらで、搬入用のAIVISアイヴィスが一機。静かにたたずんでいた。全高3メートル程の作業型ワークロイドだ。

 汚れと錆びが目立つ白いボディ。両手は蟹を思わせるはさみ状。太く短い二本の足で直立している。


ふるタイプAIVISアイヴィスだな……」


御堂みどうツルギはゆっくりと蟹手かにて作業型ワークロイドへ近づいた。

 手が届きそうな距離まで接近すれば、長いじょうを装甲の隙間(接合部)に突き立て、手元のトリガーを引いた。

 

 バシュッ……と乾いた空砲音が響く。刹那、じょうを穿つワークロイドの接合部から、青白く光る霧のような物質が見えた。それはまるで、光り輝く微粒子のよう。


「よし……!」


じょう作業型ワークロイドから引き抜き、距離をとって様子を見てから、御堂みどうツルギは巨大な鉄扉てっぴを振り返った。


 「終わりました!」

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