第31話 これからも

 肌寒さを感じ、俺は頭痛を感じながらも俺は目覚めた。

 辺り一面真っ暗、どうやらまだ夜は明けてはおらず深夜のようだ。

 周りが見えないため俺は手を適当に動かし、スマホを探す。

 

 途中で何か柔らかい物を掴んだ。

 手の中にちょうどフィットし、とても揉みがいがありそうな感じだ。

 少し力を入れてみると『あうっ』という可愛らしい声が聞こえる。

 目を凝らし、なんとか見てみると俺が掴んでいた物の正体がわかった。


 奈菜美の胸。


 俺はすかさず手を離し、そして胸を掴んでいた手の中をじっと見た。

 感触が蘇り、なぜかもう一度揉みたくなってしまう。

 いや、確かに許可なく揉む以前に触るのは良くない事だ。

 良くない事は分かっているのに、もう一度、もう一度だけと脳を刺激する。


 俺がどうしようか迷っていると、あまり奮闘していたせいか奈菜美が目覚めた。


 「さっき揉んだでしょ」


 目覚めてそうそう奈菜美にそう言われ俺はドキッとした。

 

 「いや……スマホを探してて……」

 「スマホなんてリビングにあるでしょ? てか、昨日は激しかったのにもうこんなに冷静でいられるんだね」


 奈菜美がベッドから降りながらそのような事を口走る。

 激しかった……か。

 部屋の明かりが点き、周囲に落ちている物が露になる。

 コンドームの袋、ティッシュ、ゴミ箱の中には使用済みのコンドーム。

 寝ぼけていて上手く思い出せなかったが、かなり思い出してきた。

 

 昨日俺は寝室に行った後、奈菜美に抱き着いてそのまま二人とも初めてを経験した。

 あまり良いとは言えないが俺はてっきり、奈菜美は枕営業で処女を失っているものだと思っていた。

 だが昨日する時に「私も……その初めてだから……」と聞いた時は驚いた。


 まあ後はご想像の通り、身を流れに乗せてそのままハッピーエンド。

 よく「初めては……生が良い……」とか言う人間が居るらしいが、俺はまだ18歳の奈菜美を妊娠させるわけにもいかないからコンドームはさせてもらった、というか奈菜美がやる前に既に用意していた。


 奈菜美本人もするのは良いけど妊娠だけは大学を卒業してからが良いとの事。

 まあ、焦らずゆっくりと進んで行きたいという事だろうか。

 

 そして童貞を失ったわけだが、いざ実際に行為をしてみるととにかく気持ち良かったし、何より奈菜美を直で感じる事が出来た気がする。

 なんていうんだろうか、なんか一回しただけだがクセになるし、何よりも結婚したいという欲が少し出てきた気がする。

 奈菜美の体目的じゃなくて普通に結婚というものに興味が湧いて来た。


 リビングからスマホを持ってきた奈菜美が再びベッドの中に入って来る。

 お互いに裸に近い状態で俺はパンツ一枚、奈菜美は行為前に着ていた物とは別のキャミソールとパンツ。

 二人で布団の中に入り、奈菜美は俺にスマホを渡すと強引に腕を引っ張って来る。

 どうやら俺の腕を枕にしたいらしい。

 

 「腕貸してよ~」

 「ん、分かったよ」


 俺は寝そべり奈菜美の方へ腕を伸ばす。 

 奈菜美は嬉しそうに俺の腕を枕にすると、頭を少しこすりつけた後俺の胸の中に入って来た。

 奈菜美の大き目な胸が当たり、少し反応してしまう。

 だが、一度行為を行ったせいか最初よりかは緊張も不安もない。


 奈菜美の頭に手を添え、そっと俺の方へ寄せる。

 奈菜美は拳を握りしめ、頬を赤くしながら俺の胸の中でうずくまった。

 

 「えへへ、やっと私の気持ちを理解して来たんですね」


 小動物のように笑う奈菜美がとても可愛く見える。

 頭を撫でてみると、はにかむように笑う。


 「まあ、女の子はこういう事されると嬉しいのかなって自然と頭の中に浮かんできてな」

 「ふふっ、そういうのってイケメンしか許されないんですよ?」


 イケメンという文字に反応した俺だったが、すぐに奈菜美が「安心してください、真崎さんは私が見る限りイケメンですから!」とカバーしてくれた。


 「確かに顔はちょっとだけイケメンですけど、心は世界中の誰よりもイケメンです。それが私があなたを好きな理由なんですから」

 「ちょっとだけ、かぁ」


 顔の件は置いておいて、心は誰よりもイケメンか。

 そう言われるのは人生で初めてだし、なんだか高揚感が凄い。

 人に褒められるってこんなにも気持ちの良いものだったのか。

 

 あの日坂本代表を助け、感謝状を貰い、そして奈菜美が家に訪問してきた。 

 これまでの日々が嘘のようだったが、嘘じゃないことを奈菜美が実感させてくれる。

 奈菜美が家に訪問してきて、迫真の演技で俺を褒めて来た時はそんなに嬉しいとは感じなかった。

 それこそ、最近ずっと一緒に過ごしてきて警戒心が解けて来たのだろうか。


 「……俺は――」


 俺がある事を言いかけた時『スゥースゥー』と寝息が聞こえてきた。

 いつの間にか寝ていた奈菜美。

 俺はそんな奈菜美を見てほのかに笑った後


 「俺はあの日、奈菜美が求婚して来てから凄い人生が変わった。最初はおかしな奴だと思っていたが、案外喋ってみれば陽気で活発的で、かといって内気な部分もあって一緒にいて凄く楽しいし、なにより安心した」

 

 一息で言った事により息が持たなくなった。

 一度息を吸い、寝ている相手なのに俺は緊張しながら


 【俺は、今まで一緒に過ごしてきて奈菜美と結婚したいって思えて来たよ】


 そう呟き、俺も瞳を閉じた。


 ~~~


 小鳥のさえずりが遠くから聞こえてくる。

 次第に聴覚や視覚がハッキリとしてきて、俺は体を起こした。

 

 「あ、起きました? おはようございま~す!」


 ドカッと俺の胸の辺りに衝撃が走り、俺は後ろに押し倒される。

 反射的に目を瞑っていて、目を開けてみると俺の上半身に奈菜美が抱き着いていた。

 洋服は昨日の夜と同じベージュのキャミソール。

 下は流石に短パンのジャージを履いていたが、それでもかなりエロく見える。


 「ああ起きた。おはよう、奈菜美」

 「もう、ほんとに遅起きですね」


 布団の中に潜り込んでいたスマホを探して見つけると、俺は電源を点けて時刻を確認した。


 10:28


 そう表示されたスマホを見て、俺は「奈菜美! 大学は!?」と少し焦り気味の声で言った。

 奈菜美はおかしそうに笑うと「もう、今日は休講ですから大丈夫ですよ」と微笑みながらそう言った。

 俺は安心し、ため息を吐いた後ベッドから降りた。


 「あ、真崎さんが起きてこないんで適当にトースト作っておきました」


 リビングに着き、二人で食卓に座る。

 目の前には奈菜美が作ったであろうハムとチーズが乗せられたトーストが皿に盛りつけられておいてあった。


 「奈菜美が作ったのか?」

 「そうですよ? え、私が料理出来ないとでも思うんですか?」

 「いやいや、そう言う訳じゃないよ」


 少し前までは当番制にしようと二人で話し合っていたが、奈菜美は大学の疲労がかなり激しいらしく、料理は結局俺が作っていた。

 まあ、大学の講義はそこまでらしいが人間関係が特に面倒だと言っていた。

 女の子だし、俺の高校でも大学でも女の子同士のいざこざは多々あったので否定などはしなかった。

 

 「まあでも、トーストは材料乗っけてトースターに入れるだけだしなぁ」

 「ん、何か言いましたか?」


 笑いながらこちらを見て来る奈菜美。

 無論、目に光は無い。


 「トーストなんて大層な物を作れる奈菜美に感心していた」

 「ふーん、そうですか」


 小さな口でトーストを食べ進めて行く。

 最近感じたが、奈菜美が何をしていても可愛く見えるようになってきた。

 これが恋をしているということなのだろうか。


 まあいいや、とりあえず今は奈菜美と関係を築いて行って、お互いにもっと信頼を深めて行こう。 

 

 「奈菜美の作ったトースト、美味しいよ」


 俺がそう言うと彼女は嬉しそうに「え、ほんとですか!?」と言う。

 

 こんな日常がこれからもずっと続いて行くのか。

 そして、結婚したらもっと、もっともっと奈菜美の事を好きになれる。

 

 俺はほのかに笑うと、奈菜美の作ったトーストを食べ


 「奈菜美、これからもよろしくな」

 「えっ、はい! こちらこそ、これからもよろしくお願いします!」


 今日のような日々がずっと続けば良い。

 そんな風に思えた朝だった。




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初めましての方は初めまして、竜田優乃と申します。

まずはじめに、ここまでこの作品を読んでくださった皆様、ほんとうにありがとうございました。

私自身、物語を完結させるのが初めてでして、歯切れの悪い完結になってしまったかもしれません。

そこはすみません。

ですが、誰か一人にでもこの作品が受け、そして楽しんでもらえたのならとても嬉しい限りですし、今後の創作活動の励みになります。


ランキングにも載っていたみたいで、確かラブコメ週間が最高19位、総合週間が89位?とかだった気がします。

沢山の人に読んで頂き、嬉しい限りです。


これからもまだまだ作品を投稿していく予定ですので、作者のフォローや作品のフォローの方をよろしくお願いします。

ではこれで、ほんとうにほんとうにありがとうございました。

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人生諦める前に人助けをしたらなぜか推しだった元アイドルに求婚されて人生諦められなくなった話。 竜田優乃 @tatutayuno

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