第30話 入浴

 服を全て脱ぎ、晒してはいけないものはしっかりと腰にタオルを巻いて見えないようにした。

 『別に、は、恥ずかしいとかそう言う訳じゃないんだからね!』と心の中で叫び、 俺は風呂に入る。

 

 白い壁、白い浴槽、バスタブとかいう豪華な形ではなくホテルなどによくあるタイプの一人用の浴槽。

 前回はこれに二人で入ったのか……そして今回も。

 なんか前回は緊張し過ぎてほとんど記憶に無いんだよな。

 いつ寝たのかもさっぱりだったし。


 タオルを巻いたまま浴槽に入るのはマナー的にはあまりよろしくないが、今回は勘弁してほしい。

 本当は凄く恥ずかしいのだ、分かってくれ。

 

 体をシャワーで軽く流し、俺は先に湯船に浸かる。

 遅いなと思いつつ肩まで入水、全身が温まっていき一日の疲れがだんだんと取れて行く気がする。

 

 室内が蒸され、かなり暑くなってきた。

 汗の量もだんだんと多くなり、奈菜美には早く来てほしい所だ。

 

 「えっと、入って良いかな?」


 そんな声がこもり気味に聞こえた。

 俺が「入って良いよ」と言うと奈菜美はドアを開け、バスタオルを体に巻いた状態で中に入ってくる。

 なぜか急に湯気が出て来て、奈菜美の姿をハッキリと見る事が出来ない。

 だが、大事な部分はしっかりと隠されている。

 

 「体流す、これ入れて」


 奈菜美は一つの袋を浴槽めがけて投げた。

 『ぽちゃん』と音を立てながら湯船に落ちる袋。

 俺はそれを拾い、パッケージを見てみると『Milk Bath bomb』と記載されていて、封を開けてみると中から白い球体の物体が出てきた。

 

 握ってみると水に反応しているのかパチパチと音を鳴らしながら溶けていく。

 少し触って遊んでから、湯船の中に落としてみる。

 すると、炭酸なのか泡を出しながらだんだんと溶けていき、そして透明だった水もいつのまにか牛乳のような乳白色になった。

 

 体を流し終わったのか奈菜美は一度風呂場から出て、ドア越しに「目瞑ってて!」と大きな声でそう言った。

 俺は指示通り目を瞑る。

 ドアを開ける音がし、どんどんと足音が近くなる。

 

 「よいしょっと」


 奈菜美の声が近距離で聞こえたと思ったのと同時に浴槽のお湯が溢れ出る感じがした。

 

 「目、開けても良いよ」

 

 奈菜美の声がし、俺は目を開ける。

 

 「えへへ、二回目だね」


 お団子にして一つにまとめた髪の毛が一番最初に目に入った。

 髪型一つで案外人は変わるものだなと思いながら、俺は奈菜美の顔を見る。

 暑いせいなのかそれとも恥ずかしさから来ているものなのか分からないが、奈菜美の顔はほんのりと赤く、そして何だか甘い笑みを浮かべている。


 「そ、そうだな」


 暑くなってきた。

 流石にのぼせそうだと思ったが、なぜか涼しい風がほんの少し入って来る。

 よく見るとドアが開けっぱになっていて、奥の方には扇風機も見える。

 どうやら、俺を上がらせないためにしっかりと準備をしていたらしい。


 「ねえ、そっち行っても良い?」


 ぐんと顔を近づけ、こちらに迫って来る奈菜美。

 俺の股間は限界を迎えている。

 幸い、乳白色のお湯のお陰でお互いに見られたくない部分は今のところは見えないようになっている。

 だが、肌と肌、物と肌が触れ合えば一発で分かってしまう。


 「いや、まだちょ――」

 「えい!」


 お湯が大きく波打ち、浴槽の外に溢れ出てしまう。

 だが、そんなものはお構いなしに奈菜美は俺に抱き着き、そして俺の胸を背もたれにするかのように頭を押し付けた。


 「ねえ、タオル巻いてるでしょ」


 感触で分かったのか、勇逸のガードも破られてしまう。

 奈菜美がお湯の中に手を突っ込み、俺の最後の砦を破壊した。

 

 「もう、なんでこんなの巻いてるの」

 「いや、それは恥ずかしいし……」


 奈菜美はタオルを浴槽の端にかけると、俺にもっともたれかかってきた。

 肌と言う肌が全て密着する。

 しっかりと肌のケアをしているのか奈菜美の肌は凄くスベスベしている。

 それに対して俺はケアの方法なんて分からない。

 そのため肌のコンディションは奈菜美と比べて一目瞭然、最悪だ。


 だが、奈菜美は俺の肌には気にせずにどっちかっていうと俺の下半身を気にしていたようだ。

 さっきから俺の股間が奈菜美の腰付近に触れていて、奈菜美が動くせいで凄く擦れる。

 本当に勘弁してください、動かないでくださいと俺は奈菜美に願う。


 「ねえ、さっきから当たってるし、なんか動くたびに息荒くなってるよ?」

 「いや、全然なってないって!」


 俺は図星をつかれ、激しく動揺した。

 そんな俺を見て奈菜美は楽しそうに笑い、そしてもっと密着させてくる。

 自分の肌と奈菜美の肌に押しつぶされる、それぐらい密着していただろう。

 何とは言わないが。


 「ねえ、真崎さん。後ろから抱いて?」


 不意にそんな事を言われ、従うしかない俺は奈菜美を後ろから抱いた。

 今抵抗したら、多分だがもの凄いスピードで駄々をこね、そして俺のとある部分が爆発するだろう。


 「えへへ、嬉しい。なんか凄い安心する」

 「……そっか、それは良かった」

 「何その反応、そんな反応するならこうだ!」


 奈菜美が腰を激しく上下に動かす。

 その奈菜美の行動により、俺の物は激しく擦れた。

 童貞ながらもなんとか耐えて見せたが、息は激しくなり、奈菜美の耳にかなり吹きかかってしまっただろう。


 「……やめてくれ、死んでしまう」

 「も、もう! それはこっちのセリフ! 息が凄い耳にかかって私も……私も……!」


 奈菜美は頬を膨らませながら俺の方に振り返ると、殴りやすいようにか少し距離を取りポコポコと俺の胸を殴り始めた。

 殴ると言っても冗談半分の軽いもの。

 ポコポコと俺の胸を殴る彼女は、小動物のようで凄く可愛い。


 「もういいです! 先に上がります! 良いですか? 上がって歯を磨いたらすぐに寝室に来てくださいね!」


 そう言うと奈菜美は体の事など一切気にせず、風呂場から出て行った。

 因みに、出て行くときに奈菜美の胸がハッキリと見えたのはここだけの秘密。


 ~~~


 奈菜美が着替え終わったのを確認して、俺も風呂場から出た。

 脱衣所で俺の服がまとめられた引き出しを開け、いつもと変わらず部屋着を着ていく。

 だが、俺の心はいつもとは違った。

 先ほど奈菜美と一緒に風呂に入ったという余韻もあるが、それよりも奈菜美が風呂から上がる際に言った言葉。


 【寝室に来てくださいね!】


 あれが心残りと言うか、頭の中でずっとリピートされてしまっている。

 ドライヤーで髪を乾かし、歯を磨いた後、俺は寝室に行く前にキッチンに来た。

 冷蔵庫を開け、作ってあったパックの麦茶をコップに一杯注ぎ、それを一気に飲み干す。

 頭まで冷たさが来て、冷たい物を食べた時に来る頭痛が来た。

 

 痛みに耐え、完全に痛みが無くなったのを確認して、ついに俺は寝室に向かう。

 重い足取り、絶対に何かある。

 そう思いながら寝室のドアを開ける。


 「……来た」


 扉を開け、ベッドの上にたたずむ奈菜美。

 クリーム色のキャミソールとそれと同じ色のパンツ一枚。

 薄着の奈菜美に驚きつつ、俺は一歩、また一歩と前を進む。

 固唾を飲み、目の前の光景を現実だと認識させる。


 俺の推しであり、俺の彼女が俺に対して心を開いてくれているからこそ、こんなにも薄着をしているのだ。

 そして、この先の事もきっと了承してくれる。

 

 「ねえ、早く来て?」


 俺がベッドに飛び込んでくるのを待っているのか、彼女は両手を広げて切なそうな表情をする。

 それがなんとも美しく、そして俺が生まれて初めて見る光景。

 

 「ああ、今行くよ」


 俺は重い足を無理矢理軽くし、そして彼女の胸の中に飛び込んだ。



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今日の9時頃、最終話あげます。

少し歯切れの悪い終わり方もしれませんが、最後まで楽しんで頂けると嬉しいです。

ありがとうございました。

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