13話 声を掛けられ……てた

 掲示板の前は、かなりの賑わいを見せて……というより、結構騒がしかった。


「ダンジョン5層まで、後衛募集中!!」

「剣盾いりませんか〜」

「ヒーラー! ヒーラーはいねぇが?」

「大盾拘束要員あと一枠! 誰か大盾持ちいないか?!」


(ダンジョンか。ギルドのパンフレットに載ってたけど、まだちゃんと読んでなかったな)


 ダンジョンってノルの森と反対方面なんだよなー、なんて考えつつ彼らを迂回して掲示板へ向かった。ノルの森は街の東、ダンジョンこと「黒鉄くろがねの地中廻廊かいろう」は北西にあるのだ。

 ちなみに後から知った話だが、この頃は数人が大盾を構えて敵の全方位を囲み、その隙間からチクチク攻撃する「大盾拘束」がダンジョンで流行っていたらしい。なおレベル依存ではないアルカディアではこの方法で倒してもステータスが伸びないといった欠点があり、すぐに廃れることになる。


「ねぇ君、可愛いね。後衛? よかったらうちのパーティに入らない?」


 掲示板を見て回るも、ノルの森での依頼がなかなか見つからない。フォレストゴブリンのフの字も見えない。


「ねぇ、無視しないでよ? 君もしかしてプレイヤーじゃなくてNPC? それはそれでありだからさ、一緒にどう?」


(お、ようやくノルの森関連の依頼発見。背が低いなりに頑張って上から見てたけど、ほとんどダンジョン関連だったな。森の依頼は人気がないのか……)


「おい、その辺でやめておけ。嫌がっているのだろう」

「なんだよ、ただ声掛けただけだろ? それにまだ断られた訳でもないし」


(んー、フォレストウルフばっかりだな……あ、みっけ。Eランク依頼クエスト「フォレストゴブリンの討伐と住処すみかの破壊」か。これにしよ)


「パーティーメンバーがすまなかった。どうか気を悪くしないでほしい」

「……はい?」


 依頼書をくわえていたクリップをフックから外してその場を立ち去ろうとしたところ、何故か目の前に頭を下げている人がいた。

 何か謝っていた気がするのだが、騒がしさのあまり人の声を意識から外していたので内容を覚えていない。


「すいません。聞いてなかったんですけど、どうして頭を下げているので……?」

「む、うちのパーティーメンバーの勧誘が煩わしくて無視をさせてしまったのかと思ったが、早とちりであったか。失礼した」

「ぐはっ、ゲームでも俺は女の子に相手にしてもらえないのか……」


 聞くとどうやら、知らぬ間にパーティーの勧誘を受けていたらしい。意図せず無視してしまったようだ。

 奥で崩れ落ちてる軽そうなイケメンが勧誘した所を目の前のさっぱりした感じの男性がとがめたらしい。

 古風な口調の彼は道着や和服、あるいは詰襟つめえりや軍服が似合いそうな感じだ。アルカディアではあまり見かけないタイプで、反射的に脳内で着せ替えしてしまった。

 が、本来は逆の立場である。


(あぁ、この見た目だとナンパとかされる可能性もあるのか)


 今回の場合はこちらの経験不足から起こった悲劇だろう。若干の下心がありそうとはいえ、パーティーのお誘いをしただけの一人のイケメンが心の傷を抉られてしまった。まぁ、ここはゲームなのでイケメン率は高いのだが。

 むしろ初手で大騒ぎにならなくて良かった。犠牲になった彼には黙祷もくとう


「うむ。そんな訳で我らがパーティーには後衛をになえる者がいないのだが、弓矢か魔法に覚えはないだろうか? ちなみにダンジョンへ向かう予定だ」

「おい、俺にはやめろって言ったじゃないか」

「早とちりですまなかったが、あれはそもそも声が届いてなかったらしいのでな」

「ぐおぉぉ……!」


 まぁ、そんなわけで招待された訳なのだが……


「ごめんなさい、今のところ遠距離は専門外で…… それにこの後待ち合わせがあるので」


 訓練の合間に魔法スキルの熟練度も上げてはいるのだが街中で派手な魔法を練習する訳にもいかず、今使える攻撃魔法は至近距離で発動するものばかりなのだ。生活関連で便利な魔法はそれなりに覚えているのだが。

 そもそも今日は、アイリさんとフォレストゴブリン狩りの約束だ。


「そうか……ならば仕方あるまい。いずれ共に戦える機会があることを楽しみにしている」

「こちらこそ、その時はよろしくお願いします」


 武闘家風の彼と握手を交わしてから受付で依頼を受注し、冒険者ギルドを後にする。


(あ……多分初めて話したプレイヤーだし、せっかくだからフレンド登録しておけば良かった)


 一度もフレンド機能を使ったことがない=ぼっち、という図式がぎった頭を振り、アイリさんが待つ風の門へ小走りで向かった。

 少し待たせてしまっただろうか。



ーーーーーーーーーー


「ふむ……やはり前衛だったか」

「ん? 知ってたのか?」

「いや、身のこなしから少しそんな雰囲気がしただけだ」

「へぇー、そんなん分かるのか。スキルじゃないんだろ?」

「ああ。勘のようなものだと思ってくれていい」

「そんなもんか」


 レイはアイリさんによって順調に鍛えられております。

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着せ替えしたくてフルダイブ。少女の姿でMMO 由月みる @Mill_Yuduki

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