血液

機代 神(Kishiro Jin)

血液

 私は人を殺した。凶器は包丁。いたってありきたりで、平凡な凶器。


 滅多刺しではなく、心臓を一突き。


 流れる血液の色は目に刺さるほどに真っ赤で、月明かりを反射する。


 少しどろっとしていて、生温かい血液が、床へと容赦なく流れていく。


 だが、その人は、笑顔だった。


 特に、この世界に不満があったわけでもないのに。


 何か辛いことがあったわけでもないのに。


 ただ、笑って、死んだ。


────────────────────


 私は殺された。包丁で心臓を刺された。刺されてからも少しの間意識があった。


 月明かりがとても眩しくて、生温かい血液が流れていく感じがとても気持ち悪かった。


 犯人は私をとても恨んでいた。私自身も私が恨まれるような人間だと分かっていた。


 だが、その人は、笑顔だった。


 この世界から恨めしい人がいなくなるからじゃない。


 辛い感情を心の奥に押し込めるためでもない。


 ただ、笑って、殺した。





私は、私を

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

血液 機代 神(Kishiro Jin) @DeusExMachina2000

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る