エピローグ
「というわけで、前任の
月曜日の放課後、
──緊急事態なんだよおおおッ(ビックリ顔文字)
というメッセージが送られてきてボランティア同好会の部室に召集をかけられたかと思えば、保坂先生から新顧問就任宣言をされて本当に
「先生、なぜそんな事態になったのでしょうか。まさか、真正お嬢様部に吸収合併とか?」
意流風先輩が平静を装った(恐らく心はパニック本当は状態)口調で挙手をした。保坂先生はひとつ頷いてから説明をする。
「端的に言いますと前嶋先生が顧問を務める
保坂先生の説明で意流風先輩はフゥ安心と息を吐いて着席した。が、先生はツカツカと意流風先輩の側に近づくと、机の上に無防備に置いてある部室の鍵をヒョイと取り上げた。
「ただし、この部室鍵はこれからは先生が預かります。前嶋先生はそこら辺はちょっと無頓着が過ぎましたからね。自由に
「あぁ~っ、休み時間のオアシスが終了してしまうのかぁ。こっそり借りっぱなしにしていた罰だろうか……」
意流風先輩、別に
「それと、部活アプリもお嬢様部と纏めて先生も確認しようと思います。調べてみると君はちょっとひとりでボランティア同好会を頑張りすぎてるようですからね、これからは先生も少しは頼ってください」
「大街先輩、微力ながら私たちもこれからは協力いたしますわ。どうかご無理をなさらずに」
「はい、これからは大街先輩もお姉さまとなるわけですし」
「困った時はお互いさまですよね意流風お姉さま」
「保坂先生、君たちいぃ。あぁ、ダメダメ涙が出ちゃったらカッコわる……ん? ところで、そのお姉さまというのはなんだい。なんだかちょびっとこそばゆいのだけど?」
「「尊敬する方と目上の先輩方は全てお姉さまと呼ぶのがお嬢様部のお決まりですので」」
「ひえっ、別にアタシはお嬢様部というわけではないんだけどっ。お姉さまなんて呼ばれるつもりは、ああぁ~、でもぅ~悪くはあ~ないよう~なあ。
ポンコツが見え隠れしているという事はなんだかんだ嬉しいんだろうな意流風先輩。ん、ということは、ボランティア同好会所属な俺も「お兄さま」なんて呼ばれてしまうんだろうか。おウマさんゲームのトレーナーさんのように儚き
「「あ、後安郎英先輩も「色々」とよろしくお願いしますわね」」
う〜ん、どうやら男子は特別にはなれないらしい。しかし、君たちなんだいその
「しかし、ボランティア同好会に顔を出せるのは君たちしかいなかったんですね。てっきりこの前の美化清掃に参加していた三人も部員だと思っていました」
不意に目が合った保坂先生がこちらを見つめながら口を開く。確かに、いま部室にいるボランティア同好会は俺と意流風先輩の二人だけだ。というか、本当に顔合わせをしているボランティア同好会は俺たち二人だけなんだけども。他の幽霊部員の方々には未だに会った事も無いよ俺は。
「柳楽さん達は、後安くんを通じてあの日限定で助太刀してくれた本当の意味で私たちのボランティアだったんですよ。引き続き同好会に入ってくれないかなとは思ったんですけど、さすがにこれは無理強いするわけにはいかないですしね」
ちょっと寂しそうな口調で意流風先輩が保坂先生に丁寧に理由を説明をする。先生も頷いて納得しているようだ。しかし、もしここに三人が揃っていたら意流風先輩も嬉しいだろうな。いや、昨日のスズネちゃんとのデートと様子の少しおかしかった美咲花の事を考えると俺はちょっと気まずいかも知れないなあ……。
「そうですか、仲が良さそうだから勘違いをしてしまいました。確かに部活は無理強いをするものでは無いですからね。すると、ここにいる後安くんの方はボランティア同好会に在籍しているということでしょうか?」
「へあ、ああっ、はいはいっ、幽霊部員だったんですけどこの前から正式にッ」
俺は急に話を振られてしどろもどろに答えてしまった。どうにも慌てたように見えたのか、先生の太眉が不思議そうにピョコと動いた。いや、昨日のスズネちゃんとのデートや様子のおかしかった美咲花の事を不意に思い出してるところで話を振られて声が詰まってしまっただけなんですけど。あまり詮索されるとボロが出て意流風先輩に根掘り葉掘りとほじくり出される気がするので、別の話題を探そうと保坂先生の姿を見て、咄嗟に言葉が出た。
「ああ、そういえば保坂先生、普段の服装は違うんですね。この前はジャージ姿だったのでなんだか新鮮ですよ」
保坂先生は黒のカーディガンに薄ピンクのカットソーブラウス、白いスカートを併せたピシッと決まったオシャレさんな服装だ。小柄ながら背筋をスクッと伸ばした姿勢の良い立ち姿と合わさってよく似合っている。あのジャージ姿もなかなか様になっていて似合っていたけど。
「あの時は美化清掃ということでジャージの方が動きやすいというのもありましたからね。普段もジャージを着ることはありますけど、先生は学校ではこの服が
「へぇ、その服とてもよく似合ってますよ。名前と同じモモ色を併せてるオシャレ感もスゴくいいですね。本当にちょっと見惚れてしまうというか」
「……はあ、そっすか」
あれ、先生がなんか目をすんごく細めて冷めた表情で肩を竦めてるんですけど。俺、なにか先生にマズイ事を言っちゃっただろうか。
「後安くん。君は恐らく
「いやいや先生、俺がイケメンとか冗談キツいですよ」
「いや君は、マジモンで自覚無いんでしょうね。 ハハ、なんだか学生時代のヤキモキを思い出しますよ。君はまったく別なタイプっすけど」
「保坂先生の学生時代?」
「ん、先生の話はいいから、話を進めて──」
「──いや、ちょっと待ちなさい後安くん」
「そうです、お待ちなさいですわ」
先生が話を進めようとしたら横からちょっと待ったコールが入った。意流風先輩と大和屋さんがグイと両サイドからこっちに詰め寄ってくる。
「な、なんでしょうか」
「いや、なんでしょうかじゃないんだよ後安くん。なんだい今のは、まさか保坂先生をターゲットインサイトしてるんじゃないだろうね。ダメだようそんなのっ、禁断の扉は開けるものじゃないんだよっ。学生はね健全なお付き合いからスタートするべきなんだっ。歳の差は一歳差くらいがちょうどいいと思わないかい?」
「そうですわっ、よ、よりによってモモちゃんにだなんてっ。んっんんッ、とにかくわたくしたちのマムはお触り禁止ですわよ後安先輩! それに先輩にはもっと相応しい相手がきっと、いや、それが私と言ってるわけではなくってですね。私は
「「きゃっ、大胆なお姉さま達ですわっ。これは修羅場の香りですわっ。妄想すこぶりますわっ」」
いやいやちょっと落ち着け落ち着けストップ・オブ・ストップしなさい君たち、別に先生相手によからぬ気持ちなんて持ちませんって、先生もなにか言ってあげてくださいよ。
「いやぁ、他人事なら面白い展開なんっすけどねぇ。ポップコーン片手にコーラをグイッとして眺めていたいっすわ」
保坂先生あなたも意外といい性格してるんですね。こら、エアコーラをキメてないで、顧問パワーで何とかこの方達をお静めくださいっ。
「ああ、はいはい。よーし君たち、後安くんが気の毒になってきましたからそこまでにしてマジメにやりましょう。あと、先生の好みは年上なオジンカイザーなので心配するような事はミジンコも起こらんから大丈夫です。そもそも生徒とご法度な関係にはなりません」
先生がササッと間に入って皆さんを鎮静化してくれたが、そんな興味なしに言われるとなんかモヤッとするなぁ。いや、別に先生が年上なオジンエンペラーGが好きだろうといいんですけど。今の俺はスズネちゃん──
「すいませぇ~ん。遅くなりましたァ」
──と美咲花の事で、て、あれ、スズネちゃんっ。
「はい、呼ばれて飛び出てスズネちゃんとやってまいりしたよぅ。あれれぇ、ヤマヤちゃん達までいて賑やかさんですねぇ?」
いつも通りなホンワカ笑顔でスズネちゃんがヒョコッと廊下から顔を出してキョロキョロンと部室を眺めている。
「ど、どうしたの突然?」
「突然ではありませんよぅ。ちょっと遅くなりましたけど、スズネもボランティア同好会として緊急事態と言われれば参加しなければいけませんと思いましてぇ。よっとぉ」
スズネちゃんは軽やかな足取りで部室に入るとシュタッと可愛さしかない敬礼をする。
「はい、といことでスズネことボランティア同好会所属一年生知念鈴音はスーパーリアル系なニューパワードスズネとしてやってまいりましたぁ」
「す、スズネくんっ。スーパーとかリアルとかはよくわかんないけど、その発言の通りにボランティア同好会に所属してくれるという事かい。嘘ついたらハリセンボン飲まないといけないんだよ?」
スズネちゃんの宣言に意流風先輩が指を振るわせながら再確認をしてくる。
「ネイティブスズネはウソつきません。ハリセンボンは海に返しましょう。信ずるスズネを信じれば救われハッピーです。それにぃ、ボランティア同好会に入れば放課後はろうえい先輩と一緒にいられるじゃないですかぁ。もう火の中水の中、空陸海宇宙にだってS適正で飛び出しちゃいますよぅ」
「ど、動機は不純でも今なら大歓迎だよ。ウェルカムトゥースズネくん。あ、忘れちゃいないと思うけどボランティア同好会には長である私もセットで付いてくるんだからね」
隠しきれない嬉しさと何かを警戒してるような複雑さが顔に出ている意流風先輩は両手を広げて全力歓迎のポーズを取る。
「あの、わたしもいるんですけど?」
と、言いながら控えめに部室に入っきたのは──え、美咲花っ。
「ミ、ミサカくんも入ってくれちゃうのかいっ」
「わたしは、仮入部で様子を見たいと思いますけど、まぁその、他の部活にも入ってはないですし……」
チラリと流し目な
「たとえ仮でも来るもの拒まず大歓迎さ。す、すると最後の一人はもちろん」
俺と美咲花の事などは露ほども知らない意流風先輩は期待に満ちた目を隠さないで美咲花の後ろをキョロキョロと眺める。
「いや、しろぼうはいないんですけど、一応動画を預かってきたので、どうぞ」
美咲花は期待値上げまくってる意流風先輩に申し訳なさそうに自分のスマホを差し出す。先輩は「そうなんだぁ」と肩を落とした八の字眉下がりでスマホを受け取って動画を開く。
『ヤッホー、おマッチせんぱい。サプライズてのやりたかったからミサちゃんのスマホから失礼すっからごめんなさいなっ。ボウシさんにも色々事情があってよ、部活には入れないんだけど、なんかあったら助太刀には必ず行くかんね。あっはははっ、同郷としてせんぱいの活動は応援してっから、んじゃサイナラッ!』
なんとも下城らしい喧しさ全開な声が流れて一方的に動画は終わった。たぶん、動画内では芸人らしいポーズを取ってたんだろうけどそれを知るのは意流風先輩だけだ。等の先輩はグスンとした顔をしながらもなんだか嬉しそうに口端を上げていた。俺の知らない所で意流風先輩と下城にもなにかあったのかも知れないな。
「あの、ちょっと郎英お借りします。こっち来て」
「え、ちょっ」
しみじみとしていると突然、美咲花に廊下へと拉致られてしまう。
「な、なに?」
昨日の事もあるので個人的には二人きりは気まずいのだが。
「昨日の事は忘れていいから」
「え?」
「忘れていいって言ってんでしょ。昨日はどうかしてただけなんだから」
「り、了解しました」
キッと強めな
「まぁ、でもその、わたしは……」
ん、なんか声が小さくなったんだけど、どうした──
「──ちょっと待ちたまえミサカくん。幼なじみの独占権を行使しすぎじゃないのかいっ」
「そうですわっ、今は間違いのない部活中ですのよ。早く部室に戻ってくださいましっ」
「「きゃっ、ワクワクなトライアングル関係ですわっ」」
「ちょっ、別に郎英を独占してるわけじゃないですって」
部室からみんながワッと寄ってきてなし崩し的に美咲花との話は終了してしまった。部室の奥では保坂先生がまたエアコーラをキメながら眼を細めてるし、あれはわかるぞ、面白がってるって。
「ようし、ろうえい先輩」
「え、スズネちゃん?」
みんながわちゃわちゃとしている間にスズネちゃんがスッと俺の手を掴んでにこやかな
「皆さぁん、ろうえい先輩の隣はスズネがいただきましたよぅ」
俺の手を引っ張って部室の中へと引っ張った。
「「「あ、ズルいっ」」」
後ろから、なんだかもうちょっと一悶着ありそうな声が響いてきた。
ああ、これからもっと俺の周りが騒がしくなりそうな予感がする。
了
俺のことが好きなの? もりくぼの小隊 @rasu-toru
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