0-2 創世神話

 始めの世界にはまだ何も無かった。


 生まれたばかりのその空っぽの世界は、その世界と同じく、生まれて間もない双生の神の為に創られた。

 父である大神より新たな世界を託された双生の神は、それを明けと暮れの二つに分ち、共に守り育むこととした。


 幾千幾万の明けと暮れとを繰り返し、やがて世界は、生命の源が胎動を始めるまでになった。

 双生の神は歓び、より一層我が子となる世界を慈しんだ。


 一方の神は、生命を光の中に置きたがった。

 陽の光の中で、明朗であることを良しとした。


 もう一方の神は、生命を陰の中に置きたがった。

 月の陰の中で、静謐であることを良しとした。


 異なる主張が少しずつ軋轢を生み、いつしか互いを疎ましく思うようになっていった。

 そしてとうとう、双生の神は争いを始めた。


 それまで過ごしたのと同じくらいの永い時が、幾千幾万の明けと暮れとが、互いを憎み傷つけ合って過ぎ去っていった。

 争いを始めた理由すらも忘れ、ただお互いを憎み合うために憎み、傷付け合うために傷付け、双生の神が流す血は、いつしか大海となって世界を満たすまでとなった。


 そして、永遠と思えるほどの戦いの果てに、双生の神の一方が、大海の果て無き底に沈んでいった。


 沈みゆく半身の姿を目の当たりにした神が勝者の歓びに震えたのは一瞬のこと。

 みるみるうちに歓びも憎しみも溶けるように消えていった。

 ただ悲嘆に暮れ、深い悲しみと共に一方のみが残された。


 悲嘆に暮れる残された神は、涙を流し、流す涙が世界を満たす血を清め、深い悲しみが大海を黒く染めた。


 半身を失い、傷付き憔悴した神は、やがてその身を横たえ瞼を閉じた。

 眠り続ける神の身体は、いつしか大海に浮かぶ大地へと変わり、世界には大海と大地だけが残された。


 それを知った父なる大神は、その双生の神の行いに激しく怒り、またその結末を大いに悲しんだ。

 そうして二粒の尊き涙を零した。


 一粒は、世界を満たす黒き海の果て無き底に。

 もう一粒は、何も無い大地に。


 そしてその涙から命がうまれ芽吹き、眠る神を慰めるうたを歌った。

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