第一章 17.雷避けの日傘を試します
急ぎ王城に戻り、向かったのは、〈魔術師の庭〉と呼ばれている円形広場である。
たまに、危険を伴いそうな魔術を試すときに使っている。魔術師ならば一応誰でも使用できるのだが、建物を破壊する規模の魔法陣を展開させられる人間なんて、フィルオードしかいない。なので、ここは実質王弟殿下専用のお庭だ。
フィルオードは広場の真ん中へ行くと、青空に向けて日傘を開いた。
「ジェイク。これを持って、ここに立っていてくれ」
何気なく木の持ち手を差しだされるも、ジェイクは受け取らず、じりじりと後ずさり。
「まさか、ここに雷を当てようというのでは……」
「察しがいいな。そのまさかだ」
「危ないじゃないですか。死んだらどうしてくれるんです」
「死なないように、防御の陣を発動させて」
「できないことを要求しないでください」
「根性なし」
「なんといわれても、無理なものは無理です」
妻を未亡人にするおつもりですか、と訴えると、フィルオードはようやく諦めてくれた。怖いお人だ。
ジェイクは、自分の代わりに棒を広場の真ん中に立てて、そこに開いたパラソルの柄を括りつけた。
二人して広場の端に移動したところで、フィルオードは手の中に魔法陣を浮かび上がらせ、パラソルに向けて無造作に雷を放った。
ぽいと小石でも投げるような気軽さだが、風に潜む水分を操り、中空に魔法陣を浮かび上がらせて一瞬で魔術を発動、なんて芸当は、王国広しといえども団長だけしかできない離れ業、曲芸である。
普通の魔術師は(といっても三十名しかいないが)、コリコリと紙や地面に魔法陣を描き、脂汗をダラダラ流しつつ魔力を込めて魔術を発動する。
考えるだけで疲れる。そう思っている間に、日傘に雷が命中した。
吹き飛んで炎上か、と一瞬身構えたが。
傘は燃え上がりもせずに、模様がふわっと光り輝いただけ。
「あれ……?」
瞬きしている間に、光は収まり、普通の日傘に戻った。
フィルオードが駆け寄っていく。ジェイクが止める暇もなく、括りつけられている傘にぺたぺたと触れた。
「成程、熱いな」
ジェイクも触ってみると、確かに熱かった。しかし、真夏の太陽光に晒された布ほどの熱さだ。べったりと触れば、あっちっち、となるが、燃えるほどではない。
それよりも。
雷撃をモロに受けたのに、なんでこの日傘は平気なんだ?
まさか本当に、これは魔具?
だけど、魔法陣は一体どこに?
「……製作者を、探しだしたほうがよさそうですね」
ジェイクは日傘を睨みながら、上司の命令を先まわりして口にした。しかし、
「うん……」
フィルオードは迷うふうに日傘を見下ろしている。
「いや……、もう少し泳がせてみよう」
思慮深そうな口ぶりだが、上司の形のよい唇から、この台詞が出たときには、要注意。
「団長……、こっそり日傘の作者を見つけだして、独りで接触を試みようと思っていませんか?」
「……そんなことは、ない」
否定しつつ、フィルオードは日傘を棒から外し、そわそわした手付きで畳んでいる。こちらと目を合わせようとしない。
いや、絶対、単独行動しようとしてるだろ!
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次回更新は8月30日(火)7:00です。
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