第一章 15.噂の日傘


 城下街の中心にあるフルル通りでは、毎週花の日と、月末の虹の日に市が立つ。


 近隣の領からも様々な農作物や加工品が持ち込まれ、狭い通りに人がひしめき合う。

 通常、城下街の警らは、四つある騎士団の第三隊の担当で、常時揉め事などに対応に当たっているが、花の日には特別に、魔術師団からも人を出している。

 一週目から四週目まで、若手の六名ずつで二十四名。

 五週目の余り日は、フィルオードが担当していた。

 虹の日の市は、花の日よりも揉め事が格段に少ないといわれている。皆、命は惜しいのかもしれない。


「今日も賑わっていますねぇ」

 市の人込みに足を踏み入れながら、ジェイクは並んで歩く茶髪の若者にいった。

 目立つ白金の髪色を、魔術で変えたフィルオードである。


 いつも思うけれど、わざわざ茶髪にする意味、ないよね。


 王国魔術師団の漆黒のローブを纏って、半端ない威圧感をまき散らしていれば、髪が何色であろうと、すぐに孤高の聖剣様だと知れてしまう。


 ほら、いまも、姿を目にした者たちが、「ひっ」と悲鳴を上げつつ道を譲った。

 自分たちの周りだけ、妙に人がいない。

 まあ、歩きやすくていいんだけれど。


「そうそう、小耳に挟んだのですが、最近、城下で雷避けの日傘が流行っているらしいですよ。〈差せば雷が避けていく〉という謳い文句で売られているそうで」

 のんびりと周囲に目を配りつつ、ジェイクはいった。

「元々、雷が多い地方の町で売られていたのが、じわじわと広まって、王都までたどり着いたとか」

「雷避け――」

 フィルオードが低く返した。

「まるで魔具のようだが、本当に雷が避けられるのか?」

「どうでしょう。文様が刺繍されているだけの、普通のパラソルらしいですから。本当に効果があるか、怪しいですね。お守り的に求める者が多いのかもしれません」

 実際、雷が避けられるならば大したものだが、雷避けは上級魔術。雷避けの魔法陣を発動するのに、どれほどの魔力が必要か。

 明るい髪色の者――灰茶髪のジェイクでも無理。

 灰煙色の〈四方〉の爺婆様だって、苦労するかもしれない。


「……それは、どこで売られている?」

「それが、市で時々見かけるだけで、ちゃんとした店の商品ではないようで――」

「ちょいと、そこの美人のオニイサン! うちの商品、見てっておくれな!」

 藪から棒に中年の女が、ぬっと二人の目の前になにかを突きだした。


 うわっ、命知らず!


 魔術師団長の行く手を阻むなんてと、ジェイクは咄嗟に身構えたが、フィルオードは女を咎めることも、攻撃防御の魔法陣を展開することもなく、ただ足を止めただけ。

 女が握っている細長い物を見つめている。よく見れば、それは日傘のようで――

「あれ? これって、まさか……」


「雷避けの日傘だよ! 贈物に一本どうだい? オニイサン!」

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