第一章 14.アリス、秘密の小商い始めます
まずは、花瓶敷き十枚から始めた。
一週目は三枚、二週目は二枚が売れた。
三週目は一枚も売れなかった。
どうも、「花が長持ちする」という口上を、怪しむ客が多いらしい。話半分でとジーナがいっても、みんな鼻白んで離れていくそうだ。
結局、ひと月が過ぎても、最初の十枚すら売り切れず。
「やめたほうがいいんじゃないかい、あの謳い文句」
とうとうジーナが言い出した。
「うーん」
もうちょっとだけ、とアリスはお願いした。
「せめて、最後の一枚が売れるまで待ってくれる?」
十枚目が売れたのは、それからさらに半月経った暑い日のことだった。
「売れたよ! アリスちゃん!」
王都から戻ってきたジーナが、アリスの姿を認めた途端、ぶんぶんと手をふった。
「しかも、追加注文まで入った!」
最後の一枚を買ってくれたのは、最初の一枚を買ってくれたご婦人だった。
子爵家のメイドをしている女性で、私室用に買い求め、一輪挿しをおいていたそうで。
――そしたら、彼に貰ったお花が、二カ月経ってもまだ元気なの! 半月もしたら萎れてしまうのが普通なのに。
謳い文句は本当だったと、女性はきらきらと目を輝かせたらしい。
「他のメイド仲間にプレゼントしたいから、あと二枚ほしいってさ」
「やったね!」
アリスは満面の笑み。
八角形の花瓶敷きはじわじわと口コミで広がって、アリスは用意していた百枚すべてを売り切った。
次にアリスが手掛けたのは、ジャムの布製蓋カバー。
今度はジーナ本人に売り込んだ。
「このカバーを掛けとけば、いつまでもジャムが長持ち! 花瓶敷きのときみたいに!」
「長持ち、ねえ……」
ジーナは半信半疑の顔で、布製カバーを指でつまんだ。そんなわけあるかい! と一蹴しないのは、「花が長持ちした」とお客さんから散々聞かされてきたからだろう。
「花瓶敷きと同じで、魔具じゃないんだろう、これ?」
「うん。でも大丈夫。試しにジャムの瓶に掛けてみてよ。長持ちするって気がする~って念じれば、絶対効果が出るから」
「なんだいそれ」
ジーナは苦笑しつつも、とりあえず使ってみるよと、蓋カバー十枚を全部持って帰った。
結果、採用。
「ジーナのジャムはカビが生えなくて持ちがいい」と評判になった。
手柄はジーナに独り占めしてもらい、アリスは顔の見えない職人として、せっせと蓋カバー作りに勤しんだ。
稼いだお金を、新たな魔法陣開発に注ぎ込んで。
こっそり、密かに。
極小魔法陣を仕込んだ商品は、生みだされ続ける。
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